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第1編 《人事行政》

【第2部】女性国家公務員の採用・登用の拡大に向けて

第2章 民間企業における女性登用等の取組

第2節 民間企業の調査・ヒアリング等

3 調査・ヒアリング等の結果

以下、各社ごとに、調査・ヒアリング等で得られた知見等のうち、主要なものを項目ごとに幾つか取り上げ、女性幹部等の話を随所に交えながら紹介する。なお、取り上げた事項は、各社固有の背景事情等を反映しているものも含まれている。

(1)女性の登用を進めていくための基本的施策

A社は、かつては総合職・一般職というコース別雇用管理制度を設けていたが、より女性の活躍を促進するという観点から、近年これを改め、勤務本拠地や、職種(法人営業、個人営業及び管理・サービス)を社員が選択する制度を取り入れている。

A社ダイバーシティ担当部長の話

当社に限らず銀行全般の傾向だと思いますが、総合職・一般職のコース別制度では、総合職は法人営業に配属して全国各地への転勤があり、一般職は個人営業や管理・サービス部門に配属して転勤は少ないということで、これが事実上男女を分けてしまったと思います。

勤務本拠地を選択する制度は、転勤エリアを男女とも、関東・関西から選べる制度です。導入前は、男性は家を買ったものの転勤があればいつ戻れるのか不安、女性にしてもどこに転勤するか分からないとライフプランが立てにくかったと思います。また、各自が個人、法人、管理・サービスの分野を選び、キャリア形成の方向性を選択する制度は、現状、法人は男性が多く、管理・サービスは女性が多いということはありますが、男女関わらず自ら選択する、という点がポイントです。

B社では、10年前から経営トップの強いリーダーシップにより、人材の価値を公平に見るという観点から能力実績主義の徹底を進めている。また、登用結果や活躍している社員について、積極的に全社員に周知している。

B社経営トップの話

会社を取り巻くビジネス環境が大きく変化する中、それに沿って評価基準を見直しました。その上で、男女とも、同じ成績を上げれば同じ評価をし、昇格もするという方針を社内に広く目に見えるようにしました。

B社人事部長の話

もともと当社では能力や成果に基づいて公平・公正に行うという人事の哲学がありましたが、女性は上司から管理職候補としてはあまり期待されていないという雰囲気がありました。それがトップの方針で大きく変わってきました。支店長や役員への女性の登用は、象徴的なものではなく、能力評価に基づいて行っています。

B社フロントランナーの女性常務の話

当社では、自己の働きによってポジションも給料も大きく変わってきます。女性の支店長や部長が何人も出ても、一生懸命仕事をして会社に貢献をしていかないと、そのままのポストにはいられなくなってしまうという危機意識は常に持っています。

女性の登用に関連して、管理職等の数値目標を掲げた取組が行われている場合があるが、C社では、単に数値目標を設定しているだけでなく、10年以上前から女性採用を強化し、準備段階を経て目標を設定している。

C社ダイバーシティ担当部(部長代理)の話

2000年以降女性の採用を強化した結果、数年後にはその採用者が課長職に任用される年代に入ります。彼女たちがしっかりと業務で成果を出しながらキャリアを重ね、活躍し続けてくれれば、管理職の数を現在の倍以上にするという目標は、達成可能だと思っています。

女性登用の数値目標を設けること自体について、賛否両論がありましたが、議論を重ね、提示された様々な意見を真摯に受け止めつつ、やると決断したら経営の意思として明確に示し、あえて高めの数値目標を設けて取り組んでいます。ずっと続けるということではなく、ある程度女性リーダーの母集団ができてくれば、数値目標を設けて進めるやり方は必要なくなると思いますが、現状においては、目標を定め、女性を始めとする多様な人材の活躍支援を推進することが事業拡大・競争力強化に寄与するものと考え取り組む必要があります。登用に当たっての基本的な考え方は、持ち得る能力を発揮し、最大限の成果を生み出せる人材を任用するということであり、そこに男女差はありません。

(2)上司や職場の理解、ロールモデルの重要性

男女雇用機会均等法施行前後に採用された現在の女性幹部は、どのようにして他の女性従業員とは異なる幹部候補に至るキャリアパスを歩んだのか、という点についてみると、その女性の高い能力と、女性が活躍することへの上司や職場の理解とがマッチすることが必要とされている。

A社フロントランナーの女性部長の話

私が入社した時代は男性社会ですので、女性の銀行員は3年勤めれば十分だという時代でした。結婚、そして出産となればさすがに仕事との両立は務まらないと思って辞めようと考えていたのですが、当時の上司から「これからは女性も働く時代だから、その道筋を作っていったらどうだ」と勧められました。

支店長が率先して、「みんなで彼女を支えていこう」という空気を作ってくださったことには本当に感謝しています。出産後、義母が実家に帰り子供の面倒を見る人がいない中、会社に行かなければならないような時に、支店で一緒に面倒を見てくださったこともありました。そのような環境だったからこそ続けることができたのだと思います。

