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第1編 人事行政

特別寄稿 政治任用 〜専門家の目から見た展望と留意点〜

フランスにおける政治任用

II フランスの大臣キャビネ


1 公務員の政治活動の自由と「慎みの義務」

フランスの公務員は日本の公務員よりもはるかに広い政治活動の自由を保障されている。休暇をとって選挙運動に参画することも、政党に入党し政党員として活動することも、選挙に立候補することも許されている。現職の官僚が政党の機関誌に投稿した行為を合法と認めた判例まである。しかし、このフランスでも、公務員は、職務を通じて知り得た情報を漏らしてはならないとする守秘義務はもとより、いかなる内閣にも忠実に従うという政治的中立性を堅持しなければならないものとされ、ときの政権を批判するような言動は差し控えなければならないという「慎みの義務」を負わされている。

そこで、政治活動の自由とこの「慎みの義務」との微妙な境界線を確認するために、現職官僚が政党の勉強会や政党系のシンクタンクの研究会などにどの程度まで参画しているのか、ことにフランスでも大統領選に際しては候補者によって事前に作成されている「マニフェスト」の起草に現職官僚がどの程度まで関与しているのかなど訊ねてみたが、残念ながら、その正確な実態はつかめなかった。参画しているとは思うが、それはあくまで非公式なものであるはずだと語る人々もあって、この種の行為が少なくとも公然と容認されてはいないように感じられた。

なお、中央省庁の官僚がこの「慎みの義務」等に違反したとして懲戒処分が行われる際には、行政一般検査役務(IGA)の調査に基づいて、各職員群又は各省庁に常設されている人事管理に関する労使同数管理委員会(人事院『平成15年度年次報告書』の特集記事「政治任用:主要諸国における実態」では人事管理協議会という訳語が充てられていた。)の特別会合である懲戒委員会が開催され、そこで対審形式の審理に付され、その裁決にしたがって直属の上司により行われている。この労使同数管理委員会は、その名のとおり、労使双方それぞれ同数の委員で構成され、労働側の委員は組合員による選挙で選出されている。

2 「高級職」の自由任用と「大臣キャビネ職員」の政治任用

さて、いよいよ本題に入ることになるが、フランス共和国の行政官僚制(司法府や軍部の官僚機構を除く、一般行政職員の官僚機構の意)において、原則としていかなる資格要件も問われずに(「高級職」に指定されている地方長官たる知事職についてはその8割までは副知事の第1種(グレード)から登用すべき旨の定めがある。また同じく「高級職」に指定されている大学学区長への任用には国家博士号の所持者であることが資格要件になっているなど、若干の例外はある)、すでに国家公務員の身分を保有しているか否かにかかわらず、行政官僚制の内外から自由に任用することができるという意味での「自由任用」の対象になっているのは、「高級職」(約600名)と「大臣キャビネ職員」(約700名)の2類型のみである。

そして、このうちの中央省庁の局長級以上をはじめ、大使、地方長官や大学学区長等の「高級職」についてはその指定対象の範囲や俸給表等が法制化されているのに対して、もう一方の「大臣キャビネ職員」については、その定員や俸給をはじめ、何一つとして法制化されていない。また、「高級職」の任免は、所管大臣の提案に基づいて、大統領が主催する閣議に諮った上で、大統領が行う。そこで、候補者の人選の調整については大統領府官房長や首相府官房長が重要な役割をはたしているという。これに対して、大臣キャビネ職員の任免権は、官房長の任免権を含め、すべて閣僚にあり、その任免は閣僚の完全な裁量に委ねられている(なお、人事院『平成15年度年次報告書』の特集記事「政治任用:主要諸国における実態」では、大臣キャビネの官房長は「高級職」の一種に指定されていると記されているが、今回の調査で再確認した結果、これは人事院自身による現地調査の際の先方の誤った説明に基づく記述であったと推量される)。さらに、「高級職」は大臣の交替や内閣の交替に伴ってただちに辞職又は他の公職への異動をさせられていないのに対して、「大臣キャビネ職員」の方はその全員が閣僚の辞職と同時に辞職又は異動し、自らを登用してくれた閣僚とその進退を共にしている。その意味で、言葉の正しい意味における「政治任用」になっているのは「大臣キャビネ職員」の方だけである。

