人事院月報 2025年1月号 No.905
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1寄稿2025 1月号 人事院月報    甲南大学経営学部教授尾形真実哉オンボーディングの重要性じませる力」を有していなければ、人が出ていくだけの人材流出企業になってしまいます。それでは、労働力が枯渇し、会社の知識や技能の伝承も不可能になり、永続性も保てなくなります。「組織になじませる力」のない組織は淘汰される時代が、すぐそこまで来ているのです。転職社会の到来で生き残りを左右する重要な組織能力が、「組織になじませる力」なのです。これは、企業だけの問題ではありません。官公庁においても同様です。境界がなくなった現在の労働市場において、企業から官公庁への転職、官公庁から企業への転職も当たり前になってくるでしょう。そのとき、新しく入ってきた人を、うまく組織になじませるサポートや施策が充実している組織と充実していない組織とでは、どちらが組織としての魅力があるでしょうか。「組織になじませる力」は、組織の魅力にもつながり、採用ブランディングにも影響を及ぼすことになります。今、日本企業の官公庁・教育機関など)にも「組織になじませる力」が求められています。求められるようになったのかを、企業を例に説明したいと思います。以前の日本企業は、入社してから退職するまで、一つの企業で勤め上げる終身雇用が当たり前でした。生涯一企業キャリアであれば、働く個人のキャリア形成は企業に委ねられていたと言え、「キャリアデザイン」という意識を持つ労働者は、乏しかったと言えます。そのような環境では、労働者は入社した会社になじむほか選択肢はなかったし、会社側も新入社員する必要はありませんでした。転職される可能性も低いため、従業員のリテンション(長期定着)に頭を悩ませることもなく、「組織になじませる力」を備える必要はなかったと言えます。今、日本におけるいかなる組織(企業・なぜこれほど「組織になじませる力」がを環境になじませる努力をそのような環境は、バブル経済の崩壊によって崩れ去ることになります。終身雇用時代では考えられなかったリストラが、日本企業においても当たり前となり、会社に任せていた自分自身のキャリアは、働く個人が自分自身で管理しなければならなくなりました。そのような状況で、「キャリアデザイン」や「ポータブルスキル」(どこの会社にも持ち運びできる個人の能力)の重要性がうたわれるようになってきます。現在では、複数の企業でキャリアを形成する境界なきキャリア(バウンダリーレス・キャリア)が日本においても、当たり前となりました。転職が当たり前になれば、どうせ転職されるんだし、社員一人一人を組織になじませようとする努力は不要と考えることもできますが、むしろ、転職が当たり前だからこそ、社員一人一人を「組織になじませる力」が重要になってくるのです。転職社会において、会社が「組織にな〜人事部門の果たすべき役割を中心に〜本稿では、大学や高校を卒業して組織に参加してきた1 個人を「新卒採用者」、企業や官公庁など、仕事経験があり、別の組織から参加してきた個人を「中途採用者」、「新卒採用者」と「中途採用者」の双方を含む言葉として「新入社員」という言葉を用いることとします。04

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