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第1編 人事行政

特別寄稿 政治任用 〜専門家の目から見た展望と留意点〜

フランスにおける政治任用

III 日本の政官関係の改革についての私見


最後に、日本における政官関係の改革に関する私見を簡潔に述べて、本稿を締め括ることにしたい。

戦後日本の通算38年間に及ぶ自民党一党支配体制の下で確立されてきた政治体制は、その基本において官僚主導体制であったと認めざるを得ない。そこで、1993年の自民党の分裂以降の連立政権時代に入って、この官僚主導体制を政治主導体制に転換するために、まず衆議院議員の選挙制度が中選挙区制から小選挙区・比例代表並立制に改められた。また、「小沢構想」に基づいて、「政府委員制度」の廃止、党首討論制度の導入、副大臣・大臣政務官制度の導入が行われた。これに続いて、「橋本行革」に由来する改革として、内閣機能の強化、中央省庁の統合などが実施された。そして、小泉政権の下では、内閣提出法案の与党による事前審査の慣習の見直しや政権公約に基づく総選挙の実施などが進められてきた。

官僚主導体制から政治主導体制への転換は、内閣と国民の関係、内閣と国会の関係、内閣と与党の関係、内閣と各省庁官僚機構との関係など、あらゆる局面に幅広く波及していくべき性質の改革課題である。国家公務員制度についても、こうした大きな流れの中の一環として、この流れの趣旨に適合した改革を求められている。政治主導体制の確立を希求する政治家たちは、内閣の施政方針にこれまで以上に忠実に奉仕する官僚機構を求め、そのための方策の一環として、これまでは一般職の官僚に独占されてきた職位への自由任用や政治任用の余地の拡大を求めてくることは必至の状況にある。

問題は、主要先進諸国並みの政治主導体制を確立する方策として、この日本のこれまでの諸条件に最も良く適合した政官関係とはどのような形態のものか、である。人事院『平成15年度年次報告書』の特集記事「政治任用:主要諸国における実態」は米英独仏4か国の政治任用の諸形態を紹介しているが、このうちのアメリカ合衆国連邦政府の政治任用の形態は大統領制の下でのもので、議院内閣制を採用している日本とは背景となる政治制度を大きく異にしているので、これを比較の対象からひとまず除外すると、主要先進諸国の政官関係の形態はイギリス型とドイツ・フランス型とに大別される。日本は、この両形態のどちらの形態に近づくべきなのか、それとも第三の新しい形態を目指すべきなのか。結論から先に明らかにしてしまえば、第三の新しい形態の構築を目指すべきである。

「小沢構想」に基づいてすでに導入された副大臣・大臣政務官制度はイギリスの議院内閣制の下で確立された政官関係をモデルにしたものであった。したがって、イギリス型の政官関係の形態こそ最善とする立場に立てば、この上さらに行政府の職位への自由任用や政治任用について検討する必要はないはずであった。ところが、続いて実施された「橋本行革」では、内閣官房の強化や内閣府諸機関の創設が行われ、従来の内閣内政審議室長や内閣外政審議室長などの職位が特別職の内閣官房副長官補などに改められた。この一般職の特別職化が、はたして自由任用化を意味するに止まるのか政治任用化を意味しているのか、必ずしも明らかでない。しかし、そこには、ドイツ・フランス型に類似した現職官僚の政治任用に発展していく少なくとも余地が認められる。しかし、この種の政治任用の対象とする職位の範囲をこれ以上に大幅に拡大すると、イギリス型とドイツ・フランス型の双方を併用した形態になって、行政府の頂点を占める政治任用者の比重が過大になるのみならず、一般職公務員の政治に対する姿勢と心構えを無用に混乱させる結果になるのではないかと憂慮している。

それだけでなく、現職官僚からの政治任用を拡大していくのであれば、彼らが政治任用職から解任されたときの処遇方策を整えておかなければならないことになる。だが、フランスの大臣キャビネ職員に対する「派遣」の制度やドイツの政治的官吏に対する「一時退職」や終身恩給の制度のような、高級官僚に対する特別に手厚い優遇措置は、現在の日本の国民世論に受け入れられるとはとても思えない。したがって、一般職の職位の一部を特別職の職位に改めるにしても、その職位の範囲は法令で明確に定め、できるだけ狭い範囲内に限定されるべきである。

このことを大前提にした上で、ここで一つ重要な提言をしておきたい。それは、フランスの「高級職」と「大臣キャビネ職員」の区別を一つの参考にして、「自由任用」と「政治任用」の両概念を明確に区別して運用することである。

まず審議官級以上の高級官僚の任免権を各省大臣から内閣総理大臣の手に移すとともに、これらの職位をいかなる資格要件も問わないものに改め、官僚機構の内外から自由に人材を登用できる「自由任用」の対象にすべきである。そして、この自由任用によって登用された民間人はその時点で一般職公務員の身分を取得するものとし、かれらを登用した内閣総理大臣が退任したときにもこれとともに退任することを強要されない身分保障を受けるものとする。この措置によって、各省のセクショナリズムは大幅に緩和され、高級官僚の忠誠心は徐々に内閣に向けられていくようになると確信する。この措置によって、この国の政治家たちの期待は概ね充たされるのではないかと考える。

この措置に加えてさらに、フランスの「大臣キャビネ職員」と同様に、閣僚とその進退を共にすべき「政治任用」の職位の対象範囲までも拡大するのであれば、それは各省庁の事務次官の職位への拡大に止めるべきである。

最後の最後に強調しておきたいことがもう1点ある。それは、「自由任用」や「政治任用」の範囲をこれまで以上に拡張する場合には、その反面で、政治と行政の「分離の原則」を徹底する必要があるということである。政治家は、「自由任用」や「政治任用」の対象になっていない本省庁課長級以下の一般職公務員の人事には決して介入してはならないという原則、並びに一般職公務員が所掌している許認可処分、物品調達や請負工事の入札や契約、公共事業の箇所付けなどの個別具体の行政決定に決して介入してはならないという原則などを、明確に法制化することである。


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