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第1編 人事行政

第1部 人事行政この1年の主な動きと今後の課題

公務員の在り方 〜その志・使命感の原点を探る〜

4 これからの行政官の役割とそれを支える志・使命感


(1) 国家公務員にかかわる原則・基準

行政をめぐる環境の変化、相互関係の変容の中で、現代の国家公務員制度において何を変えるかと同時に何を普遍的理念として守り、維持すべきかについては、公務員制度の意義と公務員の特質を踏まえつつ、十分議論をする必要があると考えられる。

改革路線を推し進めるイギリスにおいて検討されている国家公務員に関する新しい綱領案は、次のように規定している。

「国家公務員は政策の策定・実施や公務遂行を支える政府の不可欠で重要な部分を構成しており、成績主義に基づき、公平かつ公開の競争により任用される。国家公務員は、廉潔性(integrity)、誠実性(honesty)、客観性(objectivity)、公平性(impartiality)といった国家公務員の基本的理念(core values)に基づいて任務を遂行する。

廉潔性(integrity)
職務遂行の際には、公共の利益を公務員個人の利益より優先すること。
誠実性(honesty)
嘘をつかず、正直であること。
客観性(objectivity)
事実関係を十分に分析した上で助言や決定を行うこと。
公平性(impartiality)
偏見なく真の事実にのみ基づいて任務を遂行すること。政治的に中立であるべき公務において、国家公務員は業務に自己の政治的見解を反映させてはならず、ましてや公的資金を党派的・政治的目的をもって使ってはならない。」

日本では憲法第15条第2項において公務員は「全体の奉仕者」であると規定され、国家公務員法では、平等取扱の原則、成績主義の原則、服務に関する基準、政治的行為の制限、私企業からの隔離などが定められており、公務員の在り方を考える際には、これら普遍性をもつ規範の意味するところを改めて確認する必要があると思われる。

(2) 公共的価値の実現

行政の役割は、個人の自由と社会の正義の実現、現在と将来の安心と安全、豊かさの追求と弱者の救済、自然・景観の保護など、社会にとって大切な公共的価値を具体化することにあると考えられる。人々が生活していく上で欠くことのできない人々の間の信頼感、安心感なども重要な公共的価値であると考えられる。

そして、このような行政の役割を認識した上で、自らがその一端を担っているという意識、公共の福祉を増進しているという実感と確信を持ちうることが、いつの時代にも国の行政を支える行政官の志や使命感の原点となると思われる。

社会における資源配分の効率性は、有効性、費用対効果、不確定性への対応などに配慮した市場的手法の活用により高められるとしても、社会的価値、公共的価値の形成やそれを実現するための政策の提示や選択に当たって、社会の現状を踏まえ、理論的分析を基に、専門的で中立公正の立場から行政官が果たすべき役割は、重要であり、職業公務員として本来の機能の発揮が期待されていると考えられる。

(3) 社会経済における公正な基準の設定

規制緩和を進めて民が自由に活動できる社会になると、官の機能は従前とは質的な転換を迫られることになる。民に大きな自由を認める分、ルールとしての法律や規則を明確にしたり、市場の監視機能などを強化することが必要となる分野もあると考えられる。

不正やリスクの発生を防止・抑止するためのルールやシステムを作り、事実上の力の差異がある場合にも公正な競争を可能とし、公平な機会が与えられるルールの設定を行い、かつ中長期的な視点から将来世代の利害を考慮した社会的制度設計を行う役割は、国の行政の機能として、従来以上に期待される場面が増えてくると考えられる。

(4) 行政官の志・使命感の原点

行政が取り組む課題において、専門的な知見と現場感覚を備え、公共的な価値の実現を目指すとともに、人々の幸せのために働くことに生きがいを感じて、日々の努力と研鑽を続け、その実現に努力する倫理観を備えた職業公務員の存在は、日本の社会や行政を支える基盤である。

現在、国民の行政に対する信頼が揺らいでいるが、国民の信頼を再構築するには、行政の不手際や非能率、特権的な慣行など、指弾を受けるようなことがないかどうか、国民の行政や公務員に対する不信の原因について真摯に反省し、改めることが基本となる。また、国民からの信頼を得ることは、公務員の職務遂行に当たっての誇りや志、自信の回復を支え、行政の機能の発揮につながるものと考えられる。

国の行政に携わる公務員は、常に、志と使命感を持ちつつ、「全体の奉仕者」としてその職務を遂行しなければならないが、今後、このような高い志と使命感をいかに醸成していくか、公共哲学や倫理の素養を含め、思考や判断の基軸となるべき公共精神をいかに培っていくかについて、採用段階における資質の検証に止まらず、行政部内における人材育成の過程でも、改めて真剣に取り組んでいくことが必要である。

次節では、これらを考察するのに際して有用と思われる先輩行政官や先達の姿、これからの行政官の在り方を考える上で必要と思われる視点等について論述された有識者からの寄稿文を掲げることとする。


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