Felば、だれでも「新しいところでやっていけるのだろうか?」と不安になったり、初日は特に緊張したりということを経験したことがあると思います。慣れてくるまでは、分からないことも多いですし、人に聞かなければならないことも多いものです。「みんな忙しそうで、申し訳ない」「こんな質問してばかにされないか」など、様々な想像をしてしまうこともあるでしょうし、職場のルールも分からないので、わざとではなくても間違ったことをしてしまい、注意や指摘をされることもあるでしょう。新しい環境に入っていくというのは、それだけで精神的にしんどいことを経験する可能性があるものです。実際に、新しい環境への適応が難しいことを表すデータとして、全国の新卒の離職率は、一年以内で約一〇%、三年で約三〇%に上ります(厚生労働省「働く」ということを経験した人であれ「新規学卒者の離職状況」)。高卒者では更にその割合が高まります。「学習者」から「労働者」にシフトチェンジすることの困難さや、適応のために工夫が必要であることが分かります。本稿では、採用(新規・中途)、異動、昇進や人事交流により新たな環境に身を置くこととなった職員を念頭に、どのようにして心の健康を守りながら健康的に働けるか、労働者本人の視点と、職場及び上司の視点から話題を提供します。新しく入った従業員が新しい組織に加入した際に、その組織の文化・規範・価値観・期待される行動などを学び、順応するプロセスを「組織(再)社会化」と呼びます。組織(再)社会化がうまく進めば、職場に早くなじむことができます。その達成には四つの要素があり、①学習棄却(アンラーニング):これまで身に付けた仕事の方法や風土への意識を一度捨て、新たな組織にゼロからなじむように自分で仕向けること、②知識・スキルの獲得:業務に必要な知識と立ち振る舞いを早く習得し、反省点を次に反映させていくこと、③人脈の学習:業務を円滑に回すために必要な組織内の人脈を理解し、獲得すること、④評価基準と役割の理解:どのような行動が評価されるか知り、効率的に役割を全うできるようにすること、があります。この四つの要素が効果的に進行できるよう、組織は入職時のトレーニングや支援を行います。中途採用や異動は、学習棄却(アンラーニング)の課題も大きいので、同じ職種・業種だからといって、適応がスムーズにいくわけではなく、全く違う職種・業種に従事することになる中途採用や異動のケースと比べて組織参入時の困難や成果の達成率は変わらないと言われています。組織適応に関する研究では、「職場の仲間に受け入れられた」という受容感が生まれるまでに平均二・七か月、「仕事ができるdmanとDCLombardoが発表した適応にかかる時間寄 稿東京大学大学院医学系研究科精神保健学分野就職・異動・転職のストレス講師 ..働く人が新しい職場に適応していく過程佐々木那津新しい環境に適応するためのコツ~積極的メンタルヘルス・ケアのすすめ~03
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