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第2編 《国家公務員倫理審査会の業務》

第1章 倫理の保持を図るための啓発活動等

3 倫理制度に関する意見聴取


倫理審査会では、倫理の保持の施策の参考とするため、倫理制度や公務員倫理をめぐる諸問題について、各界から幅広く意見を聴取しており、また、各府省等における倫理法・倫理規程の運用実態、倫理法・倫理規程に対する要望等の把握にも努めている。

(1)有識者との懇談会等

倫理審査会では、倫理法・倫理規程が施行されて以降、各界の有識者から、職員の倫理の保持の状況や倫理制度に対する評価、倫理の保持のための施策などについての意見聴取を続けており、平成24年度においては、福岡市及び東京都において、企業経営者、学識経験者、報道関係者等の各界の有識者と倫理審査会の会長や委員との懇談会を開催したほか、各府省の官房長等との懇談会を開催し、各府省等における倫理法・倫理規程の運用状況や業務への影響、倫理法・倫理規程に対する要望事項などを聴取した。

有識者との懇談会における主な意見
【福岡市】
 約30万人いる一般職の国家公務員の中で、倫理法・倫理規程に関する懲戒処分の件数が年間十数件というのは、極めて少ないと率直に感じており、倫理法・倫理規程がずいぶん浸透しているのだなと思う。
 現在は、省益にかなうのであれば、少しくらいの汚れ仕事でもうまく処理できる清濁併せ飲むことのできるような職員が高く評価される構造となっている。おかしいことをおかしいと批判でき、そのことが評価されるような構造にならない限り、不祥事に対する自浄能力を発揮できるような組織にはならない。
 健全な倫理保持体制を確立するためには、やはりコミュニケーションが大事である。そのためには、管理職が日頃から職員と個人面談等をしながら、職員が抱えている事情とか問題とかを把握しておくとともに、風通しの良い職場環境を作るよう心がけておくべきだと考えている。
 各種アンケート結果をみると、倫理法・倫理規程の存在が、国家公務員に民間企業との積極的な意見交換を躊躇させているのではないかとの懸念を持っている。倫理審査会として、そのようなことがないように各府省に指導していただきたい。
 倫理法・倫理規程に規定されていることを徹底することが法律の最終的な目標、目的であるとは思わない。倫理規範を保持するということを手段として、国民全体のために仕事をするのだという誇り・使命感を強くさせ、前向きに積極的に公務員としての仕事をしていくことを可能にするところに法律の本来の目的があると考えている。
【東京都】
 倫理法は適切な内容であると思っているが、その運用の仕方、あるいは行政には何が必要かということをまず知ってもらった上で、そのためのルールだということをしっかり分かるような形で啓発することが大事である。
 国民に対して行うアンケート調査において、国家公務員の倫理感が低いと考える理由に不祥事や汚職がなくならないとするものがある。違反件数の増減はともかく、一定件数がずっと継続しているという現状は軽視してはいけない。
 倫理規程には一貫して細かい禁止行為が規定されているが、これでは職員がかえって萎縮したり、形骸化するのではないかと危惧している。形骸化すると大きな問題を起こすこととなるので、形骸化は一番防がないといけない。
 細かいルールを作ると、ルールに抵触しなければ何をしてもよいということになりかねない。近時の国際的な議論においては、いわゆる原則主義という考え方が基本だということである。そのため、研修等を通じて、誠実性、倫理感というメンタルな部分を涵養していくことが強く求められているものと考えられる。
 日本にはおごりおごられという伝統があるのも事実であり、何でも割り勘にすればよいというものでもない。社会通念的には、先輩などにおごってもらうとかは特に問題があるとも思われない。確かに、倫理法制定時に相次いで不祥事が露呈したことから、規制強化へと大きく振り子がふれたが、関係者の意識も高まったことから、今はもう少し緩和の方向を検討してもよいのかも知れない。
(2)各種アンケート調査

平成24年度においては、国民各層、民間企業及び職員を対象に、公務員倫理に関するアンケート調査を実施した。

各種アンケート調査結果の概要は、次のとおりである。

・市民モニターに対するアンケート

アンケートリサーチ業者に登録されているモニターを対象に平成24年11月に実施し、年齢・性別・地域等を考慮して1,000人を抽出

・有識者モニターに対するアンケート

倫理審査会が公務員倫理モニターとして委嘱した各界の有識者200人(企業経営者、地方自治体の長、学識経験者、新聞社論説委員、労働組合役員、市民団体関係者等)を対象に平成24年11月から12月にかけて実施(回答数193(回答率96.5%))

・民間企業に対するアンケート

東京、大阪、名古屋各証券取引所(1部、2部)上場企業2,408社を対象に、各社の倫理担当役員宛に調査票を送付する方法で平成24年7月に実施(回答数563(回答率23.4%))

・職員に対するアンケート

倫理法・倫理規程が適用される一般職の国家公務員のうち、本省・地方機関の別、役職段階等を考慮して抽出した5,000人を対象に平成24年7月に実施(回答数4,115(回答率82.3%))

ア 国家公務員の倫理感についての印象(各種アンケート結果)

国家公務員の倫理感の印象について質問したところ、職員は、「倫理感が高い」又は「全体として倫理感が高いが、一部に低い者もいる」と好意的な見方をしている者の合計が82.0%、「全体として倫理感が低いが、一部に高い者もいる」又は「倫理感が低い」と厳しい見方をしている者の合計が3.4%と国家公務員の倫理感について最も高い評価をしているのに対し、市民モニターは、好意的な見方をしている者の合計が26.9%、厳しい見方をしている者の合計が39.6%と最も厳しい評価をしている。

なお、民間企業及び有識者モニターでは、好意的な見方をしている者の合計はそれぞれ50.9%、79.8%、厳しい見方をしている者の合計はそれぞれ17.7%、7.2%であった(図1)。