総合職であっても女性の昇進への意欲が必ずしも強くない場合があるため、昇進することによって得られる仕事の面白さなどをフロントランナーから伝えている。

D社フロントランナーの女性執行役員の話

私は、若い人には、「ポジションが高くなるほど自分の思うことが実現できる確率が高まる」と伝えています。「昇進しなくてよい」という人は、経験をしていないから言うのでしょう。指示されたことを「それは違う」と思いながらやるより、自分でこうした方が良いと思うことを実行する方が楽しいはずです。

育児休業から帰ってきて、昇進試験を受けなくてもいいと言っていた女性に、私が受験を勧め、実際に昇進したところ、「あの時、受けろと言ってもらって良かった」と、気持ちが変わっていました。

新たな職域に女性が配置された場合や、女性管理職が少ない場合などロールモデル(将来目指したいと思う模範となる存在)がいないと、仕事のやり方やスタイルを身に付けるまでに、相応の期間と苦労を要している。

C社フロントランナーの女性部長の話

私が採用された頃、女性の営業職としての採用が始まったばかりで、周りにロールモデルとなる女性の先輩がほとんどいない中で、自分なりの営業スタイルを作りながらやってきました。最初は男性先輩のまねをするのですが、どこかで行き詰まってしまうので、自分のやり方を形作っていくのに苦労しました。

初めて管理職である課長を命じられた時は、自分の営業スタイルがまだつかめていなかった上に、課長職が何をやるかという具体的なイメージが湧いていなかったため随分動揺しました。男性課長のイメージと自分とのギャップを埋められず、1年くらいはかなり悩みましたし、周りも混乱させたと思います。紆余曲折を経る中で、ギャップは埋められなくても私は私らしいやり方で成果を出していくしかないと開き直りました。

初めて女性の管理職登用が実現したケースでは、上司から実績を上げ得る機会を与えられ、それに応えたことで、昇進に対する周囲の納得も得られたことが指摘されている。

D社フロントランナーの女性執行役員の話

私が課長一歩前の段階に昇進した際には、当時の上司から、「男社会で昇進する以上、男性に評価される働き方をしろ。甘やかされると、結局、後で仕事がやりにくくなるから、周りがかわいそうだと思うくらいに締め上げる」と言われ、私もそれに応えて、子会社に多数の社員を転籍させるというきつい仕事を引き受けて成果を上げました。登用を進めるのであれば、まずは機会を与え、本人も実績を出すことが正しいやり方だと思います。

(3)育成における計画性と多様性の重視

当初はまず女性を管理職ポストに就けることから始めたが、現在は、上を目指すには男女問わず計画的なキャリア作りが必要という考え方が定着し、上司も部下の幅広いキャリア形成を支援している。

B社フロントランナーの女性常務の話

私の場合は、課長をやっていた時に突然呼ばれて、「支店長をやってみないか」と言われました。今でこそ女性も男性と同じようにキャリア作りを意識していますが、当時はとにかくポストに就けて、まず仕事をさせてみるところから始まりました。支店経営にはいろいろな出来事が起きるので、経験値がない分、職務経験以外のもので予測していかないといけない。このため、今は、支店と本部を結ぶような部署に在籍し、1年程度いろいろな支店を担当・訪問し、勉強した上で支店長になる人もいます。

部下には男女問わずキャリアをつけるために様々な経験を積ませることを心掛けています。海外で働きたいとかこの部署に行きたいという希望を出せば、道筋をなるべくつけてあげるようにしました。

従来、女性は特定の職域に配置されることが多かったが、近年、能力のある女性は若い時期から幹部候補として扱い、幅広く職務経験を積ませて計画的に育成する方針が打ち出されている。

D社フロントランナーの女性執行役員の話

当社は基本的に女性に対して非常に優しく、きつそうな部署への配属や海外派遣などはさせない体質なのですが、私自身、こうした育成パターンが良いとは思っていません。私も海外や工場での勤務などを経験していればもっと立派な企業人になれたのにと、そこに自分の限界を感じます。

私は「女性の感性」といったものは信用していません。女性は環境や広報といった部署に配属されることが多いのですが、開発でも生産でも営業でも、入っていって切り開いていく人がいないと、女性の職場も拡大していかない。

当社でも、最近、若い段階で幹部候補としてのマークをつけ、その人に関しては計画的に育成しようという方針を打ち出しました。今後、会社に期待することは、幹部候補としてマークをつけた人は、男女問わずきっちり王道でステップを踏んで育成することです。

ただ、当社も含めた各社で、女性登用の数字にこだわるあまり、せっかく王道の育成ルートに乗っている人材でも、職務経験のプロセスを途中で切り上げて上位のポストに就けてしまう傾向があるのは、本人にとっても会社にとってもあまりにももったいないと感じます。

