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第1編 人事行政

第1部 人事行政この1年の主な動きと今後の課題

ダム技術者の背中

 豊かで、深く、強靱な


公共事業は公共性が高ければ高いほど、事業地の人々にとってメリットは少なくデメリットばかりだ。

ダムがその良い例である。ダムの洪水効果や水道用水や発電の利益を受けるのは、下流の都市の人々である。それに対して、ダム水没地の人々は家屋、土地のみならず、自分達の思い出を全て奪われてしまう。

巨大な国家事業の公共性の前に、押しつぶされそうになる水没者。その一人一人の心情を支えるのが、ダム現場の技術者の役目となる。代換地の造成、道路、水道、道路斜面の緑化の図面を示す。それをもとに、意見を交わし、修正していく。具体的な将来設計の議論の中で、水没者たちは水没する寂しさを自分自身で乗り越え、希望の将来に向かって歩いていく勇気を得ていく。

そのためには、現場の技術者は水没者たちに、信頼されなければならない。信頼を得るためには、自分自身の全人格を晒さなければならない。会合では酒も入り和やかに進む。しかし、心の緊張を弛緩させてはいけない。

ダム現場の技術者たちは、途方もないほど豊かで、深く、強靱な人間性を要求されてしまうのだ。

その後30年間以上、私は公共事業の行政で何度も何度も苦しい局面に立った。その私を励ましてくれたのが、山奥のダム現場で、重い荷物を背負っていた先輩たちの後姿であった。


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