総裁訓示

令和7年度

令和7年4月3日 第59回合同初任研修 川本総裁訓示 

    

 人事院総裁の川本裕子です。
 今日ここに、国家公務員として働くことを選択された皆さんを、心から歓迎いたします。
 
 今、我が国が直面する課題は、地政学的な環境の変化、気候変動といった人類共通の問題に加え、人口高齢化・少子化や災害への対応など、多岐にわたっています。
 
 こうした中で、日本国民の利益を守り、活力ある社会を築く ― 
 政府に課せられた責任は重大であり、
 それだけに皆さんをはじめとする国家公務員への国民の期待は間違いなく、大変大きく、かつ痛切なものがあると感じています。
 
 私の所属する人事院は、国家公務員の採用、給与や労働時間などの勤務環境の整備、そして不服ある場合の公平審査といった、皆様の日々の職務を支える仕事をしています。今日はそうした立場から、皆様に3つお伝えしたいことがあります。
 
 一つ目は、「常に国民に向き合い、自己を規律する」ことの大切さです。
 言うまでもなく、国家公務員の職務の基本原則は、国民の利益、公益を最優先することです。行政上の課題は、国民の生活がもっとよくなるためにはどうすればよいか、を考えることから設定されます。その上で、客観的なデータとしっかりしたロジックで考え、かつ行動することが、公務の本質だと思います。
 そしてあくまで正直に、誠実に職務に対処する。
 これが、国民の期待に応えるために国家公務員に求められる「高い規律」です。
 「規律」と言うと、上司の命令に従うことのように受け取る人も多いのですが、
そうではありません。規律の一番大事な原則は、自らを律することだと思います。英語ではこれらを総じてインテグリティと呼びます。皆さんには国家公務員である限り、インテグリティを大切にしてほしいと心から願っています。
 
 皆さんにお伝えしたいことの2つめは、貪欲に能力を磨き、慢心せずに深い専門性を持ってほしい、ということです。
 皆さんは、日本を支え、日本の将来を創造していく高い能力と識見ゆえに選抜された、いわば国の宝です。
 
 他方、国内外の情勢変化、科学技術の急速な進展により、
 公務が対応を迫られる課題は日々複雑化、高度化しています。
 こうした変化について鋭敏に情報を収集・分析し、適切な政策の選択肢を
 タイムリーに提示する専門能力が公務員には求められています。
 決して満足せず、ご自身の能力、資質、スキルが、直面する行政課題に対応し得るのか、ということを常に振り返り、自己成長するように努めてほしい、そう願っています。
 お伝えしたいことの最後、3つめは、国際性とオープンな思考、です。
 国の行政はその国の中には比較対象がありません。比較がないと分析が困難です。
 ご自身が携わる行政分野は、諸外国と比べてどうでしょうか。諸外国に遅れを取っていないでしょうか。常に世界の動向に目を向け、日本の国民、日本の社会に、世界最高水準の行政サービスを届ける、そういう強い気持ちを持っていただきたいと思います。
 直接外国と折衝などがない部署であっても、外国語を習熟し、情報源を広げ、物事を多面的に、より客観的に捉えましょう。また、「縦割りの思考」、これには何重にも注意して頂きたいです。
 特定の省庁に長く在籍すればするほど、専門性は高まりますが、国民の真の利益が見えにくくなり、考え方も現状維持に偏りがちになります。「サイロ」型思考と言われるものです。
 自分の専門領域を超えて常に人類社会や日本社会の行方を見据える、広い視野と高い視座を持ってほしいと思います。
 そのためにも、オープンな思考、柔軟な発想、それをいつまでも持ち続けて下さい。
 
 以上の3つ、自己規律、深い専門性、そして国際的でオープンな発想力、これらを今日、国家公務員として同僚となった皆さんに送ります。
 
 人事院は、適切な労働環境や処遇の実現、能力を磨く研修機会の提供など、
 国家公務員の皆さんが職務を全うできるよう、内閣人事局、各省庁の人事担当の方々とともに、最大限の支援をしています。
 国家公務員の職場については、多くの課題が指摘されてきましたが、これに応えてこの数年、さまざまな改革に着手しています。給与など若手の処遇面を改善し、キャリア充実に向けた研修の機会を拡充し、幹部のマネジメントスキルの向上を目指しています。フレックスタイム制による柔軟な働き方、勤務と勤務の間には11時間のインターバルをとる努力義務があり、仕事と生活の両立を強力に目指しています。男性の育児休業取得率も8割を超えました。
 
 このように、人事院は活力ある職場づくりに努めています。それと同時に、国家公務員の職場での困り事の相談窓口としても、頼りになる存在でありたいと思います。
 様々な問題について、現場からの問題提起も歓迎します。
 
 皆さんが、国家公務員としての気概を持って、多くの難題に立ち向かい、
 日本の将来を創っていくことを大いに期待しています。どうか今日この日に胸にしておられる、「公務のやりがい」をこれからも忘れないでください。
 今後活躍される皆さんと、直接お話できる日を楽しみにしています。
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