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第1編 人事行政
【第1部】 今後の幹部要員の確保・育成の在り方 〜民間企業や諸外国の実態を踏まえて〜
第3節 諸外国の幹部公務員の確保・育成システム
3 フランス
(1) 職業公務員制度の特徴
フランスにおいては、国家元首である大統領が首相・閣僚の任命権、国民議会(下院)の解散権等の政治的権限を持つ一方で、大統領は議会には責任を有していない。大統領に任命される首相は、大統領だけでなく議会に対しても責任を負うとともに、内政について広範な権限を有している。
同国においては、伝統的に、政府が果たすべき役割に対して国民は大きな期待を寄せ、政策決定等における職業公務員の役割も大きい。例えば、局長以上の高級職(本省で約250、大使や地方長官を含めると約600)については、民間からの起用も含め、大臣が自由に任用できることとされているが、実際にはその大部分が職業公務員出身者である。また、首相や大臣を側近として直接補佐する組織であるキャビネの職員についても、その7〜8割は職業公務員出身者である。
社会のリーダー養成機関としての位置付けも有する国立行政学院(Ecole nationale d’administration (ENA))や理工科学校(Ecole polytechnique)の出身者が公務の上層部を占め、政界・財界への人材供給源にもなっている。ENAや理工科学校は、大学よりも格上の高等教育機関たるグランゼコール(grandes ecoles)と呼ばれ、厳しい選抜を勝ち抜いた少数の者が入学を許されるという徹底したエリート選別・養成システムが採られている。また、米国等とは異なり、公務外からの人材の流入は限定的となっている反面、公務員が官吏としての身分・所属を残したまま民間企業や政界などで勤務することは広範に行われている。
このようなシステムは、レベルの高い公務員の輩出に資するものとして国民からも長年受け入れられてきているが、政界と行政との関係が密接すぎる、ENA卒業生の出身階層が限られており世界観が似ているなどの批判もある。
人事管理においては、およそ900に分かれた職員群(コール(corps):職務が類似し、同一の身分規程が適用されるグループ)が基本単位となっており、採用試験も後述のENA等採用試験の場合を除き、職員群ごとに行われている。コールの多くは単一の省庁に属するが、省庁横断的なコールも200程度あり、いずれの場合であっても官吏は所属する省庁というよりも所属する職員群への帰属意識が強いといわれている。
また、職員群の間には序列(カテゴリー)があり、ENAや理工科学校を卒業した者は上位に位置する職員群に入る。さらに、上位の職員群の中に、「グラン・コール(grands corps)」と呼ばれる特に威信の高い職員群がいくつか存在しているが、そこに入るためには、後述するように、ENA等の修了時の成績が決定的な意味を持っており、幹部育成において教育課程が果たす役割に大きな信頼が置かれていることがうかがえる。
(2) 幹部候補者の採用
事務系の幹部候補者の柱はENA卒業生からの採用となっている。ENAは厳しい入学選抜、2年を超える密度の濃い育成プログラムなどの特色があり、卒業生は、卒業後早い時期から幹部ポストに就任する。
こうしたENAを通じた幹部候補者採用・育成システムが創設されたのは第二次世界大戦直後であるが、その背景には、高級官僚の力不足が国の苦難を招いたとの反省があり、それまで公務員採用に当たって職務上必要な能力が軽視されていたこと、行政官に不可欠である政治・社会・経済・行政などの学問が十分に教えられてこなかったこと等の問題の除去を目指す改革であったとされている。
- 毎年約100 人が入学し、入学と同時に見習職員としての地位を獲得し、給与が支給される。
- 入学試験には、部外試験(高等教育を修了した28 歳未満の者)のほか、部内試験(4年以上の公務歴を有する40 歳以下の者)及び第三種試験(8年以上、地方議員として又は民間企業で勤務した40歳未満の者)が設けられており、入学後の扱いは同じである。
- 入学試験の内容をみると、卒業後、早期に責任ある地位に就くことが想定されていることも反映して、部外試験の場合、以下のとおり多岐にわたる幅広い素養が問われる試験となっている。
- (部外試験の内容)
- ♦ 公法
- ♦ 経済学
- ♦ 文化一般
- ♦ 社会問題
- ♦ EUに関する問題
- ♦ 外国語
- ♦ 公共財政学
- ♦ 国際問題
- ♦ 人物試験
- ♦ 体育実技など
- 部内試験及び第三種試験では、職務上の専門分野に係る資料に基づく文書作成が試験科目に 入るなどの若干の違いはあるが、基本的な試験内容は部外試験とほぼ共通したものとなって いる。
- 2007 年度の入学者は、部外試験46人、部内試験35人、第三種試験9 人である。
- ENA入学後、研修期間は2 年3 か月であり、次の①〜④で構成されている。また、座学においても、現役の官僚など実務経験者が教官となっており、実践を中心とする集中的な教育が行われている。
(3) 幹部候補者の育成・選抜
ENA卒業後の昇進経路は、ある程度までは年功的に昇進していくことが多いとされるが、所属する職員群により異なるほか、個人のイニシアティブに左右される面も強い。
グラン・コールに属する職員は、もともと省庁横断的な統制や調整を任務としていることから、各省大臣のキャビネや様々な中枢ポストを中心に、省庁の枠を超えた異動を頻繁に行い、昇進も早く、最上層の政治任用ポスト(局長等)の多数を占める。
グラン・コール以外の職員群に配属された者についても、昇進は早く、ENA卒業後数年して、30歳そこそこで課長クラスになることが多い。グラン・コールに比べれば、最初に入った省庁でキャリアを積むことが中心となっているが、他省庁、地方公共団体、国際機関、民間企業への異動なども頻繁に行われている。
なお、技術系官僚については、理工科学校が主たる供給源となっており、同校はENAと同様に、単なる技術者養成機関ではなく、社会のリーダーたる人材養成も目指している。理工科学校卒業後各職員群に採用されるが、特に技術系のグラン・コールである鉱山技師群及び橋梁土木技師群の所属職員については、各省庁、地方公共団体、公営企業等など広い分野で勤務している。
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