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第1編 《人事行政》

【第2部】 幹部職員等の育成と選抜

第2章 国以外の幹部職員の育成・選抜の状況

第3節 主要国における幹部職員の育成・選抜の状況

2 フランス

(1)幹部要員の確保
ア 入口選抜の概要

フランスでは、採用時のカテゴリーによって、その後の昇進範囲まで規定されるという徹底した入口選抜型が採られている。

幹部要員となるためには、グランゼコール(grandes écoles)と呼ばれる育成機関の入学試験に合格し、当該機関での数年の修学を経て、カテゴリーA+と呼ばれる高級職グループとして採用される必要がある。事務系については国立行政学院(École nationale d’administration(ENA))、技術系については理工科学校(École Polytechnique)がそれぞれ育成機関となっており、ENAについては、大学又は大学院卒業後に入学し、2年間の研修を受けるのに対し、理工科学校については、中等教育修了資格(バカロレア)取得後、2年間の準備学級を経て入学し、5年又は6年間の教育を受ける。いずれも当該機関に入学した時点から見習公務員としての身分を付与される。

ENAには毎年約80人が入学するが、大学・大学院の新卒者を中心とする部外試験のほか、後述するように、内部登用ルートである部内試験と、公務外の勤務経験を有する者を対象とする第三種試験も存在しており、学歴エリート主義に立ちつつも、多様な経験を有する者を採るための仕組みも充実している。

イ 幹部要員の採用と人事管理の特色

フランスでは、高級公務員は国家全体のエリートとして高い社会的地位を占めており、給与等の処遇も比較的恵まれている。

フランスでは、イギリスやアメリカとは異なり、まず公務員たる身分を付与した上で、個別の官職に就けるという任官補職制を採っている。また、幹部要員か否かにかかわらず、人事管理は、省というよりも、約600に分かれた職員群(コール(corps))が基本単位となる。ただし、高級職カテゴリーのうち、最も数の多い高等行政官群については、採用時の省が事実上の人事の単位となっている。

これら幹部要員の採用においては、日本のように省側が決定するシステムではなく、ENA又は理工科学校の在学中の成績順に、本人が希望する省の空席(結果的に、その空席が示すコール)を選べるシステムとなっており、省側の拒否権・選択権はない。

なお、カテゴリーA+の中でも、とりわけ超エリートとされるグラン・コール(grands corps)と呼ばれる威信の高いコールが存在する。事務系グラン・コールとして国務院職員群、会計検査院職員群、財務監査官職員群があり、技術系グラン・コールとしては鉱山技師群、橋梁・水資源・森林工学技師群がある。ENA又は理工科学校における成績が上位の者(ENAの場合は80人中上位15人)は、これらグラン・コールを選ぶのが通例であり、グラン・コール所属職員は、高等行政官群所属職員とは対照的に、省横断的な異動が基本となる。

また、フランスでは、本省の総局長・局長級幹部(事務次官は存在しない)も含め、大部分が職業公務員出身という内部育成型となっている。公務への途中流入がほとんどない一方で、身分を保持したまま民間や政界で勤務する公務員も多い。

ウ 乗換ルートの実態

ENAへの入学については、部外試験のほか、4年以上の公務歴を有する者を対象とする部内試験、地方議員として又は民間企業で8年以上勤務した者を対象とする第三種試験がある。

2012年度の場合、部外試験での採用が40人に対し、部内試験による採用が32人、第三種試験による採用が8人となっている。部内試験への応募は、本人のイニシアチブが多いが、上司や人事当局が有望な職員に応募を勧めることもある。

部内試験や第三種試験を経て採用された者の扱いは部外試験と同一であり、卒業後にグラン・コールに入る者もいるため、質・量の両面で、乗換ルートとして実質的に十分機能していると考えられる。

なお、技術系の場合は、理工科学校への入学に向けた部内試験はない代わりに、部内職員から直接カテゴリーA+のコールに転換するための特別の試験が用意されている。

(2)幹部要員の昇進実態
ア 基本ルール

幹部要員か否かにかかわらず、人事当局が一方的に昇進や異動を決定することはなく、他の3か国と同様、公務内で公募が行われ、本人のイニシアチブで応募することが基本である。ただし、本省の総局長・局長級については公募が行われず、大臣が決定するので((4)で後述)、応募が必要なのは部長級までである。

空席公告は、課長ポストまでは省内LANや省横断型空席公募サイトによる周知がなされ、次長及び部長ポストでは更に官報にも掲載される。応募者に対しては、書類選考や面接等が行われ、決定に当たっては当該ポストの直属上司に当たる職員の意向が大きく反映される。そのため、職員本人が人脈を開拓してポスト獲得のために自らを売り込むことが多い。