3 大臣キャビネの形成と「派遣」

この大臣キャビネは、各省の大臣の下に設置されるものを基本型としているが、担当大臣や閣外大臣の下にもそれぞれ設置され、また上述のように大統領府や首相府にも類似のキャビネが設置されているので、その規模は大小さまざまである。また、自治体の長である道議会議長、県議会議長等の下にも設置されている。例えば、今回の現地調査で訪問したイルドフランス道(首都パリ市を含む1,200市町村、8県、総人口1,100万人の住民を擁するレジオン)は総数約1,400名の比較的に小規模の職員機構を従えているに止まるが、ここの道議会議長の下には職員規模約30名のキャビネが形成されていた。

新任の閣僚の下に新たな大臣キャビネを形成するまでにどの位の期日を要しているのかを訊ねたところ、閣僚による官房長の任命は通常は閣僚に就任後1週間以内に行われている。その後、閣僚と官房長の協議により、キャビネ職員の人選が進められる。この人選は、主としてこの両人の政治上の縁故、出身地による縁故、グラン・コールの縁故などに基づいて行われ、合わせて、当然のことながら候補者の能力(スキル)を考慮して行われる。キャビネの陣容がフルセットで固まるのは最長で1か月半(過去には2か月を要した事例もあったが、これは例外)。大臣キャビネ職員の7〜8割はすでに国家公務員の身分を保有している高級官僚から任命されている。

そして、これは当該国家公務員が帰属しているグラン・コールその他のコール(職員群)からの「派遣」という形態をとっている。この「派遣」は、「休職」とは異なって、その間にも昇給や昇格が続き、退職年金の勤続年数にも算入される。「派遣」の期間が終了すれば、元来の職員群に復帰し、しかるべき職位に任用される。大臣キャビネ職員への登用は一般的にはその後の昇進につながる出世街道と観念されている。基本的には、悪くても「派遣」以前に就任していたレベルの職位への復帰が保障されている。だが、最悪の事態に遭遇することも絶無ではないという。大臣キャビネが解散して、その後の6か月は無任所のまま無為に過ごし、その後に閑職にまわされ、ここに6年半も止めおかれた実例もあったというのである。したがって、大臣キャビネ職員に登用された官僚は内閣の寿命を予測し、自らの仕える閣僚の政治生命を予測して、閣僚の辞任以前から自らの異動先の打診を行うなど、うまく立ち回る処世術も必要なのだという。

ところで、この「派遣」には、厳密には、以下の2種類のものがある。すなわち、受け入れ先が俸給を支払う形態と派遣元が俸給を支払う形態(「弁当持ち」での派遣)である。このどちらの形態の「派遣」になるかは、双方の交渉で決まる。受け入れ先の省庁における大臣キャビネの人件費予算の大小に左右されるところが大きいという。そこで、この両者の構成比は大臣キャビネごとに異なるが、全体の平均としては、ほぼ半々の構成比になっているのではないかという。

すでに国家公務員の身分を保有している高級官僚から登用される割合が7〜8割ということは、裏を返せば、民間人からの登用は2〜3割ということになるが、そのまた4分の3は弁護士と民間企業社員からの登用であり、それ以外の主たる例としては、報道や広報を担当する要員としてのマス・コミュニケーションのプロの登用やユニオンの活動家の登用などであるという。大学教師からの登用はまれであり、国会議員からの登用は皆無である。先に述べておいた閣僚への就任の場合と同様に、国会議員が行政府の公職に就任したときには、国会議員職を辞職しなければならない「憲法原理」の故である。政党職員からの登用も実例に乏しい模様である(大臣キャビネとは別個に設置されている大臣秘書への登用は相当数あるのかもしれないが)。

