公平審査制度研究会
第5回議事概要
1 開催日時:平成23年11月22日(火)16:00~18:00
2 開催場所:人事院公平審理室
3 出席委員等:
<委員> (座長以外は五十音順)
高橋滋一橋大学大学院教授、飯島淳子東北大学大学院准教授、竹内寿立教大学准教授、畑瑞穂東京大学大学院教授、山野岳義地方公務員等ライフプラン協会理事長
<オブザーバー>
林史高東京地方裁判所判事(欠席)
4 議事内容
(1) 事務局より資料に基づき、「その他不利益処分」を巡る制度上・運用上の論点、勤務条件に関する行政措置の要求制度及び給与の決定に関する審査の申立て制度の在り方について説明
(2) 意見交換
5 意見交換
(1) 「その他不利益処分」を巡る制度上・運用上の論点について
○ 国家公務員法92条1項及び2項は、却下判定を直接想定していないようにも見えるが、当該規定は要件を満たしていることを前提とした規定であると思われることから、要件を欠く場合には広い意味での却下はあり得ると思う。事案が公平委員会に係属した後には却下できないということまで国公法が要求しているとは解せない。したがって、却下決定であれ、却下判定であれ、法律を改正することなく、制度上設けることは可能なのではないか。特に却下判定については、却下決定よりも手続的に慎重であるはずなので、国公法上存在が否定されているわけではないと思う。
○ 却下すべき事案についても承認判定を出すという、現行の取扱いには違和感を感じる。単に言葉の問題だけかもしれないが、やはり「却下」とするのが妥当ではないか。
○ 地方自治法に基づく国地方係争処理委員会において、法律上は却下の規定は設けられていないものの、条文解釈により却下している例(新潟県から出された新幹線の事案)がある。
○ 人事院規則13-1第7条により却下することはできないのか。
○ 実務の詳細については必ずしも承知していないが、受理要件の充足の程度によって、人事院会議による却下判定と局長専決による却下決定の二段構えにするのもあり得ると思う。明らかに受理要件を欠いている事案は決定で、それ以外は判定で却下するという方法もあるのではないか。
○ 事務局の説明では、人事院規則13-1第7条の制定時における議論では、同条を調査の結果法律上の利益がなかった場合に適用することは想定されていなかったとのことだが、そのような場合にも同条を用い、あるいは同条に必要な規定を設けて、却下決定又は却下判定を発出するという方法もあるのではないか。
○ 訴訟法的、手続法的な観点から却下決定、却下判定を設けるという整理はあり得るので、却下判定等は制度として十分可能なのではないか。
○ 却下通知における却下理由の記載内容に関して言えば、却下というのは、実体的な審査に入らず、形式的な要件の不備で行うことを考えると、詳しく却下通知に理由を記すというのは、そもそもあり得ないのではないかと思われる。
○ 精神疾患が疑われるような場合、診断書等の提出がなくても必ず受理する、という運用にすることには議論の余地があると思うが、診断書等が提出され、客観的・医学的にある程度証明されていれば受理して実体審理に入る、という運用とすることはあり得る選択肢だと思う。診断書等の提出が全くなければ却下するというのも一つの方法ではないか。
○ 比較的長期にわたり精神疾患に罹患しておらず、精神疾患である旨の診断をかつて受けていないが、処分時において一時的に精神疾患状態であったと主張する事案においては、診断書の提出は困難である。結局ケースバイケースで受理却下の判断をせざるを得ないのではないか。
○ 報復目的での転任・配置換処分については、「不利益」そのものであると思われるが、なぜ不利益性がないといえるのか。
○ 報復目的の処分であったとしても、職務内容等から見て実質的な降任処分に当たるとみなせれば、これまでと同様「その他不利益処分」に該当するものとして受理すれば足りるのではないか。
(2) 勤務条件に関する行政措置の要求制度について
○ 苦情審査委員会の規定が設けられた趣旨・目的はどのようなものか。制定経緯等は残っているのか。
人事院事務総局職員以外の委員としては、学者等を想定していたのか。
○ 行政措置要求と団体交渉の関係はどのようなものか。
組合事案の件数は、最近は減少傾向にあるのか。
○ 行政措置要求制度は、個人の救済のための制度であるので、団体交渉とは別であるという整理だろう。
口頭審理は、非公開でも実施できるものであるから、もっと利用されてもいいと思う。
個人事案の占める割合が増加している現状からすれば、口頭審理や苦情審査委員会をもっと活用すべきではないか。
○ 超過勤務に関する事案などについては、口頭審理で行うことになじむのではないか。
○ 要求件数が少ないというのも理由の一つであるとは思うが、人事院規則13-2は、人事院規則13-1に比べると手続規定が非常に簡素である。改正等の機会があれば、内容を整備して手続を明確にしてもよいのではないか。
○ 管理運営事項に関しては、民間労働法制では経営に関する事項の問題となるが、例えば、特定の支店や工場の経営といったことに関する判断は経営に関する事項として交渉の対象とはならないが、工場を閉鎖することによって人員整理が行われるなど、経営に関する事項が労働条件に影響を与える場合は義務的交渉事項になる。この意味では、管理運営事項でも勤務条件に関わるものは行政措置要求の対象となり得るという公務の整理は、民間に近いと思う。他方、公務では、民間に比して管理運営事項が広汎にわたっているという印象を持つ。
○ 労働条件の是正というのは、将来に向かって人事の基準が改められる効果がある。退職手当に関して言えば、その個人にとっては将来に向かった条件ではないものの、今後就労したいと考える者にとっては重要な要件であり、民間では当然労働条件とされている事項である。
民間の人事評価の基準については、代表的な教科書等では、義務的団交事項としている。数は少ないものの、裁判例で、職能資格制度から職務等級制度に変更するといった制度導入の場合については義務的団交事項に当たるとしているものがある。
○ 交渉対象事項と個別的救済制度を完全にパラレルに考えてよいのか疑問はある。
(3) 給与の決定に関する審査の申立て制度について
○ 下級審において、人事院の給与審査申立事案に関する決定について処分性を認めたものが存在するとのことだが、不服申立人適格を広げるという今般の議論の流れからすれば、給与決定についても処分性を認めていくという議論もあり得ると思う。
○ 給与決定に処分性が認められないとすると、勤勉手当の成績率が低いために勤勉手当の額が低いと考える場合、それを争う訴訟形態として、上位の成績率に決定された場合に支給される勤勉手当額との差額の給付を求める給付訴訟が考えられ、当事者訴訟として裁判所もそれを認めると思う。
○ 昇格については、多分に給与権者の裁量の問題であり、例えば、7級の職員が、本来自分は8級に昇格しているはずであると主張することが認められるかという問題はあるが、それは本案の問題であって、7級と8級との給与の差額を給付訴訟で争うことは訴訟形態としては認容されるべきであるし、現行法下では裁判所も認めると思う。昇格に活用する評価の結果が存在するのであれば、昇格期待権もある。
○ 勤勉手当の差額の給付を求める訴訟が可能なのであれば、昇格についても同様に可能ではないか。
○ 民間労働法制では、どのように昇格の運用を行っているのかが重要であり、例えば、男女差別により賃金差が生じているといったケースで、昇格の運用が機械的であって、かつ、客観的に判断できるような場合は、そこで裁量権を逸脱していれば請求認容となる可能性はある。
なお、賃金差額そのものの請求と、賃金差額相当額を損害賠償請求する方法があるが、おそらく後者の方が多いと思われる。
以 上