前(節)へ 次(節)へ

第1編 人事行政

特別寄稿 政治任用 〜専門家の目から見た展望と留意点〜

イギリスとドイツにおける政治任用の実態

2 イギリス、ドイツにおける政治任用


(1) 政治任用の概念及び制度
1) イギリス

イギリスでは、議会政治の成立後、政権党が官界への影響力を高めるために情実任用が横行し、19世紀には行政の非効率性が指摘されるようになった。そして、1853年のノースコート・トレヴェリアン報告をきっかけに、次第にメリット・システムや行政の政治的中立性を柱とする近代的公務員制度が確立されていった。イギリスとアメリカは、議院内閣制と大統領制という違いはあるが、この歴史的流れからみれば、イギリスはアメリカ型モデルに近い側面を有している。

イギリスにおいて政治任用や政治的任命職とは、恒久的公務員(permanent civil service)に対置される概念として理解されるが、その範囲について一義的な理解が存在しているわけではない。イギリスでは、閣内大臣のほか、閣外大臣(junior minister)と呼ばれる副大臣、政務次官、さらに政務秘書官といった多数の政治家が各府省の組織の中に入っており、これらのポストは政治任用である。さらに、閣内大臣が政治的アドバイザーとして任命する特別顧問が政治任用として挙げられる。

これらの政治任用ポストに就く者の人材供給源は、閣内大臣や閣外大臣の場合は、政権党所属の議会議員であり、特別顧問の場合は、政党の政策スタッフなど、行政組織の外部からリクルートされた、政権党と何らかの関係を持つ人たちである。

2) ドイツ

前述のように、ドイツでは、政治任用という一般的な概念が存在するわけではないが、成績主義と身分保障を原則とする官吏制度の例外として、政治家たる大臣に公務員をポストから外す権限を与えている場合がある。これがいわゆる政治的官吏の制度である。

行政府内にポストを持つ政治家としては、大臣のほか、各省に1〜3人の政務次官がいるだけであり、イギリスに比べて、その範囲は限定的である。他方、政治的官吏は、官吏からの内部登用が通例であり、通常の官吏と同様、成績主義の原則や政党政治からの中立性などの服務規程が適用される。政治的官吏と通常の官吏の基本的な相違は、政治的官吏は、特段の理由なくいつでも一時退職に付され得るという点に尽きる。政治的官吏は、政治の意思を行政組織に伝え、大臣と一般の公務員をつなぐ役割を果たすものとされている。

ドイツは、歴史的には、上述のとおり、メリット・システムや終身身分保障を基礎とする近代的官僚制が確立した後で、19世紀半ばに政治的官吏の制度が導入された。この制度は、その後もワイマール共和国、ナチス政権の時代を経て、戦後も残り、現在に至っている。自律的で強固な官僚制の伝統を持つドイツでも、戦後は統治構造として議会制民主主義を採用している以上、行政に対する民主的コントロールの必要性については当然とみなされており、その手段として政治的官吏の制度が存在することについて、特段の異論はみられない。

(2) 政治任用の類型

イギリス、ドイツ及び日本の制度を基礎にして、政治任用の類型化を試みれば、概ね以下のように整理することができよう。

1) 議員登用型

大臣が、政権党の国会議員の中から任用する場合であり、イギリスの副大臣、政務次官、さらには国会議員ではないが、大臣の政務秘書官などがこれに当たり、ドイツでは政務次官、わが国では副大臣と大臣政務官がこれに該当する。イギリスはこの政治家ポストが多いところに特徴があり、ドイツでは日本と同様、その数は限定的である。

2) 外部登用型

行政府の外に人材を求める類型であり、大学教授等の研究者や経済界などからリクルートが行われる。典型的な例がアメリカである。また、政治家以外の政党スタッフからの任用も考えられ、イギリスの特別顧問はこれに該当する。逆にドイツの政治的官吏については、外部登用は稀なケースとなっている。日本では、各府省の外局のトップが時に民間企業から就任することがあり、この類型に分類できよう。

3) 内部登用型

行政府内の公務員から内部登用によって政治任用職に就く場合である。ドイツの政治的官吏は、この類型が通例となっている。また、同国では、連邦議会での与党が政権を握っている州の官吏から連邦各省の政治的官吏ポストに任用されることもあるが、ラウフバーン制度など連邦官吏と州官吏の制度の同質性からみて、このような場合も内部登用型と整理することが可能であろう。フランスもこれに近いと考えられる。

