人事院月報 2024年10月号 No.902
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りだな」。先日、上司が口にした一言に肝を冷やした。二〇二三年五月から二四年五月まで、約一年間人事院や総務省公務員部を担当したが、残念ながら公務員の置かれた厳しい現実をクローズアップする記事ばかりを書いていた気がする。「キャリア官僚の志望者最少」「国家公務員、悩み相談最多」「定年後五人に一人が生活苦」「自治体退職者、一〇年で二倍」…過去記事の見出しを見返すだけで刺激的だ。インターネットなどでご覧になり、不快な思いをされた方も多いかと思う。大変申し訳ない。稿を書く際には罪悪感と共に親近感を抱いていたのも事実だ。記者の間でも話題となったが、公務員が置かれている現状は筆者が所属するメディア業界にも当てはまる部分が多い。過労死やハラスメント裁判と「お前の原稿は『公務員残酷物語』ばかただ、意外に感じるかもしれないが、原いった労働取材でも散見されるが、取材者にとって身近な話題になると、つい我が身(業界)に当てはめてしまいがちだ。 いくつか例を挙げてみたい。まずは長時間労働と不規則勤務だ。以前担当した省庁のある幹部は「長時間労働が是正されてこなかったのは当たり前だ。労基法が適用されない官僚が規制を設けて、それを遮二無二働くマスコミが伝えていた。説得力がない」とぼやいていた。一九年度から施行された働き方改革関連法などで改善したとはいえ、いまだにメディア業界では「長く働けるやつが偉い」との悪弊がはびこる。国家公務員の国会対応と同じように、取材の大半は〝他律的業務〟のため、自分たちの都合ではどうにもならない。故に抜本的な改善策もなかなか見えてこない。 「公務」の代わりに「報道の使命」が錦の御旗となり、プライベートを犠牲にしてでも目の前の仕事を優先せざるを得ない状況も生じている。仕方ない部分もあるが、大災害や国政選挙など注目度の高い大型取材案件では特に起きやすい。一時的とはいえ、休みは月に一〜二日、連日の深夜帰宅を強いられれば心身の不調を訴える職員もおのずと増える。 おおむね数年に一度ある異動や全国転勤もネックだ。筆者は約九年間で三か所の地方勤務を経て、東京本社に赴任した。東京に来てからも担当する省庁や取材テーマは毎年のように変わる。地方で働いていた時は中央省庁から出向してきた県警や県庁の幹部らと、酒を飲みながら不満をこぼしたこともある。転勤や異動には、様々な仕事・地域と関わりながら人脈やスキルを広げられる利点もある。一方で、専門性が身に付かず目に見える形で成長が実感できなかったり、子どもや配偶者を一方的に巻き込んひ ろ ば〜人事院への期待〜共同通信社くらし報道部記者水島佑介  残酷物語から幸福物語へ37

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