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第1編 人事行政

特別寄稿 政治任用 〜専門家の目から見た展望と留意点〜

フランスにおける政治任用

I フランスの政治制度


フランスにおける高級官僚の政治任用の姿について正確に理解するためには、その背景にある同国の政治制度の特異性について必要最低限の知識をもっていなければならない。そこで、まずはこの点から、若干の追加説明を加えておきたい。

フランスでは、従前から、レベルの異なる政府の議会の複数の議員職を兼職することが認められてきた。すなわち、コミューン(市町村)議会議員(市町村長は市町村議会議員の中から互選)、デパルトマン(県)議会議員(県知事に相当する県議会議長は県議会議員の中から互選)、レジオン(道)議会議員(道知事に相当する道議会議長は道議会議員の中から互選)、国会議員(首相以下の国の閣僚のほとんどは国会議員の中から選任)のいくつかを兼職することが許されていた。そこで、市町村議会議員・市町村長でありながら、同時に県議会議員でもあり、さらに国会議員又は大臣でもあるといった政治家も決してまれではなかった。ことに、国会上院の議員は地方議会議員(これには、当然のことながら市町村長や県知事、道知事に相当する者も含まれている。)による間接選挙になっているので、国会上院議員には地方政治家を兼職している人々が多く、国会上院は実質的には自治体代表の国政参加の場になっている。このフランスに独特の議員兼職の制度には近年改正が加えられ、兼職が許されるのは二つのレベルの議員職までに限定された。この改正によって、各レベルの議会議員に従来よりも女性議員や若手議員が増えたと言われている。

次に追加説明をしておきたいのは、フランスでは、首相は大統領による任命、閣僚(大臣、担当大臣、閣外大臣)は首相の提案に基づいて大統領が任命する。その人員数は内閣ごとに変動する。そして、これら首相以下の閣僚のほとんどは国会議員の中から選任されているのであるが、国会議員から閣僚に選任された場合には、国会議員職を辞職しなければならないことになっている。この点は、イギリスや戦後日本の議院内閣制と大きく異なる点である。フランスでは、共和国憲法で、立法府と行政府の権力分立の観点から、国会議員職と閣僚職との兼職が禁じられているのである。しかし、閣僚に選任されたために国会議員職を辞職する人々が続出しても、それによって国会議員の定数に欠員が生じて補欠選挙になることも、与野党議員間の勢力構成に変動が生じることもない。なぜならば、フランスでは、国政選挙の時点から予め候補者本人とその代理人とが有権者に明示されていて、当選議員にこの種の事故が生じたときには、この予め指名されていた代理人が自動的にその空席を埋める仕組みになっているからである。

さらにもう1点、追加説明をしておきたい点は、内閣運営と国会運営についてである。フランスの定例閣議は毎週1回火曜日に開催されている。そして、その前日の月曜日には首相府キャビネの官房長が主宰する定例の各省官房長会議が開催されている。翌日の定例閣議の実質的なお膳立てもこの首相府キャビネの官房長が行っている。この点は、日本における閣議と事務次官等会議との関係に類似している。フランスの首相府官房長はこの点では日本の内閣官房長官や内閣官房副長官(事務担当)に類似した役割を担っていることになる。

しかし、内閣と国会の関係はフランスと日本では大きく異なっている。日本では、国会の議事日程は衆参両院の議院運営委員会の定めるところであり、国会の会期および議案の取扱をめぐる与野党間の実質的な交渉は各党の国会対策委員間の非公式の交渉に委ねられている。そこで、国会運営は基本的には与党のしかるべき担当者の手に託され、この点に内閣が容喙することはむずかしい。これに対して、フランスでは、国会が強すぎた第四共和制時代の弊害に対する反省に立って、現在の第五共和制の下では、国会の議事日程は内閣によって指示されている。上下両院の両院協議会を招集するのも内閣である。こうした国会運営への内閣の関与については内閣事務総局事務総長が大きな役割を担っている。そして、直近の地方分権法案の採決をめぐって現に発動されたように、国会が議案審議の引き延ばしをしていると認めた場合には、内閣は国会に対して当該議案を一括採択するか内閣不信任決議をするかの二者択一を迫る強い権限まで賦与されている。この点は日仏の政治制度のもう一つの大きな相違点である。

フランスの政治制度についての追加説明は以上に止め、本題に入ることにしよう。


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