これら三つの類型のうち、制度の選択としてどの類型がよいかについて、普遍的にベストな解は存在しておらず、それぞれの国において最適解を探求する必要がある。上述したような民主主義原理と行政の専門性・政治的中立性という相反する価値を調整し、政治と行政を機能的に結びつける方法として、どのような制度設計が最適であるかという問いの答えは、各国の政治システムや政治文化などによって異なっているからである。

(3) 変数としての政治システム〜政治任用の類型の規定要因

それでは、各国で最適な制度を規定する政治システムや政治文化などの要因としてどのようなものが考えられるのであろうか。

その一つは、選挙制度である。小選挙区制や比例代表制の下では、一般的に、政党組織の影響力が大きくなるといえよう。政党の掲げる政策によって議会選挙を闘うこととなり、イギリスの政党におけるマニフェストのような選挙公約の内容とその実現可能性が大きな意味を持つようになるからである。

第二に、議会で多数を占める政権党と内閣との関係が挙げられる。政権党と内閣が緊密に連携しており、両者の一体性が高ければ、政権党の意思が行政内部にまでスムーズに伝わりやすい。また、議会による行政の民主的コントロールもより強くなる。イギリスでは大臣をはじめ、副大臣等の閣外大臣のポストは同時に政権党の枢要ポストとなっており、党と政府の一体性が確保されている。他方、わが国では、政権党の主要ポストが必ずしも大臣ポストではなく、政権党首脳部と政府との意見の相違が表面化することも稀ではない。

第三点目として、政党組織の在り方と政党の政策立案能力を挙げることができる。イギリスで、与党の政治家が多数政府内に入り、政策の作成に関わっている背景には、党機関が高い政策立案能力を有していることがあり、政府と協働関係にある外部のシンクタンクなど多様な情報ソースも存在している。特別顧問も、上述のとおり、政党組織の政策スタッフから任用される場合がある。ドイツでも、有力なシンクタンクが政府に対するコンサルティングを行っている。

さらに、政治任用の仕組みは、どれくらいの頻度で政権交代が行われるかということとも密接な関係がある。政権交代の頻度が高ければ高いほど、政治と行政の関係や、政権への忠誠心と行政の中立性の問題が顕在化する可能性が高いと考えられるからである。わが国の場合、戦後、長期間にわたって一つの政党が政権の座に就いていたために、その間は政治任用の問題が顕在化せず、それが崩れたときに初めて表面化したのである。

加えて、政治家や公務員の社会的地位、その国のエリートの位置付けなどの社会・政治文化が制度設計に与える影響も否定できない。

(4) 制度比較の際の着眼点

以上のとおり、イギリス、ドイツの2か国をとってみても、政治任用の具体的な制度にはかなりの違いがみられるところであり、日本における政治任用の在り方を考える上でも、制度比較の際の着眼点を明らかにしておくことが有用であると考える。

1) 任命権及び罷免権に対する制限

政治家である任命権者が政治的忠誠心や政策能力を尺度に任命する場合、その任命権が、広い意味で政権党が形成する内閣に属することはいうまでもないが、通常は、実際に任命権を有するのは個々の大臣である。その場合に、実際は、任命の判断が大臣の自由な判断に完全に委ねられているわけではなく、種々の制限に服しているのが通例である。イギリスでは、特別顧問の任命に当たって首相の事前承認が必要とされている。また、ドイツの政治的官吏には成績主義の原則が適用となり、被任用者は原則として一定の選抜資格を満たすことが条件となるなど、任命については大臣の判断がかなり制限されている。一口に政治任用といっても、具体的な制度設計上、実質的にどの程度「政治的」な任命ができるかについては、精査が必要である。

同じことは、罷免権についても当てはまる。政権党や政府に対する忠誠心を確保する手段としての政治任用を考えるとき、ポイントとなるのは、前述のように、任命権者が、罷免権を持つという点である。当該者の忠誠心について疑義が生じるに至った場合に、大臣はこれを自身の判断により解任できなければ、制度の意義が大幅に減じられてしまうことはいうまでもない。しかし実際には、ここにも様々な制限がかかっているのが通例であり、イギリスの特別顧問の場合、3か月以上前に雇用終了の予告通知が必要であるし、ドイツの政治的官吏を一時退職にする際には、大臣との間の信頼関係が損なわれた旨の疎明が必要とされている。ドイツでは、この疎明が十分でないために一時退職の措置が違法とされた例もあるという。

