公平審査制度研究会
第6回議事概要
1 開催日時:平成24年1月27日(金)14:00~16:00
2 開催場所:人事院第1特別会議室
3 出席委員等:
<委員> (座長以外は五十音順)
高橋滋一橋大学大学院教授、飯島淳子東北大学大学院准教授、竹内寿立教大学准教授、畑瑞穂東京大学大学院教授、山野岳義地方公務員等ライフプラン協会理事長
<オブザーバー>
林史高東京地方裁判所判事
4 議事内容
(1) 事務局より資料に基づき、災害補償審査制度の在り方、第4回「『その他不利益処分』を巡る制度上・運用上の論点」に関連して提出した資料、集中審理方式・審理地の問題、証拠資料の取扱いの問題、鑑定の問題、判定書の在り方について説明
(2) 意見交換
5 意見交換
委員から出された意見、質疑は、以下のとおり。
(1) 災害補償審査制度の在り方について
○ 災害補償について、国が職権で災害を探知し、認定行為は処分ではない形で行うという仕組みをとったのはなぜか。
○ 民間の場合、労働基準法に災害補償の規定があり、当該労働者を雇用している使用者に災害補償給付を行う責任があると定められているが、使用者に資力がないと補償できないため、労基法制定と同時に労災保険法が定められ、保険料を集めて国が保険制度を運営し、そこから給付を行う仕組みになっている。労基法の災害補償制度は、使用者の当該労働者に対する責任であり、認定行為がなくても、災害時に補償の要件を具備した場合に、補償の請求権が発生する。一方、労災保険制度は保険の制度であり、保険事故に該当する場合に給付がなされる。
国家公務員の制度は、労基法の災害補償制度に近いものであり、災害が発生したら補償しなければならないので、雇い主に相当する国が補償する責任を負うことになっているのだと思われる。保険制度の仕組みを採っていないということだろう。
民間では、労基法の災害補償制度は、ほとんど全てが保険制度に代替されている。
○ 人事院の判定は、実施機関に対する拘束力があるにもかかわらず、処分性を有しないというのはどのような整理か。
○ 人事院の判定が実施機関に対する拘束力を持つということは、人事院が公務上の災害であると判定したときは、実施機関は補償の手続に入るように指示をするという意味であり、権利関係に変動はないという点で処分性がないということなのではないか。
○ 国家公務員の災害補償制度の仕組みであれば、処分性がないことになるのだろう。
○ 災害補償について、人事院の判定に処分性があるか否かの問題については、人事院が実施機関に対して拘束力のある判断ができるというところを捉えて、人事院の判断が国民の権利義務の変動に係ってくるという説明ができれば、処分性があるという説明もできるかもしれない。
○ 仮に却下決定が処分性を認められて取り消された場合、その後人事院の判定が再びなされて、公務災害でないという判断がなされた場合に、さらに給付訴訟で争うとなると、最終的に給付を求める側からすれば迂遠な解決にしかならないと思う。実際に却下決定に処分性を認めたとしても、かなり迂遠なルートを用意することにしかならないように思われる。
○ 人事院規則13-3第17条は、申立人が口頭で意見を述べる権利について規定しているだけで、調査を行う者や、手続について規定されていない。行政不服審査法第31条のように、調査手続についての規定があった方が良いと思われるので、整理した方が良いだろう。
(2) 第5回「『その他不利益処分』を巡る制度上・運用上の論点」に関連して提出した資料について
○ 報復目的での転任処分であっても、水平異動である限りは現在の運用では不利益性を認めることが難しいということか。
報復目的の転任であることが明らかであるなど、不法行為にあたるような場合には、不利益性を広く認めて職員を救済することも考えられるのではないか。
○ 民間の場合は、使用者のとった人事上の措置に裁量権の逸脱があれば、権利の濫用であり許されないとして、争う余地はあると思う。報復目的で人事権限を行使してはならないという形で救済することはできると思う。
しかし、裁量権の範囲の逸脱を不利益性の中に読み込んで判断できるかどうかというところはさらに考慮が必要である。民間の場合は、不法行為の問題でもあるが、人事上の措置そのものの効力を争う余地もある。公務員の場合でも、何らかの形で人事発令の効力を争うことができてもおかしくないと思う。
○ 報復目的の転任処分のようなものについては、人事院は、人事行政を所管する立場から、行政レベルの判断を行い、あくまで主観的利益を必要とすることなく、客観的に処分を是正するということもあり得るのではないか。
(3) 集中審理方式・審理地の問題
○ 民事訴訟で集中審理を行う場合は、原則としてその前の準備を重ねている。現在、民事訴訟では、かなりの程度で集中審理を実施しているが、ある程度弁論準備を重ねた上で行われている。不利益処分審査でいう集中審理は、そういったものではなく、ほぼ初対面で行うものだとすれば、必要に応じて、後にもう1クール設けるというのもやむを得ないと思う。
○ 事件の内容によって、どういう訴訟運営をするのかが変わってくる。争点整理についても、争点が単純明瞭で当事者間で何度か書面のやりとりをするだけで整理できてしまうようなケースであれば、口頭弁論で行うこともあるし、争点が複雑多岐にわたるケースであれば、弁論準備手続を利用して争点整理を進めることもある。