図1 国家公務員の倫理感について、現在、どのような印象をお持ちですか。
イ 国家公務員の倫理感についての印象を回答した理由(市民モニター、民間企業及び有識者モニターアンケート)

国家公務員の倫理感の印象について、その回答の理由について質問したところ、市民モニターでは、好意的な見方をした理由は、「国民の利益のために働いているから」が最も多く、「公正に職務を執行しているから」が続く結果となった。一方、厳しい見方をした理由は、「国民の利益よりも自分たちの利益を優先しているから」が最も多く、次いで、「税金の無駄遣いが多いから」が多い結果となった。

また、民間企業及び有識者モニターでは、好意的な見方をした理由は、「日頃接している国家公務員の倫理感が高いと感じるから」が最も多い結果となった。一方、厳しい見方をした理由は、市民モニターと同様に、「国民の利益よりも自分たちの利益を優先しているから」が最も多い結果となった(図2)。

図2 国家公務員の倫理感についての印象を回答した理由
ウ 倫理規程で定められている行為規制に対する印象(各種アンケート結果)

倫理規程で定められている行為規制について、どのように思うかを質問したところ、「妥当である」と回答した者の割合は、市民モニターでは56.9%、民間企業では75.0%、有識者モニターでは70.8%、職員では65.2%といずれも多数を占めた。

また、倫理規程で定められている行為規制について、「厳しい」又は「どちらかといえば厳しい」と回答した者の割合は、職員が最も高く、「緩やかである」又は「どちらかといえば緩やかである」と回答した者の割合は、市民モニターが最も高い結果となった(図3)。

図3 倫理規程で定められている行為規制の内容全般について、どのように思いますか。
エ 倫理法・倫理規程により職務に必要な行政と民間企業等との間の情報収集等に支障が生じているか。(民間企業、有識者モニター及び職員アンケート)

倫理法・倫理規程により、職務に必要な行政と民間企業等との間の情報収集、意見交換等に支障が生じていると思うかについて質問したところ、いずれのアンケートにおいても、「あまりそう思わない」又は「そう思わない」と回答した者の割合が、「そう思う」又は「ある程度そう思う」と回答した者の割合を上回る結果となった(図4)。

図4 現時点において、倫理法・倫理規程によって、職務に必要な行政と民間企業等との間の情報収集、意見交換等に支障が生じていると思いますか。
オ 国家公務員への期待(市民モニター、民間企業及び有識者モニターアンケート)

国家公務員の仕事への取組について感じている気持ちを「国家公務員に対する期待」という観点で質問したところ、市民モニターでは、「あまり期待していない」又は「全く期待していない」と国家公務員の仕事への取組について期待できないとする見方をしている者の合計が42.7%であったのに対し、「大いに期待している」又は「ある程度期待している」と期待する見方をしている者の合計は36.7%にとどまった。

一方、有識者モニターでは、国家公務員の仕事への取組について期待できないとする見方をしている者の合計が2.6%であったのに対し、期待する見方をしている者の合計は95.3%と非常に高い割合となった。

また、民間企業では、国家公務員の仕事への取組について期待できないとする見方をしている者の合計が11.2%であったのに対し、期待する見方をしている者の合計は76.6%と、国家公務員の仕事への取組については、高い期待が寄せられていることが分かる結果となった(図5)。

図5 あなたが国家公務員の仕事への取組について感じているお気持ちに最も近いものをお選びください。
カ 倫理に関する研修の受講状況(職員及び民間企業アンケート)

職員に対して、公務員倫理に関する内容がカリキュラムに組み込まれている研修等に最後に参加してからどのくらいの期間が経過しているかを質問したところ、「1年未満」と回答した者は47.1%であり、平成21年度の調査と比べて9.9ポイント増加した。また、「一度も受講していない」と回答した者は8.3%であり、平成21年度調査に比べて9.0ポイント減少しており、各府省における倫理に関する研修の実施が3年前と比較して進んでいることが分かった(図6)。

一方、民間企業に対して、社員の倫理の保持のための研修について社員一人につきどのくらいの頻度で受講させているのかを管理職、一般社員それぞれについて質問したところ、「1年に1回以上」と回答した企業が管理職、一般社員ともに70%を超えるなど、国家公務員に比べ倫理保持のための研修の受講頻度が高いことがうかがえる結果となった(図7)。

図6 あなたが公務員倫理に関する内容がカリキュラムに組み込まれている研修等に最後に参加してからどのくらいの期間が経過していますか。
図7 貴社における社員の倫理の保持のための研修について、社員一人につきどのくらいの頻度で受講させていますか。管理職クラス、一般社員クラスのそれぞれについてお答えください。
キ 通報制度の積極的な活用等について(職員アンケート)

職員に対して、通報窓口の認知度について質問したところ、所属府省の通報窓口及び倫理審査会の通報窓口について、どちらかを知っていると回答した者と両方知っていると回答した者の割合の合計は70.4%となったが、倫理審査会の通報窓口を知っていると回答した者の割合の合計は29.5%にとどまり、どちらも知らないと回答した者の割合も29.6%であったことから、通報窓口、特に倫理審査会の通報窓口の更なる周知が必要であることが分かる結果となった(図8)。

また、通報制度がより一層活用されるために効果的であると思われる方策について質問したところ、「個人情報の秘匿は厳守されていること、通報者にとって不利益な取扱いをしないことなど、通報が適切に取り扱われていることをアピール」することが最も多い結果となった(図9)。

図8 倫理法・倫理規程に違反する行為についての通報窓口について、知っているものをお選びください。
図9 通報制度がより一層活用されるためには、どのようにすれば良いと思いますか。最も効果的と思うものを1つお選びください。

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