大臣キャビネに登用された民間人は、それによって国家公務員としての恒久的な身分を取得するのでもないし、高級官僚の「派遣」の場合のような手厚い身分保障がなされるのでもない。したがって、大臣キャビネが解散したときには一介の民間人に復帰する。しかも、民間人を登用すればするほど、大臣キャビネの人件費予算から支払うべき俸給額は増大する。高級官僚からの登用が主流になってきた主たる要因はこのあたりにあった模様である。

大臣キャビネ職員への登用が各職員群からの引き抜きの形態で進められれば、手持ちの官僚の引き抜きに遭う派遣元の省庁の側は、そのつど空席を補充する人事異動を行わなければならない羽目に陥るはずである。それは省庁側の人事管理に相当の混乱を招くことになるのではないかと、他人事ながら危惧してしまうのは私だけであろうか。そこで、この点については執拗に質問してみた。だが、先方の回答は、この引き抜きによって受ける打撃の程度は省庁ごとの勤務形態の相違によって異なるけれども(たとえば、グラン・コールによって支えられている国務院、会計検査院、経済財政省財務監査官などのように、チーム編成の集団的業務執行の勤務形態を採用していない省庁の場合には打撃は少ない)、総じて、それほど困惑するような事態を招いてはいないという。

4 大臣キャビネの機能

さて、このようにして編成された大臣キャビネは、どのような機能をはたしているのか。閣僚による政策立案を補佐する機能が主である。閣僚の施政方針を具体化する方策を検討し、これを省庁内の各局に指示する。また、各局から上申されてきた成案について審査し、これを閣僚の施政方針に合うように修正させる。この政策立案の補佐機能を基本にして、さらには、閣僚の政策の実現に向けて、国会工作も行う。閣僚の政策について与党幹部に事前説明に回ることをはじめ、国会議員からの「質問取り」も行うし、「国会答弁書」の作成と閣僚への「事前レク」も行う。もっとも、フランスの国会では日本の国会とは違って、野党議員はこの「質問取り」に応じようとしない場合が多いらしい。そこで、閣僚に同行して国会に出向き、閣僚席の背後に控え、議員の質問への回答案をその場でメモ書きにしてこれを閣僚に手渡し、閣僚はこれを棒読みするといったことも行われている。しかし、日本にはつい最近まであった「政府委員制度」のように、国会において大臣キャビネ職員が閣僚に代わって答弁するようなことは、フランスでは昔から行われていなかったという。その限りにおいては、大臣キャビネ職員はあくまで閣僚をその背後から補佐する「匿名の黒子」に徹すべき存在、顕名で表立った行動をすることは差し控えるべき存在と観念されてきたという。そうであれば、この点はイギリスの高級官僚の行動原理と似ている。

そうはいうものの、記者会見への対応をはじめとして、報道や広報に関して閣僚を補佐する仕事は、大臣キャビネのもう一つの重要な機能になっている。現に、省庁の一般行政職員に対して新聞取材やテレビ出演の申し入れなどがあった場合、この申し入れを受けた職員は大臣キャビネの判断を仰ぎ、その指示に従って相手方に諾否を回答するのが確立された慣行であるという。では、「匿名の黒子」に徹することとマス・メディアに対応することとをどのように両立させているのであろうか。そのために、大臣キャビネには報道や広報のプロを任用し、マス・メディアへの対応はこれら報道担当や広報担当に委ねているのである。大臣キャビネの官房長がマス・メディアの表面に「顔出し」することはまずないという。この構造は、首相府キャビネや大統領府キャビネにまで貫かれている。この点も、内閣官房長官や各省の事務次官が定例の記者会見を行う日本の官房系統組織の慣行とは大きく異なっている。

要するに、大臣キャビネは、政治と行政、政治家と行政職員、政治機構と官僚機構の間の橋渡し役を演じているのである。そこで、大臣キャビネ職員はその役割遂行上の必要から国会議員たちと日常頻繁に接触している。だからこそ、政治家との縁故が生まれ、大臣キャビネへの登用の道も開かれ、その後の立身出世への跳躍台にもなるのである。フランスでは、国会議員の側に行政府に対して物申したいことがある場合には、直接に政治家である閣僚に対して物申すべきものとされ、国会議員が行政府の一般行政職員に個別に接触し、個別の陳情案件について仲介斡旋を行うことは、固く禁じられている。にもかかわらず、大臣キャビネ職員はその職務遂行上国会議員に接触する人々になっている。こうして、フランスでは、大臣キャビネは国会議員に開かれた官僚機構の唯一の窓口になっている。

