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第1編 人事行政

第1部 政治任用〜主要諸国における実態〜

第3節 政治任用の議論を行うに当たっての着眼点及び留意点

2 政治任用の議論を行うに当たっての留意点


(1) 政治任用のねらいの明確化

各国の政治任用は、行政府において「政」が「官」をいかにコントロールするか、政治主導をどう実現するかという基本的ねらいは共通であるものの、

まで幅広い型が存在する。( 図11

●図11 各国における政治任用概念図

要は、1)「政」のリーダーシップに対する応答性と行政の専門性確保とのバランス、及び2)自国の土壌(政治システム・文化、職業公務員制の伝統、労働市場等)への適合性が重要なポイントということだろう。

我が国における政治任用の導入について考えるのであれば、このようなことを踏まえつつ、現在、我が国に何が欠けており、何を補うべきか、政治任用によって何をねらうかをまず明確にした上で議論する必要がある。これを整理せずに、例えば、官僚性悪説のみを論拠に政治任用の導入を議論しても、実りある結果は得られないであろう。

(2) 政治任用者と職業公務員との役割分担の明確化と両者の協力関係の確立

上記のねらいの明確化とも関連するが、政治任用者、職業公務員両者の役割分担が不適切であると、政治任用者の長所(政権との共通意識、一体性等)と職業公務員の長所(専門性、中立公正性等)が相殺し合い、十分に機能せず、かえって混乱を招く危険性がある。下記のような各分野ごとに役割分担を整理する必要がある。

1) 政策企画における役割分担

例えば、政権公約で示された抽象的な政策目標を、行政組織における政策プログラムに転換・具体化していくに当たって、政策企画に係る政官のインターフェース(接点)部分として担うべき役割、職業公務員との協力関係を整理する必要がある。

2) 政治の領域での調整に関する役割分担(政党、議会、圧力団体等との調整)

典型的には、職業公務員と行政府外の政治家との接触を制限するイギリスの例(政治の領域での調整は副大臣等行政府内の政治家が担当)などがあり、政治任用の導入を考える際には、このような政治の領域での調整における役割分担について改めて考えてみる必要がある。

3) 執行事務における役割分担

職業公務員は、法令に基づいて公正に職務を執行することが求められており、このような執行事務の公正・中立性に支障を生じることがないように、下記(4)で述べるような点に十分留意する必要がある。

(3) 行政府に入った政治家との役割分担

アメリカやフランス、ドイツのように各省の基幹ラインポストで政治任用を行っている国では、行政府内の政治家のポストはないか限定的である。他方、イギリスのように大量の政治家が行政府に入る国では、政治任用は大臣のアドバイザーとして限定的に利用されているだけである。平成13年(2001年)に政治主導のねらいの下、副大臣、大臣政務官制が導入され、行政府内に既に相当数の政治家ポストが設けられている我が国で政治任用を考えるのであれば、これら諸外国も参考に、改めて行政府に入った政治家との役割分担を考える必要がある。

(4) 許認可等における公正性の確保

許認可、補助金交付、契約などの執行事務は、関係者の利害に大きな影響を与えるため、汚職、腐敗の原因になりやすく、その公正性の確保が求められる。

各国における執行事務の状況をみると、地方政府への分権化が進んでいる(連邦制の下、執行業務は基本的に地方政府の役割としている国もある)ことなどに加えて、第2節で述べたように、執行事務の基準化・客観性の確保や政治任用者の行動規範の確立など執行事務の公正性確保のために種々の工夫がなされている。政治任用の導入を考えるのであれば、許認可等執行事務における公正性の確保について一層の配慮が必要である。

(5) 職業公務員の中立公正性の確保(採用、研修、身分保障など)

政治任用者の第一の特徴が時の政権との共通意識、一体性であるとすれば、職業公務員のそれは専門性、中立公正性であると言える。どの政権にも平等に仕えることが全体の奉仕者たる職業公務員の使命であり、そのような公務員を確保、育成することが必要である。そのためには、情実人事を排したメリット・システムに基づく任用、全体の奉仕者として公正に行政に携わる公務員を育成する研修など、職業公務員の人事管理面における中立公正性の確保が必要である。

また、政権交代があっても、前政権への献身を理由に不利益な扱いを受けないことが重要である。政治任用を行っている国では、この面でも職業公務員の身分保障に十分な手当を行うとともに(フランス、ドイツの任官補職による身分保障型やイギリスの公務員人事の自律型。アメリカにおいても身分保障等の措置)、職業公務員の中立性について、政治任用者(及び政治家)の行動規範を設けるなどして配慮していることに留意する必要がある。

さらに、執行事務については、すべての国民に公平に行政サービスを提供することが求められており、職業公務員は法令や予算を拠り所として粛々とこれを遂行しなければならない。そのためにも公務員人事管理の中立公正性の確保とともに、上記(4)でも述べたような配慮が必要である。

(6) 人材供給源、退職後の受け皿など政治任用のための条件整備

政治任用の外枠を作っても、それにふさわしい人材を確保できなければシステムがうまく機能しないことは言うまでもない。外部人材主体か職業公務員主体かを含めて人材供給源をどこに求めるのか、その際の人材誘致のインセンティブが何であるかについて、十分考える必要がある。

いかに人材を確保するかは、彼らがどこへ帰っていくかという退職後の受け皿の問題とも密接に関係する。外部人材にとっての受け皿の問題は、労働市場の成熟、流動化に依存している面が大きいと言える。また、職業公務員を政治任用している国では、任官補職の仕組みの下で、職業公務員等のポストに同水準の給与で戻ることができたり、高水準の恩給が退職直後から支給されて生活の心配がないなどの条件が整備されている。

採用や再就職に当たっての官民癒着の弊害抑制措置の検討も必要である。外部人材主体の政治任用の場合、アメリカにおける採用の際の議会や倫理上のチェックシステムが参考になると考えられる。また、退職後の再就職等について、いずれの国においても規制がなされていることは既述のとおりである。

更に、在職中や退職後(時)の金銭給付のコストと、優秀な人材確保のバランスの問題については、ドイツにおいてこれが政治任用をめぐる議論の主要テーマの一つになっていることからも分かるとおり、十分留意すべきものと言えよう。


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