作製されていた彩紋がCGを活用して作製されるようになり、すき入れ技術もより高精細化するためのノウハウを確立するなど、それぞれ進化を遂げてきました。これらは単にデジタル技術を取り入れるのではなく、大元となる伝統技術と偽造防止技術の基本を工芸官が理解し、日々の研鑽により体得して初めて、伝統技術とデジタル技術との融合を図ることができるものです。自分が携わった仕事の成果である製品が世に出回り、多くの方々の目に触れられることにやりがいを感じています。国民の皆様に親しみを持っていただくことも大事ですが、日本の文化・イメージを損ねないような製品の設計をすることが肝要です。重責ですが、日々やりがいを感じながら研鑽を重ねています。最近は、製品を製造するだけでなく、美術系の大学での講義や実技指導も行っており、講義等を通じて、学生にものづくりの難しさや楽しさを感じてもらえることにもやりがいを感じます。お札は、水や空気のように、私たちの日常生活になくてはならないものだと思います。国民の皆様がお札を、安心・安全に使えるように、工芸官は一丸となって、これからも技術力向上に努めてまいります。お札をじっくりと手に取る機会がありましたら、そのデザインや印刷技術にも目を向けていただき、日本のものづくりの素晴らしさを感じていただけたら嬉しい限りです。図柄の大きさや配置など、いくつもの条件をクリアしながら、偽造防止技術の効果を最大限に発揮しつつ、日本銀行券(お札の正式名称)としての品格が保たれるようなデザインを維持する必要があり、その点が苦労しました。密度が合わないと、印刷の際に潰れたりかすれたりと品質にばらつきが生じるので、緻密さと大量生産できる安定性とのバランスを意識しました。すき入れについては、肖像の表情が今までよりも自然に見えるよう徹底的に追求しました。紙の厚みを繊細にコントロールし、気が遠くなるような回数の試行錯誤を繰り返すことで、求める水準を達成することができました。版、インキ、印刷等)に対応させ、進化しながら約一五〇年にわたって工芸官に受け継がれています。これまで全て手描きのデザインだったものがコンピュータを活用するようになり、彫刻技術も手彫りの原版をデジタル化する技術を研究開発し、歯車を組み合わせて製品デザインについては、お札という限られたスペースの中で、また、彫刻・線画デザインについては、繊細すぎたり、画線幅やお札のデザインの技術は、偽造防止技術を施す製造プロセス(製― ― 今回、二〇年ぶりとなる新しいお札の発行を迎えましたが、デザインの作製にあたって特に大変だった作業があれば教えてください。新しいお札には伝統技術とデジタル技術が融合されています。次世代への技術伝承と新しい技術の習得の両方が求められますが、意識した点や苦労した点があれば教えてください。― 業務を通じてやりがいを感じられるのは、どのようなことでしょうか。― 最後に、国民の皆様へメッセージをお願いします。▲お札の原版の彫刻を行う様子博物館)▲ すき入れで作られた習作(東京国立人事院月報 No.909国民の生活・安全を支えるプロフェッショナルを表彰 ~第37回人事院総裁賞~特集11
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