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第1編 人事行政
第1部 政治任用〜主要諸国における実態〜
第2節 各国の状況
【ドイツ】
官吏はすべての国民に奉仕するものであり、特定の政党に奉仕するものではないとされ、職務遂行を中立・公正に行うことを義務付けられている。このため、官吏には強固な身分保障が認められているが、政策の企画立案に際し、政権の政策方針との一致を確保するため、各省の次官、局長、大使等の大臣に近いところに位置する特定の官吏については身分保障を緩和し、理由を明示せずに一時退職に付し、ポストから外すことが可能とされている。これらの官吏は「政治的官吏」と称されている。各省次官や局長の大部分は、連邦官吏、州官吏から登用されており、1998年の政権交代時には約半数が一時退職に付されている。なお、一時退職に伴い恩給の支給等手厚い経済保障措置が講じられている。 |
ブランデンブルグ門

連邦制の下、主として連邦が立法、州が行政と役割を分担。連邦固有の行政対象は狭く政府規模は小さい。連邦では議院内閣制がとられており、議会において選出された首相が政権を組織し、行政運営を担う。 |
ドイツは、16州で構成される連邦国家であり、連邦に広範な立法権が委ねられている一方、行政権は基本的に州固有のものとされ、連邦政府が自ら執行できるのは外交、国防、国境警備、税関等に限定されている。このため、連邦政府の規模は地方政府(州政府及び市町村政府)に比し小さい。
議会は、「連邦議会」(直接選挙による選出。議員数603人)及び「連邦参議院」(州議会から派遣される州の閣僚で構成。議員数69人)の二院制であり、連邦議会が優越している。
連邦首相は、連邦議会によって選出され、任期4年であるが在任期間は一般的に長い(シュミット首相:8年、コール首相:16年等)。首相は、議会に対し単独で責任を負う。大統領が以下のとおり象徴的役割を担うのに対し、行政運営の実権は首相が担う。
大統領は、「連邦会議」(連邦議会議員及び各州議会から選出された州議員で構成)で選出され、連邦と各州を等しく代表する立場に立ち、条約の締結、外交使節の信任・接受、連邦法律成立時の認証、官報への公布等の象徴的な役割を担う。
第二次大戦後1998年までは二大政党(キリスト教民主・社会同盟、社会民主党)のどちらかが自由民主党と連立政権を構成し(ただし、1966年〜1969年は二大政党による連立政権)、1998年以降は、社会民主党と緑の党とが連立政権を構成している。( 表18 )
●表18 ドイツの歴代政権

ドイツの公務員は、「官吏(Beamte)」と「職員・労働者(Angestellte・Arbeiter)」で構成される。官吏は公法上の勤務義務、忠誠義務を負い、公権力の行使にわたる職務を遂行する。他方、職員・労働者は公権力の行使にわたらない職務を遂行し、私法上の雇用関係にある。
官吏に適用される法令として、すべての官吏(連邦官吏、州官吏、市町村官吏)に共通のものとしては、1)「ドイツ連邦共和国基本法」(憲法に相当)の官吏関連条項、2)「官吏法大綱法」、「連邦給与法」及び「官吏扶助給付法」(恩給(Ruhegehalt)等を規定する)がある。
連邦官吏に適用される法令としては、「連邦官吏法」、「連邦懲戒法」、「連邦ラウフバーン令」等がある。地方政府官吏(州官吏、市町村官吏)に適用される法令としては、各州の州官吏法等がある。
職員の義務、勤務条件等は、連邦政府、州政府、市町村政府の職員に基本的に共通で「連邦職員労働協約」に規定される。労働者の義務、勤務条件等は、「連邦及び州の労働者に関する総則的労働協約」又は「市町村の労働者に関する総則的労働協約」に規定される。
官吏総数は約160万人(うち、連邦政府約13万人、地方政府約147万人)、職員・労働者総数は約295万人(うち、連邦政府職員・労働者約18万人、地方政府職員・労働者約277万人)となっている。( 図7 )
●図7 連邦官吏の構成(2002年6月現在)

次官、局長等の「政治的官吏」(約400人)は、政権の政策目標との一致の観点からいつでも一時退職に付され得る。一時退職の事由は明示する必要がなく、政権交代、大臣交代に伴う措置として活用されている。 |
