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第1編 人事行政

第1部 人事行政における国際協力とグローバル化対応〜交流の活発化と「国際競争力」の確保・向上を目指して〜

III 国際協力・国際交流等の課題と今後の展望

1 途上国等に対する国際協力


(1) 我が国公務員制度をモデルとした公務員制度の整備

国づくりを行っている途上国や体制移行国において、各行政分野の担い手となる専門能力を持った公務員を確保し、これらの国においてやはり大きな課題となっている腐敗防止を図りながら、政権交代等を含め政治経済社会情勢の大きな変化にもかかわらず行政を真に国民全体の利益のため安定的に執行することを担保するためには、厳正な服務規律を確立し、適正な給与水準を確保するとともに、職員の能力向上のための研修、情実を避けた公正な採用試験制度を導入し、メリット・システム(成績主義)と身分保障に裏打ちされた職業公務員制度を確立する必要性が高い。

公務員制度や人事行政は、それぞれの国の発展段階や、社会、政治等の状況に影響されるところが大きいことから、具体的な制度設計や運用はその国の様々な事情に対応したものとすることが求められ、例えば、独立してからの歴史の浅い国で新たに制度を整備する必要がある場合と社会主義からの体制移行中の国で市場経済の導入に合わせて制度を変革する場合とでは事情が明らかに異なると考えられる。どのように活用するかは、その国の判断によるとしても、我が国の公務員制度について、個々の制度をその背景や意義・目的、運用、関連する諸制度も併せて整理・紹介すれば、それぞれの国の事情に合わせた制度設計等の参考になるものと考えられる。

また、これまでに実際に行ってきた研修や専門家派遣は、それぞれの目的に照らした高い評価を受け、一定の成果等に結び付いている。例えば、中国では、陸林祥国家行政学院国際部長の寄稿文でも明らかなように、平成5年に制定された国家公務員暫行条例の内容に活かされており、キルギスでは、アシルベック・ボロトバエフ公務員庁副長官が語っているように、我が国の公務員制度をアレンジした「国家公務員法」を制定し、専門家派遣等による協力をその実効ある運用や改正に結び付けている。その他、タイでは民間給与実態調査の実施に、モンゴルでは国家公務員法の制定・運用に、タンザニアでは倫理研修の実施に結び付くなど、具体的な成果を多くの国に見ることができる。

さらに、国際協力研修に参加した多くの途上国等の研修員が、自国の人事管理等に関して、以下のような課題があると指摘しており、このことからも、我が国の公務員制度の紹介等を行う協力は、これからも極めて有意義なものと考えられる。

●途上国等の研修員が指摘した自国の人事管理等に関する課題●

人事院で実施している国際協力研修において、演習・討議のために研修員が作成したカントリーレポートから紹介

1 採用・昇進・異動システムの未整備

メリット・システム(成績主義)に基づく採用・昇進システムが未整備のため、適格者の登用がうまくできず、縁故・情実による任用が行われやすい。また、職員の能力を的確に評価し選抜する仕組みも確立されていない。

一度採用になった組織から変わることはまれで、日本のような人事交流はあまりない。

2 不十分な給与水準

財政基盤がそもそも脆弱であること、最大雇用主である政府が必要以上の人員を抱え込んでいることなどによって、途上国等では個々の職員の給与は極めて低い。このため、副業を持つ者も多い。その一方で、職務に従事しないで給与だけもらうような職員もいる。

成長を遂げている国であっても、民間の成長が著しいのに対し、民間の給与と均衡をとるシステムがない、相変わらず給与の原資が十分でない等の理由から、給与の引上げが行われず、かえって官民の給与格差が拡大している。

このことが優秀な人材の登用を制限し、勤務意欲を低下させている。また、職員のモラルを引き下げる、給与だけでは生計が成り立たない等の理由から、汚職や腐敗に結び付きやすい状況にある。

3 制度と運用との乖離

法律や規則には、メリット・システム(成績主義)等のルールが明記されていても、現実の運用が異なっている。ダブル・スタンダードとなっている。

このように、途上国等の公務員制度の整備や改善に資することを目的とする研修や専門家派遣は、そのニーズにこたえ、成果を上げてきており、その意義は大きいことから、これからも強い要請がある限り、相手国の事情、ニーズ等に応じた効果的な支援になるよう改善、工夫を図りながら続けていく必要がある。

(2) 人材育成への支援

既に述べたように、途上国等においては、新しい公務員制度の整備とともに、国づくりを支えることとなる公務員の育成の重要性が高く、我が国政府の方針としても、「制度構築」や「人づくり」への協力を重視しており、その中に公務員制度整備とともに公務における人材育成も含まれている。

また、途上国等の政府職員を対象に人材育成等を目的として実施してきた国家行政研修や人事管理研修については、実際に、途上国等から人事院に対し、直接又はJICA等を通じて引き続き様々な協力要請がなされている。参加した研修員からも、有意義であるとの評価を得ており、複数の途上国等の職員が参加している研修については、共通の課題とともに、各国の検討課題も取り上げることで、複雑化、グローバル化している行政課題に対処する能力・知見を習得する上で役立っていると評価されている。

このように、途上国等の近代化等を支える公務員の人材育成等を目的とする研修は、実際に高い評価を受け、強い要請があることから、今後ともその要請にこたえていく必要がある。

(3) 相手国の事情、ニーズ等に応じた効果的な支援

我が国をモデルとした公務員制度の整備への協力やその国を支える人材の育成を要請する国に対しては、これからも、その国の事情、ニーズ等を十分把握し、可能な限りそれぞれに応じた協力の方法とプログラム編成等により、効果的な支援を行っていく必要がある。

特定の国の公務員制度の整備等に協力する場合には、既に紹介した、1)中国について国家公務員の基本法の制定に協力するため、人事行政の各テーマについて専門家派遣と研修を相互に連携させながら実施した例、2)タイについて民間給与実態調査の実施のために短期専門家を集中的に派遣するとともに研修を実施した例、3)タンザニアについて倫理研修の立ち上げ等のために長期専門家派遣と研修を行った例のように、専門家派遣と国別研修の受入れを双方実施し、連携させる方式が効果的である。また、タンザニアに派遣された専門家の寄稿文にもあるように、我が国からの長期専門家派遣は、「現地の事情を把握しやすい」、「他の援助機関・援助国の状況を把握しやすい」、「関係機関とも連絡調整が行いやすい」、「お互いの顔の見える援助となる」等の大きなメリットがあると評価されている。

また、人事院としては、今後、相手国の要請と実情に的確に対応するためには、次のような措置等が必要であると考えている。

さらに、公務員制度の所期の整備後も制度の一層の整備や適正な運用の確保が求められることから、その効果について検証・見直しを行うためのフォローアップにも力を入れていく必要があると考えている。

(4) 各府省等の行う国際協力への支援

国際協力・国際貢献のために国際機関や途上国等の政府に我が国国家公務員を派遣する派遣法については、その適用職員数が増加(制定された昭和45年度末:140人→平成15年度末:526人)しているというだけでなく、このスキームによって派遣される国際協力の専門家は、我が国の「顔の見える援助」を実現しているという大きな意義を持っている。今回寄稿文を掲載したボリビア、パナマに派遣された専門家のように、現地で住民と一緒になって活動し、その地域を支えている多くの専門家がいる。

派遣職員数の累積は相当規模に達してはいるが、我が国の恐らく本来占めるべき国際的地位に比すれば、まだまだ少なく、その数が増えていくためにも、派遣先で一層積極的な活動を行い、的確に業務をこなすことのできる職員の育成に努める必要がある。


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