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第1編 人事行政

【第1部】 今後の幹部要員の確保・育成の在り方 〜民間企業や諸外国の実態を踏まえて〜

第4節 今後の幹部要員の確保・育成の在り方


人事院は、採用時1回の試験で将来が決まるのは是正すべきとの基本認識に立った上で、今後の幹部要員の確保・育成について、公平で効果的な能力・実績に基づく選抜を行うこと、複雑化・高度化した行政需要に機動的に対応できる幹部要員を訓練し育成する仕組みを構築していくことについて、採用試験や研修の在り方も含め検討に着手しているところである。

第2節でみたとおり、民間企業においては、新規学卒者採用を中心としつつも、採用年次にとらわれず役職段階ごとに幹部の絞り込みを行っており、特に部長クラスにおいては厳しく選別を行っている。また、幹部の養成のため、教育・研修プログラムや人事ローテーションなどの取組を行っており、コストもかけている。

諸外国の状況をみると、基本的に職業公務員は行政の専門家として政治を支え、政策の選択肢を提示したり、政治の決定を公正かつ着実に執行する役割を担っている。そのような役割の中核となるのは幹部行政官であり、その候補たる要員の採用や育成・選抜の方法については、各国の歴史的背景、統治機構や政治任用の考え方の違い等を反映し様々な仕組みがとられている。例えばフランスやドイツのように入口において職員を複数のグループに分け、幹部候補を区分した上で、その区分に基づいてその後の人事管理が行われる国もあれば、英国や米国のように特別な採用形態をとった上で、一定期間育成のための人事ローテーションを行うものの、その後は他の職員と同じ条件で選抜する国もある。

今後、人事院としても、このような民間企業の状況や諸外国の実態も参考にしながら、上述の検討課題を中心に検討を進めていくこととしたい。検討に当たっての留意点を整理すれば以下のとおりである。

(1) 行政の中枢を担うべき者に求められる資質・能力

人材の確保・育成に当たっては、幹部要員としてどのような資質・能力を備える必要があるかを整理することが不可欠である。その上で、そのような資質・能力を潜在的に具備する者を採用するには何を検証すべきか、あるいはそのような資質・能力を備えた者を育て上げるにはどのような育成方法が適切かということを改めて考える必要がある。

(2) 公務における人材育成の特性

(1)と関連するが、今日、国際化や行政の複雑化・高度化が進む中で、いずれの国においても行政官に求められる資質のレベルはますます高くなっている。政治を的確にサポートするためには、幹部行政官は行政のプロフェッショナルとして、専門分野への精通はもちろん、行政全般を見渡す広い視点や深い洞察力が求められる。加えて、行政の公正性を確保するため、幹部公務員は、全体の奉仕者としての高い使命感と倫理観を培うことが必要である。幹部要員の育成に当たっては、特にこれらの点に留意する必要がある。

(3) 新規学卒者採用と経験者採用の組合せ

我が国の雇用慣行においては、これまで新規学卒者中心の採用が行われ、幹部候補者もその中から選抜される傾向が続いてきている。一方で、人材の流動化も進む中で、今後公務においても、経験者採用が進むものと思われる。これまで経験者として採用された者には、専門分野における知識や経験が期待される場合が多かったが、今後は、多様な人材の確保といった要請からの民間人材の活用も考えられ、幹部要員の確保・育成という視点で、経験者採用をどのように位置付けるかという点も今後の検討課題になると考える。

(4) 育成機会の付与の在り方

幹部要員の育成には、政策形成にかかわるポストや他府省勤務、海外留学、民間派遣などの機会を戦略的に付与することが必要となるが、これらの機会の付与の対象者は限定されざるを得ない。このため、特定の採用試験の合格者を第一段階的な意味で幹部要員としての育成対象とすることが考えられるが、この場合においても、育成途中において幹部候補としてふさわしくないことが判明した者の取扱いや、他の採用試験合格者からの育成への参加についての透明性のあるルールを設定しておく必要がある。

なお、幅広い経験を付与する際にも、同時に専門性の蓄積という視点も踏まえておくことが重要と考える。

(5) 能力・実績に基づく昇進

公務員の人事管理はメリット・システムの原則の下、能力・実績に基づいて行われる必要がある。したがって、特別な育成を受けた場合であっても、それ故に自動的に昇進が約束されるものではなく、昇進は人事評価に基づき厳正に行われる必要がある。これまで、Ⅰ種試験採用者は、ある時点までは比較的一律に昇進するという人事運用が行われてきているが、今後、人事評価を活用しながら、採用同期の間でも厳しく選別する人事運用に移行していく必要がある。また、職員の適性も考慮しつつ、平成20年4月に導入された専門スタッフ職俸給表の活用も図っていく必要がある。

なお、前述のとおり、現行の試験体系の下でⅡ種・Ⅲ種試験採用者の積極的登用を進めているが、この取組は新たな仕組みの検討と並行して引き続き推進していく必要がある。 以上を踏まえ今後の幹部要員の確保と育成の在り方を考えるに当たり、仮に幹部候補の育成を念頭においた試験を検討するのであれば、その採用規模をどうするかという点が重要な検討対象となる。

また、現在、事務官と技官に区分して人事管理が行われている実態があることについて、今後どのように考えるのかということも課題になるものと考える。

人事院としては、採用試験、研修や任用制度を所管する第三者機関、専門機関としての立場から、国民に公正かつ効率的な行政運営を保障するため、幹部要員の確保・育成の在り方について引き続き幅広く検討していくこととしたい。


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