各省は、大臣(Bundesminister)の下の1〜3人の政務次官(Parlamentarische Staassekret較e)と1〜3人の事務次官(Beamtete Staassekret較e)、事務次官の下に置かれる各局で構成される。大臣及び政務次官には通常、連邦議会議員が就任する。政務次官の主たる任務は議会対応で、本会議、委員会で適宜大臣の代わりに答弁を行い、議論に参加するが、省における政策形成過程には参画しないとされている。
官吏法大綱法は、その職務遂行に際し政府の政治的な意図及び目標と継続的に一致することを要する官職に就いている終身官吏は、いつでも一時退職(Einstweiliger Ruhestand)に付すことができることを法律で定めることができると定めている(31条)。こうした官吏は「政治的官吏」(Politische Beamte)と呼ばれている(官吏扶助給付法47条a)。一時退職とは将来再び任用される可能性を伴う退職のことである。一時退職制度により大臣は政治と行政の接点に政権の政策目標を効果的に実現することを保障するような官吏を充てることが可能となっている。以下においては、政治的官吏及び政治的官吏ポストに官吏身分を有さず契約により任用された者を政治任用者ととらえることとする。
なお、政治的官吏のほかに、課長級の官吏の中にも政権の政治目標達成のために政治色の濃いポストに在職する者が存在する。
(対象ポスト)連邦官吏法に一時退職に付すことが可能なポストとして以下が規定されている。
- ・ 事務次官及び本省局長
- ・ 外務職にある高級職官吏で給与等級B3以上の者及び給与等級A16の大使
- ・ 軍事諜報局、連邦憲法擁護庁及び連邦情報局の高級職官吏で給与等級B6以上の者
- ・ 連邦新聞情報庁長官、同長官代理及び連邦政府報道官代理
- ・ 連邦裁判所連邦検事総長及び連邦行政裁判所連邦検事長
- ・ 連邦兵役代替社会奉仕特命官
- ・ 連邦刑事庁長官
(注) 1 俸給表Bは、本省課長(Referatsleiter)級以上の官職に適用され、B3は本省課長相当官職。俸給表Aは本省参事官以下の官職に適用され、A16は本省参事官(Ministerialrat)相当官職。小国の大使はA16に格付けされる場合がある。
2 「連邦兵役代替社会奉仕特命官」は、兵役義務の拒否者に対し代替的に課される社会奉仕役務に関する企画立案の最高責任者。
政治的官吏のポスト数は連邦全体で約400で、このうち、本省の事務次官及び局長(Abteilungsleiter)ポストの合計は約130となっている(政治的官吏は連邦官吏の約0.3%)。
なお、政治的官吏ではないが、課長、参事官級のポストの中で、政治色の強い大臣室長、大臣秘書官、政務次官秘書官、事務次官秘書官、内閣・議会担当室長、報道官等のポストへの任用は事実上政治的配慮の下で行われていると言われている。こうしたポストの数は省の人員規模にもよるが1省当たり10〜20程度、連邦政府全体で約200となっている。( 図8 、 図9 )
●図8 ドイツの政治的官吏の概要

●図9 内務省本省における政治的任用者(2003年11月現在)

政治的官吏制度は、政府に反対する官吏の退職を可能にする目的で1850年代に導入。現在は、官吏の自律性の理念と政策に対する民意の反映とを調整する仕組みとして機能。 |
ドイツでは18世紀以降の絶対君主制の下、国王を代理して国を統治する機構として、メリット・システム(成績主義)に基づく任用や終身生活保障を基礎とする官吏制度が形成されていった。
政治的官吏制度が導入されたのは、立憲君主制のプロイセンにおける「懲戒法」(1852年制定)による。同法では、本省局長以上、州長官等の特定ポストに在職する官吏を国王が一時退職に付すことができると規定された。これは、当時、プロイセン議会議員の半数以上を占めていた官吏が議会において政府案に反論する事態を回避し、官吏の君主に対する忠誠を確保することを目的とするものであった。
ワイマール共和国成立(1919年)以降は、政治的官吏制度は、主として反共和国派(旧体制の支持者)の官吏を排除するために活用された。
その後、ナチス期(1933〜45年)にも、政治的官吏制度は存続した。前政権時代と異なり、官吏がナチス政権に反逆することはなかったが、ナチス独裁の下で官吏の個人的偏向等を理由として官吏を排除する場合に活用された。
