人事院月報 2024年8月号 No.900
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8lで多く描いてきたので、何度か表紙絵に登場しています。この一連の作品は、コロナ禍で人と会わず、ただただアトリエに籠っていた頃に起きた心境の変化を基に描いた作品です。先述したとおり、私のコロナ禍は、ちょうど個人的にも社会とのつながりを失った時期と同時に始まりました。それまでは研究室や学生部屋に行けば、誰かが話し相手になってくれて、気晴らしをすることができました。しかし、大学を離れたと同時にコロナ禍になったため、展覧会会場で見に来てくれる人と話すことはおろか、展覧会さえもできなくなってしまったのです。一人でただただ飾ることができるか分からない絵を描き続けていると、どうしてもネガティブな感情にさいなまれがちで、まるで水の底にいるような気分でした。その出口も答えも分からない日々の中、ニューヨークで個展をしたわけですが、同じコロナ禍であっても、日本とニューヨークでは、対策方法や考え方が大きく違ったように思います。とにかくニューヨークは変化が速かったです。私が渡航した頃にはほとんどの人がワクチン接種を終えており、美術館では紙の地図やチケットが廃止され、全て電子化されていました。コーヒーショップでは、現金で一杯のコーヒーを買うこともできませんでした。日本から入国しても、特に規制がなかったし、建物の外では既にマスクを外して歩いていました。正直、ワクチンをまだ接種していなかった私は、ここでコロナに感染して死ぬのかなと頭をよぎることもありました。ただその変化の速さは、日本で悶々とした日々を過ごしていた身としては、少し羨ましくもありました。そしてついには、ニューヨークの街に期待もしていなかった私が、帰りの飛行機を待ちながら、この街にまた戻ってこなくてはいけないと考えていたのです。新しい『Expore』の始まりでした。それまで日本画なのだから日本で活動すればいいとしか考えていなかったのに、ニューヨーカーたちを眺め、巨大なアートシーンを見ているうちに、この街でまた作品を発表したいと熱望するようになっていたのです。人生何が起きるか本当に分かりません。この作品では、その変化の波を水紋になぞらえています。小さな気付きが影響し合うことで、だんだんと大きな波となり、一見関係のないものがつながりを持ち始めます。この作品を描いた後、応募を休んでいた院展で同じテーマで描いた『アクシデンタルインタラクション』という作品を発表しました。その作品は、天心記念茨城賞という賞を受賞して、現在は、茨城県立近代美術館の所蔵となっています。「Explore」令和5年8月1日発行(毎月1日発行) 通巻第888号人事院888_H1_H4_CC2023.indd 1公務員関係情報誌人事院月報人事行政報告諸外国政府における兼業等制度の調査の概要公務員問題懇話会2023/07/25 18:12月号No.888202310

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