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第1編 人事行政
【第1部】 今後の幹部要員の確保・育成の在り方 〜民間企業や諸外国の実態を踏まえて〜
第3節 諸外国の幹部公務員の確保・育成システム
1 米国
(1) 職業公務員制度の特徴
米国は、連邦制国家であり、連邦政府は憲法で委ねられた権限を有するとともに、立法、行政、司法の三権の分立原則が徹底している。
国家元首である大統領は、行政権の長であり、4年ごとの選挙で国民から選ばれるため、議会に対してではなく、直接に国民に対して責任を負っている。
米国連邦公務員は、独立以来の伝統で、行政の上層部のポストに政治任用者が任用される一方、いわゆる猟官制と成績主義(メリット・システム)との間のきっ抗の歴史があり、政治任用者と職業公務員の範囲は時代によって変動がある。
現在、各省の長官、次官、次官補などの高級管理職(約1,400)は大統領直接任命の政治任用者であり、部長・課長級の上級管理職(Senior Executive Service (SES))については、その1割(約600)が各省長官任命の政治任用者となっている。これらの政治任用者には、権力分立の観点から、議会の議員の就任は認められておらず、おおむね民間企業や法律事務所、教育・研究機関から登用されており、職業公務員出身者も多い。これら政治任用者は、政権と進退を共にするが、より短期に交替する場合も多い。(図9)
職業公務員は、上級管理職(SES)に就いている者を含め、政治任用者を補佐しつつ、執行業務における直接の担い手となっている。
一般の職員の任用は、メリット・システムの下、公正・公開の競争試験により行うことが原則である。採用は、任命権者である各省庁により個別の官職ごとに、空席ポストへの欠員補充として行われるのが通例である。
連邦政府は、様々な施策を通じて人材確保に努めているが、過去の公務員バッシングの影響もあり、優秀な学生の獲得には、困難が伴うようである。
職業公務員について、我が国のような人事ローテーションは通常はなく、個人が空席に応募して異動・昇進していくのが基本である。中堅層以上では、長期間公務に勤務して部内昇進していく職員が多い傾向にある。(図10)
(2) 大統領研修員計画
優秀な大学院修了者を公務に誘致するため、「大統領研修員計画(Presidential Management Fellows Program)」が設けられている。この制度は、修士以上の学位の取得者又は取得見込者で、大学院長の推薦を受けた者が応募できるものであり、試験により最終候補者を選抜し、各省庁は最終候補者の中から面接などを通じて採用者を決定する。毎年、主要大学大学院出身者を含め、400人程度が採用される。(表4)
採用された者は、2年間の研修期間中、年80時間の研修を受けながら複数の部局で経験を積む。
この研修期間を終えた後は、通常、課長補佐級の官職に就き、その後は、他の職員と同様、競争により昇進していくことになり、特別に上位の官職への昇任が約束されたものではない。
なお、行政の上層部に政治任用者が多いことと相まって、この研修期間終了後、離職する者も多く、必ずしも幹部養成システムとしての役割が期待されているわけではないようである。
(3) 職業公務員としての幹部職員の育成・選抜
上級管理職(SES)の制度は、幹部職員の能力向上を図るとともに、組織内での流動性を高めるため、厳格な官職中心主義からより個人の能力を重視した仕組みとなるよう、1979年に設けられたものである。
各省庁は、SESの官職に職業公務員を採用しようとする場合、政府全体に部内公告し、応募者の中から候補者を決定する。SESが備えるべき要件として、変革する力、人を導く力、結果志向、人と連携する力などが重視されている。候補者の選定に当たっては、省内に幹部人材委員会が設けられ、外部の資格審査委員会による資格審査を経て、任命権者が任命する。なお、外部公募も行うかどうかは各省庁の判断に委ねられている。
一般の職員がSESとなるために必要な資格要件を身に付けさせるための研修として、各省庁共通の「SES候補者育成プログラム」が設けられており、政府全体への部内公告を通じて応募者を選抜する。選抜された者は、座学や実務などを組み合わせた12か月間の研修を受け、能力開発を行う。このほか、各省庁においても、職員の能力向上のため、大学などと協同して、研修計画を策定している。大統領研修員計画によって採用された者がどの程度SESに昇進しているかは不明である。
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