第二次大戦後も、それまでの伝統を引き継ぎ、連邦官吏法(1953年制定)に大統領は特定ポストの官吏を理由を明示せず一時退職に付すことができるとの規定が設けられた。その目的は、企画立案の中核的存在である政治的官吏の政権の政策目標への同意を確保するためとされている。
(近年の変化及び最近の議論)政治的官吏制度自体は国民に受け入れられ安定しており、第二次大戦後も制度自体の変更は行われていない。これは、終身の身分保障を認める官吏制度と議院内閣制の下で政策に民意を反映させるという要請とを調整する仕組みとして、政治的官吏制度がその役割を果たしてきていることによる。
他方、政治的官吏の一時退職後の恩給にかかるコストに対する批判があり、1999年に政治的官吏のポスト数は外務省官吏を中心に約500から約400に削減された。
与野党において政治的官吏ポストの拡大についての議論はなされていないが、ポストの性質を考慮して政治的官吏以外のポストが政治的官吏ポストに転換される場合がある(1997年に連邦刑事庁長官ポストが政治的官吏ポストとされた)。
(4) 政治任用の任命権者、手続及び実質的な選抜方法官吏についてはメリット・システムに基づく任用が法定。政治的官吏もこの例外ではない。本省課長級以上の官職は閣議の承認を経て大統領が任命。本省参事官以下は大臣が任命。官吏身分を付与しない契約による任用も可能。 |
連邦官吏(政治的官吏及び職業公務員たる官吏)の任命権は大統領に属するが、実際に大統領が辞令に署名し任命するのは大臣、政務次官及び俸給表B適用者(本省課長級以上の官職)で、これ以外の連邦官吏の任命は大統領から大臣に委任されている。なお、政治的官吏及び俸給表B適用官職への任用には、閣議の承認が必要であるが、閣議において任用に対する異論が表明されることは実際上はない。
(任用手続及び実質的な選抜方法)1) 官吏から任用する場合
官吏は学歴等によって定められるグループであるラウフバーン(Laufbahn)に属する。ラウフバーンは単純業務職(Einfacher Dienst)、中級職(Mittlerer Dienst)、上級職(Gehobener Dienst)、高級職(Hoherer Dienst)の4階層で構成され、課長以上の官吏ポストはすべて高級職官吏で占められている。
(注) 高級職ラウフバーンに採用されるためには、大学卒業資格取得後、準備勤務(2年間)、ラウフバーン試験(又はラウフバーン試験に相当する第二次国家試験)を経ることが必要とされる。なお、法曹資格第二次国家試験は高級職ラウフバーン試験を兼ねているため、合格者は弁護士の開業も可能であり、弁護士勤務の後、高級職官吏に就くこともあり得る。このほか、上級職ラウフバーンに属する官吏は連邦人事委員会等の資格認定を受け高級職ラウフバーンに昇任することができる。
政治的官吏ポストを含む昇任官職への任用は、当該ポストの直近下位の役職段階又は同等の役職段階に在職する官吏の昇任、配置換によることが原則となっている。
官吏への任用については、ポストに空きが生じた場合、原則として、初任官職については部外公募が、昇任官職については部内公募がそれぞれ行われる。他方、政治的官吏ポスト及びこれに準じる政治色の濃いポストについては、連邦官吏法及び連邦人事委員会の決定においてこの原則の適用外とされ、公募は行われない。
実際には、次官については、大臣自身が自己の知り合いの中から人選するのが通例で多くは高級職ラウフバーンの連邦官吏、州官吏から選ばれる。
他方、局長については、次官の助言等を参考に大臣が主に省内の局長、部長ポストに在職する高級職ラウフバーンの官吏から人選するのが通例となっている。
なお、政治的官吏を含め官吏の任用は、適性、能力、専門的業績により行われ、政治信条を考慮してはならないこととされている(連邦官吏法8条)。政治的官吏の場合も、メリット・システムによる選抜基準を満たす者の中から、大臣が信を置く者を任用することとなる。実際に政治的官吏の約30%、次官の場合でも約10%はいずれの党派にも属していないとされている。政治的官吏の任用過程に議会は関与しない。
官吏(連邦官吏、州官吏等)を政治的官吏に任用する場合には「連邦人事委員会」は関与しない。これは、連邦官吏、地方政府官吏とも官吏身分は共通である上、任用が連邦政府内又は州政府内の相当職からの横滑り、直近下位の役職段階からの昇進によることが原則であり、当該段階までに能力、実績が実証されていると考えられるためである。
- ○ ドイツ基本法第33条第2項