5 大臣キャビネと国会議員の関係

そこで、われわれ日本人には新たな疑問が生まれる。この国会議員と大臣キャビネ職員との接触は、許認可処分、物品調達や請負工事の入札や契約、並びに公共事業の箇所付けなどに関する政官業癒着の温床になるおそれはないのか。この点に関連してまず再確認しておかなければならないのは、フランスの大臣キャビネの任務と組織形態は、文書課、人事課、会計課を主要3課としている日本の各省の大臣官房とは全く異なっているということである。フランスの大臣キャビネの任務は閣僚の政策立案の補佐機能に純化されていて、許認可処分、物品調達や請負工事の入札や契約、公共事業の箇所付けなどの個別具体の行政決定には関与していない。また、省庁の職員人事は通常は省庁の総局に設置されている人事部の所管になっていて、大臣キャビネの所管ではない。職員人事への政治家の介入は「高級職」の自由任用と「大臣キャビネ職員」の政治任用とに限定されていて、省庁の各局の職員人事にまでは及んでいない。

それにしても、フランスの国会議員たちがそれぞれ地元選挙区の地方利益の実現のために各省の閣僚とその大臣キャビネ職員に対して活発な陳情合戦を展開してきたことは、政治学者には周知の事実である。そうであれば、こうして国会議員から寄せられた要望が閣僚やその大臣キャビネ職員を介して原局原課に伝えられ、その行政決定を不当に歪めているおそれはないのであろうか。ある市町村の市町村長が国会議員から大臣に就任し、大臣として当該市町村の地域振興のために尽力したといった事例は決して珍しくないとのことであったが、それ以上のことを聞き出すことはできなかった。

ただ、ボルドー大学の政治学教授からは、この問題をめぐる質疑応答の過程で、興味深い一つの解説を耳にした。この教授によれば、フランスの国会議員が国政事項に関して行政府に対して物申すとすれば、物申すべき相手方は厳格に閣僚に限定されている。省庁の各局の一般職員に対してはもとより、大臣キャビネ職員に対しても、直接に物申すことは公式には厳格に禁じられている。大臣キャビネ職員に対してその種の行為が行われているとすれば、それはあくまでも非公式の行為としてのはずである。ただし、この点で注意を要するのは、この国会議員が同時に市町村長や県議会議長などを兼職している場合、この国会議員が国会議員としての資格においてではなく市町村長や県議会議長などの地方政治家の資格において、地方政治事項に関して大臣キャビネ職員に陳情することは広く許容されている、というのである。しかし、この種の地方政治家による陳情行動は、1980年代のミッテラン大統領による分権改革の結果、そしてまた近年の国家財政の逼迫の結果、最近は著しく減少してきている、とも言い添えていた。

この教授の解説がはたして正鵠を得たものなのか、関係者に共通の了解事項になっているのか、残念ながら十分に確認できなかった。公式と非公式の使い分け、国政事項と地方政治事項の区分け、いずれも微妙きわまりない。異国の政治の仕組みをその法制上の建前と運用上の実態の両面において正確に理解することはむずかしい、と改めて痛感する。

6 大臣キャビネのコントロールの試みと挫折

ところで、前述したように、この大臣キャビネについてはいかなる根拠法令も存在していない。そこで、大臣キャビネ職員の任用は大臣キャビネの人件費予算の総枠の範囲内で自由に決定されてきている。その結果、大臣キャビネの規模はしだいに膨張を続け、その経費の手当てが不透明である事例も生じてきたため、歴代の内閣は、いくたびかこれを一定のルールの下におこうと試みたが、いずれの場合にも閣内のコンセンサスを得られず、挫折を繰り返してきたのだという。1990年前後の時期に、ときの首相が大臣キャビネの定員に関する通牒を発したこともあったが、これまた遵守されずに終わった。最近では、2001年末の首相決定で大臣キャビネ職員に対するキャビネ手当の支給に大臣機密費を流用することが禁じられ、そして2002年1月1日付けの首相決定ですべての大臣機密費の支出について会計検査院による会計検査の実施が要請されたこともあったという。