ただし、カテゴリーA+のうち毎年ごく少数の職員が所属することとなるグラン・コールについては、それぞれシェフ・ド・コール(chef de corps)と呼ばれる各コールのトップに当たる職員が存在し、コール所属者の人事への影響力を有している。グラン・コール所属職員は、シェフ・ド・コールとは採用前から面識があるため、長期的なキャリア形成や次のポストについての希望を伝え、シェフ・ド・コールの側からは、助言や情報提供を行うとともに、職員が希望するポストのある局の局長や省の人事当局等に働きかけを行い、希望によっては民間部門など行政組織外のポストについても働きかけを行っている。

イ 昇進の実態

本人の空席応募が必須ではあるが、幹部要員の場合、採用から10年前後までは年功的要素もあり、同一採用年次の者は一斉昇進ではないものの、昇進ペースはあまり違わないことが多い。

例えば、経済財政省の場合、毎年、ENA卒業生のうち、高等行政官群から15~18人が同省を選ぶが、課長級への昇進は、課の規模等にもよるが平均すると採用後2~5年であり、次長昇進は9~10年である。他の省でも、ENA卒業生は30歳前後で課長クラスになることが多い。

ウ 昇進ルートから外れた者の扱い

幹部要員とされる職員の中に、何度も公募に応募しても次のポストを見つけられない者がいないわけではない。そのような者に対しては、高等行政官群の場合は、人事当局が省内の非管理職的なポスト等を勧めることもある。グラン・コールの場合は、厳しい選抜をくぐり抜け、公務外も含めた活躍の場も多いことから、そもそもこうした問題は生じない模様である。

(3)幹部要員の育成とキャリアパス

各省の人事当局は、幹部要員を計画的に育成する観点から、30~45歳のカテゴリーA+の職員のうち、内閣事務総局が示すマネジメント共通プロフィールと人事評価に照らして将来的に幹部候補リストに載り得る職員をリストアップし、公務外も含めた様々なポストの経験を奨励している。

フランスの行政組織には首相や大臣を側近として補佐する官房部署(キャビネ)が置かれているが、大臣キャビネでの勤務は、各種調整が多く、省横断的な視野が醸成されることから、こうした幹部登用ルートの一つとされ、ENA卒業の次の選抜ステージと捉えられている。キャビネのメンバーは、多くの場合、大臣や官房長の知己であるエリート官僚から、能力や実績、そして政治色を基準に、自由任用の形で登用され、その間は官吏身分からの「派遣」扱いとなる。

グラン・コールの職員は、大臣キャビネなどの中枢ポストを中心に、省や公務の枠を超えた異動が頻繁にあるなど、多様なキャリアパスが開かれており、昇進も早い。他方で、グラン・コール職員は、公務外でも枢要ポストを得られることが多いため、結果として、むしろ高等行政官群が局長以上のポストに残ることが多く、例えば経済財政省では局長以上のほとんどを高等行政官群が占めている。

(4)幹部選抜時の特色 ~局長以上は職業公務員からの自由任用~

本省の総局長、局長、大使、地方長官などの高級職(約600ポスト。うち本省は約300。)については、公募が行われず、大臣の自由任用とされる。ただし、大部分が職業公務員出身である点で、成績主義の適用を受けないアメリカの政治任用とは異なる。

こうした局長以上の高級職は、各大臣が各省の十分な能力と経験を有する官吏の中から実績等を考慮した上で候補者を選び、大統領が主宰する閣議に諮った上で、大統領が任命している。

高級職の資格要件の定めはなく、制度上は民間からの起用も可能であるが、実際にはENA出身者が7~8割を占め、官吏以外からの任命はまれである。年齢層は40~50歳台となっている。

局長級以上のポストについては、「派遣」という形で官吏の身分を有したまま任命され、当該ポストを辞任した場合も、官吏の通常のポストへの復帰が可能である。ただし、実際に復帰するかは本人の選択であり、民間企業や国際機関、政治家等に転出する場合もある。

(5)最近の動き

人事管理の単位となるコールについて、最近は、官吏の流動性の促進の障害になる、勤務条件・組織等に関し職員代表と管理当局が協議する職場協議会をコールごとに設けて人事管理を行うことによるコストが高くつくなどの理由で、数を減らす作業が進められており、約600のうち、現在も採用を継続しているコールは約380となっている(2010年末現在)。

なお、サルコジ前政権下で、ENA卒業時に、成績順に学生が希望コールを一方的に指名する仕組みを見直そうという動きがあったが、議会等のコンセンサスが得られず、改正法案の提出には至らなかった。


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