幹部候補生から幹部を選抜する際に、男性ではなく女性を選択する理由として、多様性や変化という要素も重要視されている。

C社フロントランナーの女性部長の話

部長に昇進する時に、もう一人男性の候補がいたのですが、結果的に私が推薦された理由について、上司がこう教えてくれました。「男性候補の方はすごく優秀で、普通に実績も上げて良い部長になるだろうと想像がつく。君は、実績は上がらないかもしれないが、何か変わった面白いことをやってくれるのではないかと思ったからだ。」異なる個性を持つ人材が入れば、嫌でも変化は起こりますから、変化を期待して登用してくださったのだろうと思います。

C社ダイバーシティ担当部(部長代理)の話

グループ全体の経営方針として、グローバル化を進めることが最優先課題となっています。グローバルでの激しいビジネス環境の変化にきちんと対応し、お客様のニーズに応え、価値提供していくためには、これまでのモノカルチャーな組織や発想の下でビジネスを行うのではなく、構成メンバーの多様化、グループ・グローバルでの適材適所を実現することが重要であり、競争優位の強い組織を構築する上での大前提です。

(4)育児休業等から基幹戦力への復帰と昇進への動機付け

育児休業等から復帰した後、処遇だけ追いつかせるよりも、男性と同様の職務経験を与えて鍛えることが重要であるとされている。

D社フロントランナーの女性執行役員の話

育児休業から復帰後、本気で上に上がっていこうと考えている人であれば、一時期は緩やかな働き方を選ぶことがあったとしても、できるだけ早く基幹的なトラックに復帰したいのではないでしょうか。

育児休業などブランクがあった人に対しては、成績が伴わないまま昇進を急ぐのではなく、数年遅れても、その分に見合うだけの職務経験をきちんと積ませるべきだと思います。職務で経験していないことを研修などで代替することはできないのではないでしょうか。

時短勤務をしたとか、海外や地方への派遣や深夜の仕事ができないといった状況の間、女性たちに言っているのは、「1年、2年の遅れがなんだ」ということです。(女性登用の機運がなかったために)10年遅れた私が、同期男性よりも遅い時期に重要な職務機会を付与されたことで、結局は役員にまでなれたのですから。

育児休業後に基幹的戦力に復帰する動機付けを用意し、休業しても、後から成果を上げて取り戻す働き方を可能としている。

B社フロントランナーの女性常務の話

当社では、休業後、原則は元部署へ復帰しますが、営業などはいきなり最先端に戻るのも大変なので、クライアントサポート課というところで顧客全体のバックオフィス的な業務から復帰できるルートも選択できます。ただ、その場合は、給料はあまり変わらないけれどボーナスは大きく違います。そこは差があって当たり前で、当社は以前からその辺ははっきりしています。

B社人事部長の話

もともと年次主義ではなく徹底した能力・実績主義なので、復帰後、しっかり仕事をすれば後からいくらでも追いつけるようになっています。育児休業を取得した後、クライアントサポート課から始めて、ある程度仕事の感覚が戻ってくると、個人の成績がつく営業の現場に戻りたいと自分から言い出す社員も多いです。近年では、育児休業中でも、それまでの成績が優秀な社員を昇進させ、社内でも納得が得られています。

幹部昇進のルートは様々で、昇進のためにはこの時期にこれをしなければならないということはありません。今後、男性でも介護などで短時間勤務を選ばざるを得ない場面が増え、その分を後で取り戻せる人事制度が必要となると思います。どの職場でも、全員の能力をフル活用するためには、休んでも後で取り戻せる方法があるとよいのではないかと思います。

(5)労働時間の短縮

トップダウンで導入した19時前退社の徹底による働き方の転換は、特に女性のためを意図したわけではなかったが、結果的に、女性の活躍に向けて決定的な施策であったとされている。

B社人事部長の話

(19時前退社の徹底は)社長指示を受け、根回しもなく導入したのですが、社内ではやはり反発もあり、人事部の電話が鳴り止まない状態でした。しかし、毎日、全国の支店から19時以降残っていた人数等を人事部に報告してもらい、守られていない支店に徹底させるということを繰り返し進めました。

施策の結果、実働時間は確実に減り、集中して仕事を仕上げるため、日中は相当密度が濃くなったと思います。業績という意味でも、導入以前と比較して低下は全くみえませんでした。「ワークハード・ライフハード」で、仕事もプライベートも全力で頑張るという会社の考え方が伝わったのではないでしょうか。

所定外労働時間が多いなどの男性の働き方をどうするかが、今後の取組の方向性として重要であるとされている。

A社ダイバーシティ担当部長の話

女性ばかりにフォーカスされがちですが、女性がしっかりと働ける職場は、男性にとっても労働時間が短くて、家事や育児への参加が可能な職場だと思います。当社でも男性の育児休業取得者はまだ一桁しかいません。これからの10年は、女性が活躍する職場は男性も働きやすい職場と考え、その実現を目指していきます。


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