第1編 人事行政

第2部 公務組織の人材マネジメントにおけるデータやデジタルの活用の可能性

第3章 民間企業、外国政府等の事例から学ぶ

第1節 民間企業等の事例

6 長野県塩尻市(職員データの整備と人事評価との紐付けに向けた取組)

(1)人事管理におけるデジタルの活用の狙い

長野県塩尻市では、令和2年度に同市の目指す職員像、組織像、組織風土を取りまとめ、その実現に向け、令和3年度から令和5年度にかけて人事制度を集中的に改革しているところである。同市で運用していた人事評価制度がやや形骸化してきていること、また、評価結果の処遇への反映についても職員の納得感が低いこと、さらには評価データの配置や昇任への活用に課題があった。その原因の一つは、評価データやその他の情報が項目ごとに独立して管理されており、データを十分に活用しきれていないことにあると考えた同市は、人事制度の改革に合わせ、上記の課題解決を目指し、制度運用においてはタレントマネジメントシステムを活用することとした。

(2)タレントマネジメントシステムの活用の在り方

タレントマネジメントシステム上で管理する職員情報は、現時点では、氏名等の職員の基礎情報、研修受講歴、過去の配属やその時々の上司からのコメント、人事評価結果、短期的・中期的な職務希望、家庭事情などの要配慮事項等を想定しており、研修、昇任、昇給等の情報を職員IDに紐付けて一体的に管理することで業務効率化を実現したいと考えている。

今後、データに基づいた戦略的な人材マネジメントに取り組む一環として、これまでの職務経歴や保有知識・スキルなどについてもタレントマネジメントシステムに登録し、できるだけ幅広い範囲で職員に公開する構想もある。一方、同市として、公開すべき情報の種類、公開の範囲、アクセス権限の付与対象等については慎重な検討を要すると認識している。それらの情報を閲覧可能な状態とすることによって、異なる職場の職員へ話を聞きに行くような動きが起こることを期待している。

【コラム】デジタルスキルマップによるスキルの可視化の取組(東京都)

東京都では、DXを推進していくに当たり、デジタルサービスを支える「ひと」を確保・育成するとともに、その能力を最大限発揮することが求められているという課題感を背景に、令和4年2月に「東京都デジタル人材確保・育成基本方針」を策定した。

この基本方針では、令和3年度に新設した「ICT」職のほか、特定任期付職員・会計年度任用職員等による「高度専門人材」、デジタル技術に関する知見を身に付けた「リスキリング人材」、それぞれの人材が連携して能力を発揮し、品質の高いデジタルサービスの実現につなげていくことができるよう、人材確保・育成策を展開している。

同基本方針の取組の一つとして、導入しているデジタルスキルマップは、22のスキル項目により、前述のICT職を始めとする情報技術を担う職員のスキルを可視化するものである。スキル項目のレベルは0~3の4段階で設定されており、職員一人一人がどのようなスキルをどのレベルで持っているかを可視化する。また、10のジョブタイプを設定し、それぞれに備えるべきスキルとレベルを定義することで、職員自身のキャリア志向や組織から求められる役割等に応じて、レベルアップすべきスキルが可視化されるため、優先度をつけて効率的に学習することが可能となる。

デジタルスキルマップ

【コラム】国家公務員の健康維持・増進の観点でのデータの活用

人事院が実施した長期病休者実態調査によれば、公務において、令和3年度における精神・行動の障害による長期病休者(引き続いて1月以上の期間、負傷又は疾病のため勤務していない者)の数は、長期病休者全体の7割を超えている。職員数に占める精神・行動の障害による長期病休者数の割合について、平成28年度と令和3年度を比較すると、全体では約1.3倍(1.27%→1.70%)となっており(図3-1)、年齢階層別では特に20歳台において約1.7倍(1.33%→2.25%)と増加の割合が高くなっている(図3-2)。このことから、特に若年層職員におけるメンタルヘルス対策の重要性が増していると考えられる。

長期病休者数及び長期病休者率の推移
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年齢階層別 精神及び行動の障害による長期病休者率の推移
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本章において紹介したように、民間企業や外国政府においては、職員(従業員)の心身の健康維持・増進のために、例えばエンゲージメントサーベイとストレスチェックの結果を掛け合わせて分析する等の活用事例があった。

公務においても、職員の心の不健康な状態を未然に防止するため創設されたストレスチェック制度について、令和4年2月に、エンゲージメントの状況等を確認できる調査項目を追加して実施することや同制度を活用して職場環境改善をより効果的に行うことなどを内容とする報告書が、人事院心の健康づくり指導委員会職場環境改善ワーキンググループにおいて取りまとめられた。これを踏まえ、メンタルヘルス施策の推進に向けた健康管理体制の充実等の具体的な取組について、各府省への通知や研修等において周知を図ってきたところであり、引き続きこれらの取組を促していく。

人事院がこれまで「公務員人事管理に関する報告」等で述べてきたように、職員の健康維持・増進は職員一人一人のWell-being実現の土台となるものである。人事院としては、上記の取組を着実に実施し、職員の健康維持・増進を後押ししていきたい。

座長:吉川徹独立行政法人労働者健康安全機構労働安全衛生総合研究所過労死等防止調査研究センター統括研究員

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