- すべてのドイツ人は、適性、能力及び専門的業績に応じて、等しく、すべての公務に就くことができる。
- ○ ドイツ基本法第33条第5項
- 公務に関する法律は伝統的な職業官吏制度の諸原則を考慮して定めなければならない。
- (注)伝統的な職業官吏制度の諸原則とは、成績主義、終身任用、政党政治的中立、給与及び恩給等の請求権等である。
- ○ ドイツ連邦官吏法第8条
- 志願者は募集公告により求めるものとする。
- 募集公告の義務は次官、局長及び連邦各省直属の官庁の長の職には適用しない。
- ○ 連邦人事委員会決定
- 以下のポストは公募の例外とする。
- ・大臣及び次官の個人秘書官等
- 以下のポストは公募の例外とする。
官吏以外の者を政治的官吏ポストに任命する場合には、官吏の身分を付与して任用する方法と、官吏身分は付与せず雇用契約による方法とがあり、どちらによるかは各省が決定する。この場合も議会は関与しない。
官吏として任用するには、候補者が各官職に必要とされるラウフバーン資格を有しない場合には、資格審査(学歴、職務経験等)及び連邦人事委員会の同意が必要となるが、候補者が既にラウフバーン資格を有している場合には、連邦人事委員会の同意のみで足りる。資格審査要件が厳格であるため、資格審査を経て官吏として任用される例は少ない(1998年の政権交代時に局長以上で8人、政権交代時以外は政治的官吏全体で年間2〜3人)。
個別の雇用契約により官吏身分を付与せずに政治的官吏ポストに任用するのは、1)専門性の面では適任であるが官吏の資格要件を満たさず、連邦人事委員会の資格審査により同意が得られない場合、2)官吏に適用される給与ではその者の民間での給与を大きく下回り就任の受諾を得るのが困難な場合であるが、その件数としては年間4〜5件にとどまっている。
なお、政治的官吏以外の政治色の濃いポストへの任用に際しては、政治的官吏の場合と同様、ポストに空きが生じた場合の公募は行われない(連邦人事委員会決定)。官吏(連邦官吏、州官吏等)以外の者からの任用手続、連邦人事委員会の関与等の状況は政治的官吏の場合と同様である。
(5) 職業公務員との制度の違い(服務、身分保障)服務は官吏全般に共通。官吏の政治的活動に寛容な伝統。官吏には強固な身分保障がある一方、政治的官吏はいつでも一時退職に付され、これに対する不服申立の権利はない。 |
官吏身分は、各機関における準備勤務への採用時に付与される。また、各官吏が属するラウフバーンに対応する官職(Amt)への任命は、準備勤務及び見習勤務を経た後、改めて行われ、官吏身分の付与と官職への補職は制度上切り離されている(任官補職)。
(服務)政治的官吏、職業公務員たる官吏とも、官吏全体に適用される服務義務を遵守しなければならない。主なものとして、全国民に対する奉仕義務、政党政治からの中立性確保等の義務が課されており、このことは、連邦官吏法に規定されている。
政治的行為については、官吏といえども政治参加の権利を奪われてはならないとの伝統的な考えの下、政治的活動に寛容な制度、慣行が存在するが、政治的活動に当たっては、節度と自制を保たなければならないとされている。職業公務員を含め、選挙運動のために無給休暇が認められるほか、連邦官吏の身分を有したまま休職扱い又は勤務時間の軽減により州政府議員としての活動が認められている州もある。また、休職扱いによる政党勤務を経験するという慣行もある。連邦議員との兼職は認められないが、連邦議員を辞してから3月以内であれば前官職又は同等の官職での勤務の継続を請求することができる。
(注) 連邦官吏法第52条 官吏は一党派にではなく、全国民に奉仕する。官吏は、その任務を非党派的かつ公正に遂行しなければならず、職務の遂行に当たっては公共の福祉に留意しなければならない。
第53条 官吏は、政治活動を行うに当たっては、全体に対する立場及びその官職上の義務を考慮して必要とされる節度と自制を保たなければならない。
(身分保障)
官吏(職業公務員たる官吏及び政治的官吏)は準備勤務、見習勤務を経て終身で任用される終身官吏となる。なお、中途採用者の場合は、見習勤務を経て終身官吏となる。終身官吏の任用が終了するのは、定年退職、分限退職、政治的官吏の一時退職、勤務追放(懲戒免職)、自己都合による離職の場合に限定される。懲戒免職、自己都合による離職を除き、退職後は終身にわたり恩給制度の適用を受ける。