さらに、念のために、大統領府官房長や首相府官房長の事実上の影響力と権威の上下関係を確認しておきたくて、現職官僚の最高位はどの職位かを訊ねてみたところ、この質問に対する回答にはコンセンサスが認められなかった。どうやら、日本の内閣官房副長官(事務担当)のように、衆目の一致する最高位の職位と言い得るものは、フランスには存在していないようである。すなわち、「高級職」に係る特別俸給表上で最高位の格付けを受けているのは国務院副院長であって、権威の面ではこの国務院副院長が最高位に位置している。内閣事務総局事務総長の職位には財務監査官群に属する高級官僚から登用されている例が多く、しかも歴代内閣に続けて仕えその在任期間が長くなっていることが多いので、現職官僚の中ではこの内閣事務総局事務総長が最年長者になっている可能性が高い。しかし、ときの内閣の実質的な政策決定に深く関与している点では、この内閣事務総局事務総長も首相府官房長や大統領府官房長には及ばないということになっているようである。

7 高級官僚の優遇措置に対する評価と批判

話が若干横道に外れるが、今回のヒアリング行脚において、先方の回答が二つに割れ、大いに困惑させられた点があった。それは、現職官僚が選挙に出馬し国会議員に当選した場合に、その身分上の扱いが「派遣」であるのかそれとも「休職」であるのかという点についてであった。何度も問い質し再確認を求めたところ、結論的には、「派遣」の扱いになっているとみるのが正しいようである。そうであれば、国会議員になる場合も、高級官僚が大臣キャビネ職員に登用される場合と同様の扱いになっていることになる。

「派遣」であれ「休職」であれ、いずれにしろ、定年年齢(65歳)以内であれば、国会議員になっても官僚の身分そのものは喪失せず、将来再び現職官僚として行政府の職位に復帰する資格を保有し続けているのであって、明らかに官僚に対する優遇である。これが「派遣」となれば、その優遇の度合いは一段と強いと言わざるを得ない。しかも、国会議員が閣僚に就任したときには国会議員職を辞職しなければならない憲法原理と均衡がとれていないようにも思われる。そこで、この点についても各人の所見を訊ねてみたが、これに対する回答は、ほぼ共通して、官僚に対する過剰な優遇という批判は繰り返しあるものの、これが持続的な大きな世論になったことは一度もないとのことであった。

総じて、フランスにおける高級官僚に対する優遇は、この国の国家公務員試験(コンクール)の制度、1学年約100名を受け入れ27か月の研修期間で高級官僚を養成している国立行政学院(ENA)の制度、その卒業生たちが就職していく国務院職員群、会計検査院職員群、財務監査官群などのグラン・コールをはじめ、外務・領事職群、知事職群、その他の高級行政職群などのコール(職員群)の制度、そして任官補職の仕組みを基本にしている公務員制度などから構成されている、この国の超エリート主義の伝統に支えられている。そして、この超エリート主義の伝統については、社会的な批判が全くないわけではない。極左や極右の政党はこれを批判している。また、マス・メディアによる論評も、共和国のエリートの再生産システムとして良好に機能していると見るものと、出身階層が固定されていてエリートの拡大再生産システムになっていないと見るものとに二分されている。しかし、こうした批判もまた、これまでのところ、持続的な大きな世論になってはいないと言えるようである。

なお、政府の側では、こうした批判に応え、20年ほど前から、国立行政学院(ENA)に年々受け入れる学生の裾野を広げるべく種々の試みを重ねてきているとのことであった。こうして、高等商業学校出身の学生などが誕生した反面、国務院がその1988年の報告書で警鐘を鳴らしているように、法律学の素養に欠ける者が首席で卒業し国務院職員群に就職してくるなどの、新しい問題も発生しているという。

フランスにおける政治任用に関する現地調査の結果報告は以上である。


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