工芸官は、国立印刷局の工芸部門に所属する、美術の専門技術を持つ職員で、製品デザイン・彫刻・線画デザイン・すき入れの四部門に分かれています。製品デザイン部門では、お札やパスポートといった各種製品のデザインを担当しています。単に芸術的に優れたデザインにするのではなく、お客様のニーズに合うこと、安定製造ができること、偽造されないことなどを踏まえた上で、ユニバーサルデザインを体現できるよう心掛けています。彫刻部門では、明治初期に西洋から伝わった彫刻技術を継承・発展させ、お札の基となる絵(原図)を基に、お札の肖像部分を細密に彫刻し、原版を作製しています。原図や写真を参考に、コンテ画を自ら描きあげた上で彫刻を行います。線画デザイン部門では、デジタル機器を駆使し、お札の背景の「彩紋模様」など、芸術的かつ精緻な模様のデザインを担当しています。また、原図を基に、彩紋模様や印刷版面に使用するデータを作成します。すき入れ部門では、伝統的な和紙の技術を活用し、長年伝承してきた「すき入れ」を担当しています。すき入れは、偽造が特に困難とされている技術です。新しいお札には、通常のすき入れ(肖像部分)に加え、肖像の背景に緻密な連続模様を施した「高精細すき入れ」を新たに導入しました。はじめに、工芸官の皆様はどのような業務を行っているの― でしょうか。▲お札の彩紋を作成する様子人事院総裁賞「職域部門」受賞150余年にわたり継承してきた伝統技術とデジタル技術とを融合して、20年ぶりとなる新しいお札のデザインを作り上げた。長年にわたる伝統技術の継承と技術開発が、高い偽造防止効果の基盤となっており、日本の通貨に対する信頼性確保に大きく貢献したことが認められました。102025 5月号 人事院月報独立行政法人国立印刷局 工芸部門伝統技術とデジタル技術の融合で世界に誇るお札を実現
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