2) ライン職とスタッフ職

また、政治任用者が就くポストが、いわゆるライン職であるか、あるいはスタッフ職としてラインの外に位置付けられるのかも重要である。

イギリスの場合、副大臣や政務次官はそれぞれの所管分野については、ライン職に就いており、担当事務についての決裁や部下に対する指揮監督権を有しているとともに、大臣の代理人として議会での答弁にも立つことができるとされている。これに対し、特別顧問は、大臣に対して政治的側面から助言・支援を与えたり、大臣のスポークスマンとしての役割が期待されており、スタッフ職として位置付けられている。ただし、首相官邸の特別顧問の中には一般公務員に対する指揮命令権を有する者もおり、その場合は、ライン職的な性格を併せ持っているといえよう。

他方、ドイツの政治的官吏は、通常の官吏に連なるライン上に位置付けられている。政治家が就任する政務次官はわが国の副大臣や大臣政務官と同様、必ずしもライン職の機能を果たしているわけではない。一方で、ドイツで政治的スタッフとしての役割を果たすのは、大臣秘書官であり、この点は日本の制度と類似している。

3) 政治任用者に求める能力・資質

政治任用者の位置付けは、さらに、彼らにどのような能力・資質を求めるかという問題とも関連している。単純化していえば、大臣と政治的信念を一にし、大臣の「分身」として行動する政治的アドバイザーか、特定の行政分野に関する専門知識や経験を基に政策立案に携わる専門家かという分類が可能である。この二つは二者択一の関係ではなく、両者をある程度併せ持つケースもあり得るが、一般に、政治的アドバイザーとしてのポストにはスタッフ職が適任であろうし、後者の専門家タイプは、ライン職としてもスタッフ職としても活用できるであろう。

イギリスの場合、後述のように、大臣が、近年、メディアを通じて国民世論の注目を浴びる存在となっており、政府にとって報道戦略がますます重要になってきている。また、欧州連合(EU)の活動領域が拡大する中で、大臣一人だけでは大きな省庁組織を統括するのは、困難になってきている。そうした中で、いわば大臣の「分身」としてスポークスマンの役割を果たす特別顧問は、不可欠な存在となっている。

他方、ドイツの政治的官吏は、制度的には大臣と公務員との「つなぎ役」と理解されており、政治的忠誠心か専門性かということはあまり意識されておらず、実際には、政治的官吏はライン職の専門家として機能している。この背景には、政治的官吏が、内部登用を通例としているため、被任用者はみな官吏としての専門知識や経験を有しているという事情があるからであろう。また、政治的官吏の中には、政権党以外の党籍を持っている者や無党派の者もおり、任命に当たって政治的忠誠心が必ずしも必須の条件とされているわけではない。

4) 人材供給源と退職後の再就職先

どのような制度を採用するにしても、制度が円滑に機能するためには、優秀な人材の供給源の存在と、ポストを離れた後の処遇や再就職先の確保が大きな意味をもつ。特に、外部登用型の場合、社会的なエリートの移動がどの程度流動的か、また政治任用ポストを離れた後、次のポストが容易に見つかるか、当該ポストで得た経験がその後のキャリアアップの際にどのように評価されるか等がポイントとなる。

イギリスでは、アメリカには及ばないものの、人材調達のマーケットがかなりオープンであり、政党の政策スタッフだけではなく、マスコミ、研究者、シンクタンクなども政治任用者の人材供給源となっている。退職後は、退職手当等の保障があるほか、政党関係の職務をはじめ、再就職先を見つけることに特に支障は生じていないと言われている。

他方、内部登用型を採用しているドイツの場合、外部からの登用は稀である。連邦政府内の政治的官吏は、退職後、政府外で再就職先を見つけることになるが、特に流動的な雇用マーケットがあるわけではない。むしろ、そのために一時退職の制度が設けられているということができる。しかしながら、一時退職の措置自体がそれほど頻繁に行われないこと、政治的官吏の数がかなり限定的であること等により、再就職先については問題として認識されていない。その理由としては、官吏が行政府内で政治的官吏のポストまで昇進するのにはある程度の時間を要し、若くして政治的官吏のポストに就くことが非常に稀であることもあると思われる。また、退職後の処遇については、恩給等の手厚い経済的保障が整備されており、1998年の政権交代の際には、多数の政治的官吏が一時退職になったことにより、コストの面からの批判の原因となったほどである。


前(節)へ 次(節)へ
© National Personnel Authority