総裁訓示

令和6年度

令和6年4月3日 第58回合同初任研修 川本総裁訓示 

人事院総裁の訓示

 人事院総裁の川本裕子です。
 あまたある職種の中で、国家公務員を選択された皆さんを、心から歓迎いたします。
 
 2024年の幕が開けたその日、能登半島地震が発生しました。
 被災された方々のことを思うと大変胸が痛みます。
 1日でも早く、「普通の生活」が戻ることを祈っております。
 このような災害が発生した際にも、人命の救助や危機の回避、そして復旧・復興に向けて、多くの国家公務員が職務に邁進しています。
 この国のため、この国の人々のため、奮闘しています。
 皆さんの仕事は社会全般に亘ります。
 人類社会は今、歴史的な試練に直面しているといえます。
 戦争やインフレの進行により、世界を支えてきた秩序に軋みが生じています。
 地球温暖化問題も待ったなしです。その中で我が国は、人口高齢化・少子化による
 社会経済の変容を乗り切っていけるのか、人類社会が直面する共通の問題の最前線にいます。
 こうした中で、日本国民の利益を守り、活力ある社会を築く―政府に課せられた責任は重大ですし、それだけに国家公務員への国民の期待は大きいものがあります。
 
 国民の期待に応えるため、国家公務員には高い規律が求められます。
 「規律」と言うと、上司の命令に、忠実に従うことのように受け取る人も多いのですが、違います。規律の一番大事な原則は、自らを律し、国民の利益、公益を最優先することです。行政上の課題は、国民の生活がもっとよくなるためにはどうすればよいか、を考えることから設定されます。その上で、客観的なデータとしっかりしたロジックで考え、かつ行動することが、公務における義務だと考えて下さい。そしてあくまで正直に、誠実に職務に対処する。英語ではこれらを総じてインテグリティと呼びます。
 こうした自己規律を高く保って仕事をしている限り、インテグリティを保っている限り、怖れることは何もありません。国民に対しても、説明責任を果たしていけるでしょう。
 公務員の規律を果たせているか、今後皆さんがどのような職位に就いたとしても、いつも自分に問うてほしいと思います。

  内外の社会経済情勢の大きな変化、デジタル化の急速な進展など、公務が対応を迫られる課題は日々複雑化、高度化しています。
 こうした変化について鋭敏に情報を収集・分析し、適切な政策の選択肢をタイムリーに提示する専門能力が公務員には求められています。
 同時に、自分の専門領域を超えて常に人類社会や日本社会の行方を見据える、高い視座を持つことが大切です。
 皆さんは、日本を支え、日本の将来を創造していく、国家公務員としての高い能力と識見を示されて選抜された、国の宝です。しかし、時代環境の変化のスピードは想像を超えていることも現実です。決して自足することなく、ご自身の能力、資質、スキルが、行政課題に対応し得るものなのかどうかをいつも振り返り、自己成長するように努めてほしい、そう願っています。
 
 もう一つ、お伝えしたいのは「国際性と開放性」についてです。
 国の行政はその国の中には比較対象がありません。比較がないと分析がしにくい。
 ご自身が携わる行政分野は、諸外国と比べてどうか、諸外国に遅れを取っていないか、などと、常に世界の動向に目を向け、日本の国民、日本の社会に、
世界最高水準の行政サービスを届ける、そういう強い気持ちを持っていただきたいと思っています。
 ある一つの物事を捉える際にも、言語によって解釈の仕方、切り取り方は異なるものです。外国語の習熟に今一度注力してほしいと思います。
 情報源が広がり、物事を多面的に、より客観的に捉えることができるようになります。
 また、よく指摘される縦割りの思考、これには何重にも注意して頂きたいことです。
 ある省に長く在籍すればするほど、専門性は高まりますが、国民の真の利益が見えにくくなり、考え方も現状維持に偏りがちになります。
 これらはしばしば「サイロ」型思考と言われます。
 皆さんにはオープンな思考、柔軟な発想、それをいつまでも忘れないで持ち続けてほしいと思います。
 
 今日は、皆さんに対する非常に大きな期待から、色々とお願いをいたしました。
  ・ 常に国民と向き合い、自己を規律すること
  ・ 能力を磨き、高い視座を持つこと
  ・ 国際性と開放性
 これらはあくまで人事院総裁という立場上申し上げました。
 私自身も、日夜反省をし、苦悩していることです。

 人事院は、適切な労働環境や処遇、能力を磨く研修機会の提供など、国家公務員の皆さんが職務を全うできるよう、最大限の支援をしています。
 今後も各省の人事担当部局とともに、活力ある職場づくりに務めます。
 これらについて、現場からの問題提起も歓迎します。
 また人事院は、国家公務員の職場での困り事の相談窓口でもあります。
 
 人事院では今年になって、人事院という組織の使命やあるべき姿、人事院職員が働く上での拠り所となる価値観、すなわち、ミッション、ビジョン、バリューを策定しました。
 ミッションは、「公務員を元気に、国民を幸せに」です。
 
 人事院は、このミッション、ビジョン、バリューを心にとめ、公務員の人材マネジメントについて、新たな時代を見据え、これまでの延長線上の対応ではない、抜本的なアップグレードに挑戦しています。
 より良い公務職場の実現に向かって、一緒に前進していきましょう。
  
 皆さんが、国家公務員としての気概を持って、多くの難題に立ち向かい、日本の将来を創っていくことを大いに期待しています。
 そのように果敢にチャレンジしている皆さんとまたどこかでお目にかかり、直接お話できる日を楽しみにしています。
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