どの方式が適切かというのは,どのような事案の内容で、どれだけの争点が出てくるか、ということによると思う。そもそも出されてきた審査請求書の内容から争点が明らかであれば、1回顔を合わせる程度で足りると思われるし、争点になりそうな事項が多数あるのであれば、当事者が集まって打合せをして、争点整理をするというのも良い方法だと思う。事案の見極めをして両方に対応できるシステムにしておくのがよいと思われる。
○ 行審法改正に向けた議論において、争点整理手続にヒントを得た審理促進のための仕組みの議論がされているのではないか。そういった議論も参考になる。
○ 刑事訴訟の手続では、被告人の最終陳述の場面で新たな主張がなされるということはあまりないと思われるが、例えば,その時点で弁護側からそれまでの主張構造が変わるような主張が出てきた場合は、検察官に主張立証の機会を与えるなどして、更に審理を進めることになる余地があるとは思う。
○ 地方労働委員会の場合は、どこで審理をするのか。
○ 地方労働委員会は各都道府県に1つなので、県庁所在地で審理を行っていると思う。
○ 基本的に県庁所在地で審理を行うが、北海道・沖縄のような場所は特別に配慮すればよいと思う。
(4) 証拠資料の取り扱いの問題について
○ 運用上、処分者側から先に証拠を提出させる方が、審理が円滑に進むように感じる。
○ 一般的な行政処分取消訴訟の場合、原告が訴状で処分を取り消すべき理由・違法性を主張するが、訴状提出の段階では原告が専ら処分庁から入手した資料の写しがいくつか提出されるだけの場合が多く、被告から,訴状に対する答弁として,処分が適法であることの主張と書証を提出されると、原告から処分の適法性を基礎付ける事実についての認否やこれに対する具体的な反論がされるという流れになることがよくある。このような例をみていくと,処分の適法性に関する主張や実質的な証拠を処分庁である被告側から先に提出させ、これに対して適宜請求者側に反論させていくのも効率が良いと思う。
(5) 鑑定の問題について
○ 鑑定の取扱いについては、請求者が非違行為を行った時点や辞職願を提出した時点で請求者に精神疾患があったという事情の立証責任がどちらにあるのかという点を考慮することが考えられる。例えば,非違行為、具体的には万引きのケースであれば、万引きの時点で責任能力があったということについて、刑事訴訟では検察官が立証責任を負うことと同様に考え,不利益処分審査では処分者が立証責任を負うという考え方もありうる。他方,辞職願の提出のケースであれば、辞職願を提出した時点で精神疾患のため意思能力がなかったということについて、民事訴訟では、辞職願の提出という法律行為の有効性を争う者が立証責任を負うことと同様に考え、請求者が立証責任を負うという考え方もあり得る。
不利益処分審査について,もしこのような点を整理ができるのであれば、立証責任を尽くす手段として、鑑定の申出をする権限を当事者に与えるのはあり得ると思う。
○ 不利益処分審査において鑑定を行う場合、鑑定費用は国側が全て負担するという点が、民事訴訟と異なるところだと思う。民事訴訟では鑑定を申請すると、当事者が費用を予納しなければならなくなる。申請の規定を整備してもしなくても、費用面ではあまり変わらないとも思う。
予算の問題は深刻な問題になると思う。人事訴訟は、職権探知主義と言われるが、裁判所が職権証拠調べをするかといえば、予算の問題もあってなされないということもあるので、予算の問題は実際には重要な問題になるだろう。
(6) 判定書の在り方について
○ 民事判決書では、在来様式と新様式というものがある。
在来様式は、判決の構成を「主文」・「事実」・「理由」に分けて、事実の部分で当事者の主張を主張立証責任に応じて書き分けていく。理由の部分で、事実認定等の判断を示し、最終的に請求認容か棄却かの結論を明らかにする。しかし、重複記載等を省いて簡潔なものとし、当事者のための読みやすい,わかりやすい判決にしようということで新様式が提言された。
新様式は、「主文」・「事実及び理由」という構成である。「事実及び理由」の部分では、事案の概要として,まず冒頭に、事件がどういう紛争類型でどの点が中心的な争点であるかを概説した上で、争いのない事実と主要な争点を、当事者の主張を含めて整理をした上で、争点に対する判断部分で,中心的な争点となっている事実認定や法の解釈について判断を示していく形式をとっている。重要な争点となっていない証拠の記載を簡略にしたり、在来様式における形式的な記載、例えば訴訟費用の負担等に関する法律の適用の説示等については極力省いたりして、当事者が真に知りたいことを中心に書くように整理したものになっている。
○ 在来様式と新様式は、併存しているのか。
○ 一般の民事訴訟では,大部分が新様式になっているが、依然として在来様式で書いた方がわかりやすいという事案もあるため、在来様式もまだ使われている。
○ どのような様式が適切かは、事件によるとしか言えない。ただし、同じ記述があまり何回も重複して出てくるのはどうかと思う。
以 上