連邦官吏法において、分限退職は、身体的疾患又は身体的・精神的な能力の衰弱により永続的に職務遂行が不可能と判断され、かつ、他の職務にも就かせるのが不可能な場合に限定されるとともに、退職措置に当たっては、医師の判断、観察期間の設定、職員が希望する場合の「職員協議会」での意見聴取等の手続を踏むこととされるなど、強固な身分保障が与えられている。
政治的官吏は、理由を付さずに一時退職に付すことができ、その際、一般の官吏に適用される処分手続は適用されない。これが、政治的官吏と一般の官吏の官吏法上の基本的な相違点である。政治的官吏とは、いわば「特段の理由なく一時退職に付される官吏」と言い換えてもよい。政治的官吏には一時退職に対する不服申立の権利がない。また、一時退職に際し、連邦人事委員会及び議会は関与しない。
(6) 政治任用の人材供給源事務次官は主に連邦官吏、州官吏から任用。局長は主に同一省内から任用。次官、局長とも民間からの任用あり。 |
事務次官は、同一省内の官吏、他省の官吏、州官吏、議員(連邦議会、州議会)、民間から任用される。 表19 のとおり、現時点では官吏出身者が8割以上を占めている。議員から就任した場合、連邦議会議員の場合には連邦議会議員の職を失い、地方議会議員の場合には州によっては兼職が認められているが、政治的官吏の職務に専念するため、地方議会議員を辞職するのが通例となっている。
●表19 事務次官の就任前の所属先(2003年8月現在)

州政府出身者が9人と最も多いのが特徴と言えるが、このうち6人は、首相、大臣と同時期に州政府勤務を経験している。( 表20 、 図10 )
●表20 事務次官の経歴例

●図10 首相と首相府事務次官の州政府勤務状況(例)

局長の大半は、同一省内の官吏の昇進、同一又は他省の局長ポストからの横滑りにより任命される。他方、州官吏、裁判官から政治家の知人が任命される例もあるほか、ポストの特性によっては、民間等部外から採用される例もある(環境関連の科学者、家族問題・女性問題の専門家等)。
なお、政治的官吏以外の政治色の濃いポストには、省内の職業官吏から任用されるのが一般的であるが、秘書官には官吏以外の者が任用されることもある。また、報道官には、ジャーナリストから任用されることが多い。省内の官吏を任用する場合、人選は、局長が中心となって行う。かつての上司が政治的官吏となり、当時の優秀な部下等が個人的なつながりから任用される場合が多い。
(7) 在職中の役割(職業公務員との役割分担)政治的官吏は政策を具体化するため、大臣、与党と職業公務員たる官吏との間の橋渡し役となるとともに専門的、技術的立場から法案作成過程に関与。 |
- 1) 政治的官吏には、大臣の意向、与党の意向を政治的官吏以外の官吏へ伝達するとともに、大臣、与党が必要とする情報の収集・提供を官吏に指示する等、政治と行政との橋渡し役となることが基本的な役割として期待されている。
- 2) 特に大臣の政策アイディアを具体化するための法案作成過程において政党、他省、州との調整を担うほか、議会委員会において、専門的、技術的な事項に関し適宜大臣に代わり答弁する。
- 3) なお、連邦政府の業務は企画立案中心で、許認可、公共事業の実施、調達は限定的となっている上、そのような業務については会計担当の職員が処理しており、政治的官吏が直接関与することはほとんどない。
- 1) 秘書官:大臣、政務次官、事務次官の方針によって、秘書的な業務中心の場合と政策の助言者としての役割を担う場合とがある。
- 2) 大臣室長:大臣秘書官との職務分担は弾力的。大臣の職務に対する補佐、助言のほか、内閣の一員、議員としての大臣の補佐も行う場合がある。
- 3) 内閣・議会担当室長:閣議にかける案件の準備、閣議・事務次官会議についての大臣・事務次官への事前説明、議会質問に対する答弁の調整等を行い、日常的に議員、首相府と接触する。
- 4) 報道官:メディアに対する情報提供及び省に関する報道の分析を行う。
法案作成過程等において専門的、技術的観点からの検討、助言、情報提供を行い、上司である政治的官吏を補佐する役割を担う。
(8) 人材確保の誘因と処遇政治的官吏ポストはメリット・システムに基づく部内育成を基本とする官吏の任用過程の最終到達点。官吏の給与制度は政治任用者及び職業公務員たる官吏に等しく適用。契約による民間からの採用者には高い給与の支給が可能。 |
