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第1編 人事行政

【第1部】 今後の幹部要員の確保・育成の在り方 〜民間企業や諸外国の実態を踏まえて〜

第3節 諸外国の幹部公務員の確保・育成システム

4 ドイツ


(1) 職業公務員制度の特徴

ドイツ連邦共和国の国家元首は、連邦議会及び各州議会の代表等から選ばれる連邦大統領であり、外交団の接受、連邦議会への首相候補の提案、各大臣・幹部官吏・裁判官などの任免などを行うが役割は象徴的である。内閣は、首相と各大臣から成るが、政策の基本方針を決定するのは、連邦議会によって選出され、議会に対して単独で責任を負う首相であり、その行政運営における実権は大きい。

ドイツの公勤務者は、伝統的に、公法上の勤務・忠誠関係に立ち、公権力の行使等に関わる業務を担う「官吏(Beamte)」と、私法上の雇用関係にある「公務被用者(Tarifbeschaftigte)」に分かれている。

このうち、官吏は、ドイツの政治体制・社会制度の中における有力な専門職業集団の一つであるが、全体の奉仕者として、業務遂行に当たり、中立的でなければならないとされ、知識・専門性をもって国家の発展・維持に当たるという職業倫理を持つ。

大臣及び政務次官が基本的に連邦議会議員である以外は、各府省の構成員はすべて官吏ないし公務被用者である。ただ、事務次官や局長などの法定された約400の高位ポストは「政治的官吏」として、任用は成績主義に基づき主に部内登用されるが、いつでも一時退職(一定期間、給与・割増恩給を支給)に付され得る地位にある。

官吏の任用は、教育課程と強く結びついている。官吏の官職は、「ラウフバーン(Laufbahn)」によって学歴及び専門領域を資格要件として分類されており、高級職(大学卒)、上級職(専門大学卒)、中級職(実科学校卒)、単純業務職(基幹学校卒)の4階層に大別される。例えば、高級職には、本省課長、参事官などが該当し、その他の職は、より下位の職制が分類されている。各ラウフバーンへの採用については、一般公募により、条件付官吏に採用され2〜3年程度の準備勤務(条件付官吏関係)に従事し、その後、ラウフバーン試験に合格すれば、2〜3年の見習勤務(見習官吏関係)を経て、終身官吏となるのが基本的な流れであり、能力実証と教育訓練が組み合わされて慎重に選別された者が、身分保障のある官吏として登用される。上位のラウフバーンへの異動(昇進)は、上位のラウフバーン試験に合格するか、連邦人事委員会(注)等の資格認定を得る必要があるが、事例は少ない模様である。

(注) 連邦人事委員会は、職業官吏制度の中立性の確保及び成績主義の原則の遵守を任務とし、そのため連邦人事委員会の委員は独立し、法律にのみ従うとされている。連邦人事委員会は、委員長を含め8人で構成されており、ラウフバーン試験についての承認やラウフバーン試験を経ない採用に当たっての能力検証等を行っている。
(2) 幹部候補者の採用

本省課長級以上の職は、高級職ラウフバーンに対応しており、高級職ラウフバーンへの採用は、伝統的に大半が法学専攻者(Juristen)であり、例えば連邦内務省では約9割を占めている。

法学専攻の場合は、準備勤務やラウフバーン試験が、各州で行われる法曹養成と共通であり、司法・行政官庁等で修習を行った後、筆記試験・口述試験に合格し、法曹資格を取得した者のうち優秀層を中心に採用される。

経済学・財政学・社会学などの専攻の場合は、準備勤務としての2年間のうちに、連邦官庁、州政府等をはじめ国際機関・法人などでの勤務や行政大学院での修習を行い、各修習の最終段階ではレポート作成が義務付けられている。ラウフバーン試験は、数日にわたる専門分野の筆記試験と、専門分野を中心とした口述試験が行われる。

各府省での採用に当たっては、成績のほかに、管理能力、コミュニケーション能力、社会性・協調性などの能力・適性が重視され、討論、ロールプレイ、面接等を通じて人物を見極める。

(3) 幹部候補者の育成・選抜

高級職ラウフバーンの官吏の場合、準備勤務を経て、課付きの参事官(課長補佐級)として正式任用されると、日本のような定期異動はなく、部内公募に応募することによって、異動、昇進などキャリア形成を図ることになる。俸給表の等級は、一定程度まで一律に昇格するのが通例だが、ポスト減や人員構成などにより、課長ポストにつけない高級職官吏も増えつつあるようである。能力開発のため、連邦行政アカデミーが設けられており、各府省での研修を補完している。

政治的官吏である事務次官、局長については、公募は行われない。事務次官は、大臣が省内に限らず、各省、州の高級職ラウフバーン資格者の中から人選するのが通例である。局長については、部内の者が昇進する場合が多く、官房で作った候補者リストの中から事務次官が候補者を推薦し、大臣が決定するのが通例である。仮に、大臣が、公務外から事務次官や局長を任用しようとする場合には、連邦人事委員会の承認が必要であり、加えて、候補者が高級職ラウフバーン資格を有しないときは、同人事委員会による能力審査が必要となる。(表6

[表6]主要省の事務次官の経歴等(2008 年4 月現在)

ドイツ 幹部候補者の育成・選抜

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