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第1編 人事行政
第1部 政治任用〜主要諸国における実態〜
第3節 政治任用の議論を行うに当たっての着眼点及び留意点
1 諸外国の状況を理解する上での前提及び着眼点
(政治任用の意味)
政治任用といっても各国共通の定義があるわけではなく、また、この語が一般的に使用されている国(アメリカ、イギリス)においても、法令による厳密な定義があるわけではない。さらに、フランス、ドイツのように政治任用という言葉自体一般的でない国もある(本稿では、フランスにおいては「自由任用」を、ドイツにおいては「政治的官吏」をこれに対応するものとして分析した)。
最大公約数的には、政治任用は、
- 1) 行政府において「政」が「官」をいかにコントロールするかというねらいの下に、政府(時の政権)の政策、理念、目標に対して、職業公務員群より強固な共通意識、一体性を持つ層を行政組織の中に確保することを目的とするものであること、
- 2) 職業公務員のような身分保障はなく、在職が任命権者の意向に強く依存すること、
- 3) 任用についても、職業公務員に求められるようなメリット・システム(成績主義)から除外されている場合が多いこと
諸外国の政治任用の状況に言及する際には、まず政治任用の語で何を指しているのかを明確にすることが大前提であると言える。
(政治システム等の違い)上記のように、政治任用といっても様々な形態があることに加え、政治システム等についても違いがある。アメリカのような大統領制下とイギリスのような議院内閣制下では、政治任用の前提が全く異なると言えよう。このような政治システム等を捨象して政治任用の外形のみを取り出し、我が国に当てはめて議論することは危険である。
例えば、各省の基幹ポスト(大臣〜局長レベル)を誰が占めているかを見ても、次のとおり様々な場合がある。
- 1) 議員が占める場合
- 2) 職業公務員が占める場合
- 3) 議員出身者主体の場合(議員は辞職)
- 4) 職業公務員主体の政治任用の場合
- 5) 外部人材主体の政治任用の場合
表24 は前節でとり上げた4か国について、これを一覧表で示したものである。全体の中での位置付けを踏まえずに、政治任用だけを取り出して単純に比較すると、全体像を見失うことが明らかであろう。
●表24 各国における各省基幹ポストの構造の一覧

それでは、様々な形態、背景を持つ各国の政治任用の性格を、全体像を見失わずに比較していくためには、どのような点に注意すべきか。前節での分析も踏まえ、次のような着眼点に基づいて理解することが適切であると考える。
[政治形態に着目したもの]
- 1) 議院内閣制か大統領制か(議会と大統領の関係を含む)
- 2) 政党制と政権交代の状況
- 3) 議員の行政府ポストへの浸透度(どのようなポストにどの位の規模か)
[政治任用者に着目したもの]
- 4) 政治任用者の基幹ポストへの浸透度
- 5) 政治任用者の数
- 6) 政治任用者の主たる供給源は職業公務員か外部か
- 7) 政権交代と同時に異動する政治任用者の規模(一挙に異動するか否か)
[職業公務員に着目したもの]
- 8) 職業公務員制の伝統、職業公務員の社会的威信・エリート度
- 9) 職業公務員としての最高ポスト(政治任用者として職業公務員が就くポストを除く)
- 10) 職業公務員から政党・議員への垣根(参入の規制が高いか低いか: 注 )
(注) この垣根が低く、職業公務員と議員との同質性が高い方が、職業公務員を政治任用するインセンティブが政官双方に高くなる面があると考えられる。
表25 は、上記の着眼点に基づき、米英仏独4か国について整理してみたものである。今後、我が国における政治任用を考える際や、これら以外の国を分析対象に含める際にも、このような多面的な分析を行うことが適当であると考える。
●表25 着眼点に基づく整理

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