官吏の昇進は、終身の身分保障を前提とし、メリット・システムに基づく部内育成に基づき行われており、役職段階の最上位層に位置する政治的官吏ポストは、政策の具体化に果たす役割の重要性とも相まって昇進における最終到達点とみなされている。政治的官吏ポストへの任用はメリット・システムに基づき、政党色を有しない者の任用も行われている。
なお、政治的官吏以外の政治色の濃いポストに任用されることは、将来の政治的官吏ポストへの任用に有利な1ステップとみなされている。
また、個別契約により政治的官吏ポストに在職する者については、連邦政府の職務を通じて深めた経験が専門分野でのキャリアアップに有利に働くと考えられている。
(処遇)政治的官吏の給与は、一般の官吏と同様、俸給表A又は俸給表Bが適用され、俸給表への格付けは個別ポストごとに連邦給与法に規定されている。また、政治的官吏ではないが、政治色の濃いポストに在職する官吏にも、俸給表A又はBが適用される。( 表21 )
個別契約により政治的官吏ポストに在職する者の給与については、就任前の給与保障という点も考慮して、官吏身分を付与される場合の給与額を上回る給与が支給される場合が大半となっている。
●表21 官吏の給与例(2004年1月現在)

政治的官吏の退職後の再就職先としては州政府幹部、学界等がある。また、官吏身分を有する者について、退職後は手厚い経済的措置が講じられている。 |
政治的官吏は、大臣の交代又は政権交代により当然に一時退職に付されるということではない。前回政権交代時に、事務次官及び局長で一時退職に付された者は71人であり、その内訳は事務次官16人(次官ポスト総数24)、局長55人(局長ポスト総数112)となっている。また、これら全員が一挙に交代するのではなく、ある程度時間をかけて交代が行われる。
一時退職に付された割合が高いのは、次官のほか、重要政策の担当局長、人事局長、官房長等、政治との関係が強いポストにあった官吏か、政治色が明らかな官吏となっている。
これらの者の特徴は、一般的に出世が早い者であり、例えば、1998年に更迭された者の平均年齢は55歳で、採用後平均15年かけて50歳で政治的官吏ポストに就いている。これに対し、残留した者の平均年齢は59歳で、採用後平均23年かけて54歳で政治的官吏ポストに就いている(定年は65歳)。また、更迭された者の約70%は明らかな政党色を有していたとされる。
残留するのは、非常に優秀な場合、専門性の高いポストに就いている場合、政治色のない場合であることが多いとされている。また、複数の次官が在職する省では、その一部が残留する場合が多い。( 表22 )
●表22 1998年の政権交代時における事務次官、局長の進退の状況

退職時に定年(65歳)に近い場合は、一時退職の後引退することが多いが、退職時に比較的若い官吏は再就職するのが通例となっている。再就職先としては前大臣の紹介による州政府(連邦政府の前政権党が与党である州)高官のほか、大学教官、民間企業役員等の例がある。また、政治的官吏の大半は法曹資格を有しており(法曹資格第二次試験が高級職ラウフバーン試験を兼ねている)、退職後、連邦政府勤務という知名度を生かし弁護士を開業する場合もある。( 表23 )
●表23 1998年の政権交代後の再就職先例(連邦内務省次官・局長)

一時退職に付された官吏に対し、その後、政治的官吏ポストと同等以上のポストを連邦政府内で提示することは事実上不可能であり、一時退職に付された者が連邦政府内にとどまることは実際はない。また、連邦議会議員となる例はほとんどない。
なお、大臣室長、大臣秘書官、次官秘書官等、政治色の濃いポストに就いていた者は、政権交代時に当該ポストから外れるのが通例となっている。官吏身分を有する者は、人事当局が政治色の薄いポストへ人事異動させ、民間から任用された秘書官、報道官等は大臣の紹介等により連邦政府外で再就職する。
(再就職規制)退職後の再就職については、官吏全般に適用される規制に従う。すなわち、退職後5年間に行う公務外の活動(再就職、自営等)についてはすべて届け出る必要があり、再就職が許可されない場合は本人に通知される。他方、問題がない場合には通知はされない。再就職が許可されなかった例として、国防省の元事務次官が軍需関連企業の役員になろうとした場合、元大使がかつての任国においてドイツ企業の現地代表となろうとした場合がある。
(年金)1) 政治的官吏
