人事院月報 2024年8月号 No.900
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いた「穏やかな気持ちになる作品を」とは程遠かったかもしれません。作品の多くが震災やコロナ、海外での体験など、むしろありふれた日常を失ったときに生まれていることに気付きます。画家のタイプも実に十人十色で、何気ない日常から人がほっとするような一コマを切り取る作家もいれば、誰もが共感するような壮大な風景を描く作家もいます。私の場合、自分の人生経験の中で感じたこと、生きていく上での気こうして振り返ってみると、当初考えて「Have a good day!」と叫んで出ていく付きをテーマにすることが多いです。そういう意味では、ありふれた日常からは作品が生まれにくいのかもしれません。そして今、私はこの原稿をニューヨークで書いています。ニューヨークに再び戻りたいという気持ちを抑えられず、アーティストインレジデンスに応募し、三か月の滞在が決まったのです。ここでの生活は、日本でありふれていないことがありふれています。突然水栓が吹き飛んで水浸しになる台所、いつまで待っても届かない郵便、車内で音楽を鳴らしながらダンスを踊って地下鉄の乗客、不法移民による車内販売、警官が誰かを取り押さえている現場にも何度も遭遇しました。ここに来る前にたくさんの人にニューヨークに行ったら作品が変わるのではないかと言われましたが、今回はむしろtoo much i状況です。頭の整理の方が追い付かず、少し考える時間が欲しいとさえ願っています。いやむしろ、日本に帰って平穏な日常を取り戻した時の方が、インスピレーションが湧いてくるのかもしれません。もはやそちらの方がありふれた日常ではないのですから。nformationといった(そめや・かおり) 2011年 院展奨励賞(同’13、’14、’15、’16、’17、’18、’23)2013年 春の院展外務大臣賞奨励賞(同’14、’15、’16、’20、’24)2014年 第2回郷さくら美術館2015年 第4回前田青邨顕彰中2018年 足立美術館賞2023年 天心記念茨城賞桜花賞奨励賞村奨学会中村賞日本画家 染そめや谷 香かおり理Profile1977年 島根県生まれ2002年 東京藝術大学大学院文化財保存学保存修復日本画専攻修士課程修了11

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