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第1編 《人事行政》

【第2部】 幹部職員等の育成と選抜

第2章 国以外の幹部職員の育成・選抜の状況

第3節 主要国における幹部職員の育成・選抜の状況

4 アメリカ

(1)幹部要員の確保
ア 入口選抜の概要

アメリカにおいては、いわゆる開放型制度(オープン・システム)が採られ、役職段階を問わず外部からの採用も多い仕組みになっているため、採用段階で幹部要員を選抜する上記3か国のような仕組みはない。他方、処遇等の面で、有名大学・大学院を修了した者にとっては公務が必ずしも魅力ある職場とはみられていないこともあり、優秀な大学院修了者の確保策として「大統領研修員計画」(Presidential Management Fellows Program)が従来から設けられている。同計画により、毎年約300~450人程度が各省庁の研修員ポストで2年間職務に従事する。研修員としての勤務成績が良好である場合、新たな空席応募・選考を経ることなく、通常のポスト(専門官~課長補佐級)に正式任用され、実際には研修員のほとんどが正式任用される。なお、各省庁は、大統領研修員を採用した場合には、採用事務や研修に要した経費を人事管理庁に支払う必要がある。

また、2012年7月より導入されたPathways Programでは、「大統領研修員計画」に加え、大学・大学院の新卒者を対象に各省庁が自ら採用選考、研修を行う新卒者計画(Recent Graduate Program)が導入された。このプログラムでは人事管理庁への経費支払いの必要はなく、また、大卒者でも応募できる。

ただし、両計画とも、研修プログラム修了時に上記の任用方式が採られることを除けば、その後の特段の配慮はなく、昇進を目指す場合は、他の職員と同様に、空席への応募が必要となる。

イ 人事管理の特色

アメリカの連邦政府職員は、政治任用される最上級幹部を除けば、課長・部長級からなる上級管理職(Senior Executive Service(SES))と、それより下位の一般職員(General Service(GS))とに大別される。SESは、その分野における長年の専門性を持った管理職員・幹部職員として政治任用者たる最上級幹部を支えることが期待されている。

SESもGSも、成績主義原則に基づき、各職員が空席に応募してポストを獲得することが必要となり、空席は原則として外部に対しても公募される。ただし、GSの中にも、政策決定や機密事項に関わるために公募から除外されている官職があり、この場合には、当該省庁とホワイトハウスの大統領人事室との協議により選考される。また、SESについては、当該省庁のSES候補者養成プログラム((2)イで後述)を経た者の中に適任と判断される候補者がいる場合には、空席公募を経る必要がない。なお、SESにおいては、政治任用者の割合は1割未満とすることが法定されており、9割以上が非政治任用のポストとされている。この非政治任用のポストについては、実際には、その大半につき職業公務員が選任されており、民間等からの外部任用者は1割程度にとどまっている。

人事管理は省庁単位で行われ、各ポストへの応募者については、面接及び過去の経歴又は人事評価等の審査が行われ、選考権限は当該ポストの直属上司に大幅に委任されているが、SESの選考については、後述するように、人事管理庁が編成する資質審査委員会が関与することで公正性の確保が図られている。

なお、一部の官職では、空席応募による昇進を経ず、一定期間良好に勤務した場合、同種の上位等級の官職に昇進することが認められている(例:人事アシスタント(GS-7)から人事専門官(GS-9)に昇進)。ただし、これも自動的な昇進というわけではなく、複数段階の上司による承認、昇任に伴う人件費増の支弁を可能とする予算措置が前提となる。

ウ 乗換ルートの有無

アメリカには特段の幹部要員養成ルートがないため、ルートの乗換えも想定されていない。

(2)幹部要員の昇進実態
ア 基本ルール

アメリカでは局長級以上のポストは政治任用であるため、他の3か国のように昇進を勝ち抜いた職業公務員がこうしたポストに就くことは基本的に想定されておらず、SESまでが通常の昇進の限界となる。

SESについては、下位ポストとは異なり、各省庁人事当局が選考した候補者に対し、人事管理庁が各省庁の協力を得て編成する資質審査委員会がSESに求められる5つの基本資質((3)で後述)を満たしているかを審査する。1度目の審査では了解を得られない事例はよくあるが、その場合、省庁側は補足説明を付して再度審査を受け、2度目の審査で了承されるケースがほとんどである。

なお、SESに関しては、政治任用者は官職総数の1割未満に抑えることが法律で定められており、人事管理庁は各省庁に対して、その省庁のSES官職数及びそのうち非政治任用者のみが就くことができる官職数を2年ごとに提示する。

イ 昇進の実態

各省庁は、職業公務員からのSESへの登用を計画的に進める目的で、SES候補者養成プログラムを設けている。プログラムは、SESに求められる5つの基本資質を醸成するためのチームプロジェクトなどの課題活動や、これまで経験していない職務分野への短期間配置(政治家との接点が少なかった職員に議会対応を経験させるなど)で構成されている。同プログラムへの応募者は多く、倍率は省庁によって異なるが、約5~60倍となっている。

このプログラム修了者は、SESの空席が出た場合に、まず候補者として検討対象となる。ただし、実際には、非政治任用のSES職員のうち、上記プログラムを経た者は12%にとどまっており(2012年5月現在)、多くの者は、一般公募手続に沿って応募し、外部応募者等との競争を経て、資質審査委員会の審査で認められた上でSESへの昇進を果たしている。

ウ 昇進ルートから外れた者の扱い

昇進を希望しているにもかかわらず、何度応募しても昇進がかなわない職員への対応については、不足している資質について人事当局から助言を行うなどの配慮をする省庁がある一方、当該職員の直属上司に対応を委ね、特段の配慮を行っていない省庁もあるなど様々である。

なお、昇進した場合に、ワークライフ・バランスの実現が困難になり得ること、他方で昇進がもたらす給与面での魅力が薄いことなどから、SESへの昇進を忌避する者も一部に存在する。

(3)幹部要員の育成とキャリアパス

人事管理庁は、SESに要求される「5つの基本資質」として、①創造性、柔軟性、戦略的思考など変化への対応力、②対立的事態への対応、部下の育成やチームプレイなどの統率力、③説明力や将来を見据えた方策などの結果を出す力、④人材、財源、情報などの戦略的活用力、⑤政治的な機転や交渉力など協力体制の構築力を定めており、省庁を超えた幅広い勤務経験が期待されている。

ただし、実際にSESとなっている職員の経歴をみると、例えば財務省においては、金融監督分野での深い知識を有していたり、内国歳入庁では民間企業で税法関係業務を担当していた者が採用されているなど、行政分野の細分化に伴い、職務固有の専門能力がポスト獲得に大きく影響しているとみられる。

(4)幹部選抜時の特色 ~局長以上は政治任用~

局長以上のポストは政治任用であり、SESまでとは全く異なった方式が採られている。ホワイトハウスの大統領人事室が候補者情報を管理しており、職歴等の経験、専門分野等も踏まえて、特定ポストごとに候補者を選定し、議会上院の同意が必要な場合には同意手続も経た上で任命を行う。

政治任用者は、民間企業、法律事務所、教育・研究機関等からの登用のほか、大統領選挙における陣営担当者、政治献金者なども含まれている。ただし、分野によっては、職業公務員からの登用も全くないわけではなく、特に大使は、約3分の2が職業外交官出身者であるとされる。

(5)最近の動き

2012年より人材確保のためのPathways Programが導入されたが、幹部要員の育成・選抜に関しては従来の施策との大きな変化はないと考えられる。


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