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第16回(平成15年)「人事院総裁賞」職域グループ部門受賞者
 
 
「SARS感染地域の渦中へ」
 SARSは、平成14年11月に発生し、多数の死者を出した。ベトナム政府等からの要請により、国立病院医師を国際緊急援助隊専門家チームとして派遣しましたが、自分自身への感染の危険を顧みず、感染拡大防止に尽力し、当該国における征圧、蔓延終焉のきっかけ作り及び日本への感染の未然防止に貢献したことが認められました。
 

重症急性呼吸器症候群(SARS)感染拡大に対する
国際緊急援助隊専門家チーム
【業務内容】
 平成14年11月に中国広東省で発生した重症急性呼吸器症候群(SARS)は瞬く間に32ヵ国に流行し、日本への侵入も危惧されました。診断法や治療法が確立していない状況下で院内感染が多発し、世界中を恐怖に陥れました。SARSが猛威を振るっている時期に厚生労働省においては国立国際医療センターから5名、国立仙台病院から1名の医師をベトナム、中国、台湾に延べ5回にわたり緊急派遣し、現地におけるSARS対策や在留邦人の健康管理のための医療活動に従事させました。派遣先国では、院内感染対策や患者の呼吸管理が効果的に実施され、SARSは鎮静化に向かい、在留邦人の不安解消と感染予防、そして、日本への感染の未然防止にも貢献しました
【代表者】 国立国際医療センター派遣協力専門官  小原 博
【職員数】 6名
 
受賞の感想をお聞かせください
 専門家チームは流行の極期に派遣され、院内感染対策と患者に対する呼吸管理を適切に実施することが効果的な防止策であるとの認識下に流行地で医療活動を行いました。医学知識を結集し、最善の努力を払った結果、流行地の病院におけるSARS対策と在留邦人の健康管理に寄与できたことは医師として大きな喜びであり、今回の受賞は大変名誉あるもので、嬉しさを噛み締めるとともに、専門家チームの活動に支援、評価してくださった方々に深く感謝しております。この感激をSARS制圧のために一緒に働いたベトナム、中国、台湾の医師や看護師とも分かち合いたい気持ちです。
 
この仕事のやり甲斐は
 医療の恩恵を多くの人々に波及させ生活向上と平和に貢献することを願って仕事をしています。自分の専門能力を発揮でき、それにより各国の保健衛生状態を改善することや病気で苦しんでいる人々の救済に貢献できたときには満足感と面白さを感じます。
今回のSARS流行においてベトナムなどの保健省及び病院スタッフと協調して対策を実行し、指導した内容が実際に活用され、よい結果が現れたときには今までにない喜びを感じました。共に仕事をした病院スタッフの熱意にも感動しました。
業務を行う上で、特に苦労されることは
 外国の医療関係者と仕事をする場合、まず信頼関係を築くことが大切です。信頼関係を基盤に院内感染対策を主とした技術協力を実施しました。しかし、多くの病院では、院内感染対策基本技術やシステムが未熟であったため、SARSにターゲットを当てた応用編に入るのは容易ではありませんでした。平素から基礎力を身につけておくことが如何に重要であり、迅速で適切な対応に繋がるかを実感しました。我々が活動した時期はSARSが猛威を振るっていたため、自分自身が感染する可能性も高く、感染防護に細心の注意を払いつつ、予防知識を総動員して身の安全を保ちながら技術指導を行いました。
 
特に思い出に残っていることは何ですか
 ベトナムで緊急援助の対象となったのはバックマイ病院で、以前、院内感染対策の技術指導を行っていました。当時途上国の病院では院内感染対策の認識も技術力も低く、重要性を理解させることが大変困難でしたが、その際の指導の成果が今回の迅速で適切なSARS対策に直結し、ベトナムにおけるSARS制圧に貢献したことは、当初の苦労を一気に吹き飛ばしてくれる嬉しい思いでした。平成15年3月に緊急援助隊員として訪れたとき、バックマイ病院スタッフは暖かく迎えてくれ、SARS対策をとてもスムーズに進めることができました。
国民に知ってもらいたいことはありますか
 SARSの感染経路は飛沫感染や接触感染が主であり、各国で院内感染により医療従事者や家族に多くの感染者が発生しました。院内感染対策は地味な活動であるため普段は軽視されがちですが、質の高い医療を提供するために重要な要素の一つです。SARS流行の際、院内感染対策を適切に実行した病院はSARSを早期に封じ込めることに成功し、当該国の経済的損失を最小限に抑えることに貢献しました。感染症が流行してからではなく、平素から医療従事者の訓練を行い、感染対策の技術力を向上させるとともにシステムを構築しておくなど事前の努力が大切です。それによりSARSのような新興感染症発生に対しても速やかな応用が可能となります。
今後の抱負をお聞かせください
 平成15年7月4日、SARS終息宣言が発せられましたが、今年の冬に再び流行する可能性を秘めており、対策が急がれています。ベトナムと中国でSARS対策に加わった経験をもとに今後のSARS対策に協力していきたいと願っており、すでに国内及び海外で医療従事者を対象に標準予防策とSARSにターゲットを当てた院内感染対策の技術指導を実施しています。
 医学は日進月歩であるため常に努力して最新知識を保持しておく必要があります。さらに国際協力を行うためにはその国の文化や考え方をよく理解することも大切です。医の原点に還って、医療の面から世界の人々のために尽くそうと決意を新たにしているところです。


院内感染に関する技術指導
 
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