一時退職に付された場合、一時退職後3月間は給与が全額支給された後、政治的官吏であった期間に応じ最長3年間は最終給与額の71.75%の恩給(割増恩給)が支給され、それ以後は一般の官吏と同様に通算勤務年数に応じた恩給が支給される(勤務年数40年の場合、最終給与額の71.75%)。
他方、官吏(連邦官吏、州官吏等)としての通算勤務年数が5年未満の場合には、一時退職後3月間は給与全額が支給され、その後、政治的官吏であった期間に応じ最長3年間、転職給付金として最終給与額の71.75%が支給される。
恩給は無拠出で、全額政府が負担する。退職後の恩給措置が手厚いことから、政権交代により退職する官吏への恩給コストに対する国民からの批判がある。例えば、1998年の政権交代に伴う政治的官吏の退職にかかる恩給等のコストは、約5,000万ユーロ(約65億円)とされている。
2) 個別契約により政治的官吏ポストに採用された者政権交代、大臣交代時に、雇用契約が終了する。終了後の経済的保障措置はない。
(10) 我が国との背景の違い政治的官吏の主たる人材供給源はエリート職業公務員。連邦と州で官吏制度の大枠は共通であること、首相、大臣の大半が州政府要職の経験を有することが政治的官吏の人材発掘、再就職に寄与。任官補職の官吏任用制度と政治的官吏に対する手厚い経済保障措置。官吏には強固な身分保障あり。 |
政治的官吏を含む官吏は、社会の部分的利益を越える国家的利益を実現する者とされ、特定の政党に奉仕する者ではないとの伝統的な理念がある。その下で、官吏の政治的活動に寛容な伝統があり、官吏には自制と節度を伴う政治活動が許容されている。このようなことを基礎として、政権交代の経験を通じた政治任用に関する安定した慣行が培われている。
政治的官吏は部内育成された専門性、経験を有する職業公務員たる官吏(高級職ラウフバーンに属する官吏)を主たる人材供給源としている。任用はメリット・システムに基づくことが法律上規定され、実態上もこの原則に従った上で、大臣が政策実現に向けて信を置く者を任命している。
このため、政治的官吏制度に対しては、国民、政治家、職業公務員からも基本的に異論が示されておらず、制度が長年にわたり定着している。
(連邦政府と州政府との人的つながり)首相、連邦大臣の中には州政府大臣や州議会議員の経歴を有する者が多く、州官吏は州政府大臣や州議会議員との知遇を得る機会が多い。また、連邦官吏には政党への出向の慣行があり、政党の幹部と共に勤務する機会を得ることができる。政治的官吏の人選に当たって、このような個人的なつながりが基礎になっていることが多い。
(官吏に対する手厚い保障)職業公務員たる官吏に対しては、強固な身分保障が講じられており、政党政治からの中立性に配慮されている。
政治的官吏が政権交代時に退職した場合、手厚い経済的措置(退職後一定期間の給与支給、割増恩給)が講じられている(ただし、これに対しては経費面で国民からの批判があることに留意する必要がある)。また、政治的官吏の再就職先として、前大臣の紹介による州政府の高官、大学教授、民間企業役員等一定の受け皿が用意されているほか、政治的官吏の大半は法曹資格を有しており、弁護士を開業する場合もある。
(連邦政府と州政府の機能分担)連邦政府の主たる機能は立法で、政策の執行は原則として州政府が担っている。連邦政府による許認可、公共事業の実施、調達等の業務は限定的で、このような分野に政治的官吏を通じて政治の影響力が及ぶ余地はほとんどない。
中央省庁の課長 (元政務次官秘書官) ドイツにおいては、職業公務員は、政権が代わってもいつも同じように法律を執行する者ととらえられています。政治的な力を保有せず、法的な力を保有するということです。法と合致しない政治家の提案に対しては“ノー”と言う任務を有しています。その独立性に特徴があるのです。 政治的官吏についても、職業公務員についての上記のような特徴は共通です。この共通性に加えて、政治トップと職業公務員とを結ぶ役割をも担うという両面性を有しているのです。「政治的」という語の意味するところは、政治的に組織されたということではないし、党派に属するという意味でもありません。政府の方針を支え、政党政治的見解を官僚機構の中へ変換する役割を果たすという意味なのです。 |
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