第1編 《人事行政》

【第2部】 次世代の行政の中核を担う30代職員の育成と公務全体の活性化 〜意識調査を通じて課題と対策を探る〜

第3章 課題と対応の考察

第2節 対応の考察

3 職員の意識・コミュニケーション面での対応 〜上司によるマネジメントの向上と職場でのコミュニケーションの活性化等〜

(1)上司によるマネジメントの向上

今回調査の結果やこれまでの考察等をまとめると、上司が業務管理や部下への指導・育成を行うに当たっては、次のような対応が求められていると考えられる。

【職場環境づくり】

  • ・部下の業務量に偏りを生じさせないよう、状況に応じて柔軟に業務分担を変更する。
  • ・部下と積極的にコミュニケーションを図る。

【業務遂行に係る部下への指導等】

  • ・適時・適切な判断をする。
  • ・指示する際、修正箇所や内容、修正の意図等を明確に伝える。
  • ・思いつきによる発言を繰り返すなどにより、方針にぶれを生じさせない。
  • ・部下に指導すべき場面で躊躇しない。
  • ・成果を上げている部下や努力している部下に対し、評価していることが伝わるよう、折に触れて伝える。

【業務の効率化・合理化】

  • ・自ら業務の効率化に取り組む。
  • ・前例を重視するあまり、部下の新たなチャレンジを阻害しない。
  • ・指示するに当たって、コストパフォーマンスを考える。

【部下のキャリア形成支援】

  • ・部下のキャリア形成に関する助言を適切に行う(強み・弱みの提示、今後の能力開発や専門性習得の方向性に係る助言等)。

【パワー・ハラスメントの防止】

  • ・高圧的な態度を取らない。
  • ・部下の能力や人格を否定する発言をしない。

これらは、一つ一つは決して新しい項目ではなく、多くの上司が可能な範囲での配慮は行っているものである。また、配慮が困難な事情がある場合もあれば、立場の違いにより受け止めに齟齬が生じることもあると考えられ、部下職員の満足が得られないからといって必ずしもマネジメント全体に問題があるとはいえない。

しかしながら、上司に当たる管理職員は、改めてこれらの点について常に意識を持ち、部下職員とコミュニケーションを図って、配慮できない場合にはできる限りその事情等を共有して、部下職員の納得感を高めるよう努めることは必要であると考えられる。

また、技能・ノウハウの継承の観点からも、上司が部下職員のモチベーション低下を懸念することなく、自信を持って指導していく必要がある。そのためには、コーチングスキルを習得することが有効であり、関連する各種研修の充実を図っていくことが求められる。

パワー・ハラスメントについては、人事院においても、従来から防止のための啓発に取り組んできており、前回調査における「パワハラの防止度」の数値が肯定的なものであったことからしても、ある程度の防止の成果が上がっていると考えられる。しかし、今回調査の結果を踏まえ、何がパワー・ハラスメントに当たるかについての共通認識の確立と、その防止を徹底するための取組強化に努めていく。また、セクシュアル・ハラスメントについても、種々の事例が発生しており、依然として看過できない状況にある。妊娠、出産、育児又は介護に関するハラスメントを含め、ハラスメントの問題が発生した場合には、職員の勤務意欲が低下し、勤務能率が十分に発揮できなくなるだけでなく、公務全体の信用性を失わせる事態を招く場合もある。上司に当たる管理職員は、再度、その重要性を認識し、自ら範を示すとともに、部下職員もハラスメントをしないようにする必要がある。

上司による業務管理や部下への指導・育成については、既に一部の府省で、管理職員のマネジメント行動(例えば、「業務の優先順位を明確化している」「業務分担の見直しを適宜行っている」「無駄詰めや無駄な作業をさせていない」など)について全職員にアンケートを実施して、結果を事務次官から各局長等にフィードバックしている例や、人事当局がマネジメント能力を含めた「職位に求められる能力要件(コンピテンシー)」を定めて多面観察(360度評価)の評価項目に反映させている例もあり、これらの取組も参考となると考えられる。

(2)職場でのコミュニケーションの活性化

職場でのコミュニケーションは、全ての業務遂行の基本となるものであり、その活性化は関係する職員皆が取り組むべき課題であるが、上司である管理職員には各職場において主導的役割が期待される。今回調査において、30代職員と課長級職員では、職場でのコミュニケーションの変化に係る認識に乖離があったことを踏まえ、管理職員や幹部職員においては、このような世代による意識の違いや、電子化等の職場環境の変化に対応しつつ、コミュニケーションの活性化を積極的に図っていくことが求められる。

その際、特にギャップの大きかった業務外のコミュニケーションについても、業務を離れて世代や役職を超えたコミュニケーションを図ることは貴重な機会であり、例えば、ランチ会や懇親会等を行うことは、円滑な業務遂行に資するものと考えられる。

○ 民間企業等における取組例

昨今、部下とのコミュニケーション強化施策の一環として、上司、部下の接点をより増やすための仕組みとして「1 on 1ミーティング」(週1回上司と部下が、業務の進捗管理を中心としつつ、プライベートに関する内容も含めて意見交換する場)を設ける企業がみられる。ある企業では、人事当局から部下のプライベートに関する情報を上司に提供することは信頼感を損ねることになるため原則的に行わない代わりに、上司が積極的に「1 on 1ミーティング」を行うことで、部下の業務面だけでなく、心情面を汲み取ったコミュニケーションを推進しているとのことであった。

また、同僚とのコミュニケーションが活性化する契機として、一部企業等において、かつて廃止されたレクリエーション行事や旅行会等を再開する動きもみられる。

(3)30代職員のマネジメント能力の向上、全体の奉仕者としての意識の維持・向上

業務管理や部下への指導・育成に係る能力は一朝一夕に身に付くものではない。30代職員については、約半数に部下職員がいないという調査結果から、OJTの機会が限られていると考えられる。そのため、各府省の地方機関での勤務、他府省への出向、官民交流等を活用することなどにより、中・長期的に指導・育成等に係る能力の向上につながるような人事配置について考慮するとともに、研修を通じて30代職員の意欲等を高めていくことも必要と考えられる。

一部の府省においては、管理職員への昇任時だけでなく、それ以前の課長補佐級の職員を対象とした独自のマネジメント研修を実施している例や、課長補佐級や係長級の研修カリキュラムに新たにマネジメントに関する科目を加えることを検討している例もあり、これらの取組も参考となると考えられる。

全体の奉仕者としての意識については、何よりも職員一人一人が常日頃から強い自覚を持つことが重要である。その上で、他府省の職員や民間人材との合同研修等の機会に改めて自らの置かれた状況等を省みて、国家公務員としての在り方を確認するほか、例えば、NPOなど公益を追求する民間組織での体験を通じ、公務外から自らの業務や公務全体をみる機会を設けることも、やりがいや社会への貢献意識等を再認識することとなり、全体の奉仕者としての意識の維持・向上に資するものと考えられる。また、30代職員に若手職員や自府省を志望する学生等に対して自身の経験や現在の業務の説明等をする機会を積極的に与えることは、技能・ノウハウの継承に役立つだけでなく、30代職員が公務を志した初心や国家公務員としての矜持を再度認識する契機ともなると考えられる。

さらに、近時の公務を取り巻く状況に鑑みると、30代職員に限らず、職員一人一人が高い使命感・倫理感を持って職務に取り組むことによって、公務に対する国民の信頼を得ていくことが求められている。人事院としても、引き続き、全体の奉仕者としての自覚を持った国家公務員の確保・育成に努めてまいりたい。