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総裁訓示

令和5年度

令和5年4月5日 第57回合同初任研修 川本総裁訓示 

人事院総裁の訓示

 人事院総裁の川本裕子です。
 あまたある職業の中で、国家公務員を選択された皆さんを、心から歓迎いたします。希望を胸に新生活を始められたことと思います。
 
 皆さんの仕事は社会全般に亘りますが、人類社会は今、歴史的な試練に直面しているといえます。戦争やインフレの進行により、世界を支えてきた秩序に軋みが生じています。地球温暖化問題も待ったなしです。その中で我が国は、人口高齢化・少子化による社会経済の変容を乗り切っていけるのか、人類社会が直面する共通の問題の最前線にいます。
 こうした中で、日本国民の利益を守り、活力ある社会を築く ― 政府に課せられた責任は重大ですし、それだけに国家公務員への国民の期待は大きいものがあります。
 
 国民の期待に応えるため、国家公務員には高い規律が求められます。「規律」と言うと、上司の命令に、忠実に従うことのように受け取る人も多いですが、違います。
 規律の一番大事な原則は、自らを律し、国民の利益、公益を最優先することです。行政上の課題は、国民の生活がもっとよくなるためにはどうすればよいか、を考えることから設定されます。その上で、客観的なデータとしっかりしたロジックで考え、かつ行動することが、公務における義務だと考えて下さい。そしてあくまで正直に、誠実に職務に対処する。英語ではこれらを総じてインテグリティと呼びます。
 こうした自己規律を高く保って仕事をしている限り、インテグリティを保っている限り、怖れることは何もありません。国民に対しても、説明責任を果たしていけるでしょう。公務員の規律を果たせているか、今後皆さんがどのような職位に就いたとしても、いつも自らに問うてほしいと思います。
 
 内外の社会経済情勢の大きな変化、デジタル化の急速な進展など、公務が対応を迫られる課題は日々複雑化、高度化しています。こうした変化について鋭敏に情報を収集・分析し、適切な政策の選択肢をタイムリーに提示する専門能力が公務員には求められています。同時に、自分の専門領域を超えて常に人類社会や日本社会の行方を見据える、高い視座を持つことが大切です。
 皆さんは、日本を支え、日本の将来を創造していく、国家公務員としての高い能力と識見を示されて選抜された、国の宝です。しかし、時代環境の変化のスピードは想像を超えていることも現実です。決して自足することなく、ご自身の能力、資質、スキルが、行政課題に対応し得るものなのかどうかをいつも振り返り、自己成長するように努めてほしい、そう願っています。
 
 もう一つ、お伝えしたいのは「国際性と開放性」についてです。国の行政はその国の中には比較対象がありません。比較がないと分析がしにくい。ご自身が携わる行政分野は、諸外国と比べてどうか、諸外国に遅れを取っていないか、などと、常に世界の動向に目を向け、日本の国民、日本の社会に、世界最高水準の行政サービスを届ける、そういう強い気持ちを持っていただきたいと思っています。
 ある一つの物事を捉える際にも、言語によって解釈の仕方、切り取り方は異なるものです。外国語の習熟に今一度注力してほしいと思います。情報源が広がり、物事を多面的に、より客観的に捉えることができるようになります。
 また、よく指摘される縦割りの思考、これには何重にも注意して頂きたいことです。ある省に長く在籍すればするほど、専門性は高まりますが、国民の真の利益が見えにくくなり、考え方も現状維持に偏りがちになります。これらはしばしば「サイロ」型思考と言われます。皆さんにはオープンな思考、柔軟な発想、それをいつまでも忘れないで持ち続けてほしいと思います。
 
 今日は、皆さんに対する強い期待から、色々とお願いをしてきました。
 ・ 常に国民と向き合い、自己を規律すること
 ・ 能力を磨き、高い視座を持つこと
 ・ 国際性と開放性
 これらはあくまで人事院総裁と言う立場上申し上げました。私自身も、日夜反省をし、苦悩していることです。
 人事院は、適切な労働環境や処遇、能力を磨く研修機会の提供など、皆さんが公務員として職務を全うできるよう、最大限の支援をしています。最近でも、多様な働き方を可能にするために、フレックスタイムを使いやすくしたり、長時間労働の是正などの働き方改革に率先して取り組み、一定の成果を上げてきました。今後も各省の人事担当部局とともに、活力ある職場づくりに務めます。これらについて、現場からの問題提起も歓迎します。また人事院は、国家公務員の職場での困り事の相談窓口でもあります。より良い公務職場の実現に向かって、一緒に前進していきましょう。
 
 最後に皆さんに贈りたい言葉があります。それは「グロース・マインドセット」と言う言葉です。著名な心理学者の方が提唱され、実証されてきている考え方です。人間の考え方は大きく分けてグロース・マインドセット、成長型思考とフィクスト・マインドセット、固定的思考があります。
 最初の出発点が同じでも、その後大きく伸びる人は前者、グロース・マインドセットを持っていると言われます。他方、後者のフィクスト・マインドセットでは伸びが止まってしまう。なぜなら知性は、例えば試験の成績などで示される、固定的なものだと考えてしまうからです。そのため、挑戦による失敗を恐れ、批判を受ける機会を避けるようになります。成長が止まってしまいます。
 これに対し、グロース・マインドセットは、知性はいくらでも改善拡大するものだと、楽観的に考えます。失敗を恐れて難題を回避するのではなく、難題であればこそ、学びを多く得られる成長の機会として歓迎するのです。
 人生においては、数多くの難題に直面します。また、皆さんが携わる仕事に対して、ポジティブな反応だけなく、当然のことながら、ネガティブな反応も聞こえてくるでしょう。難しい課題に挑戦することは自分が次の段階に進む、成長の機会です。他者からの批判的なフィードバックも「絶え間ない成長の種だ」と捉え、改善のきっかけにしてみよう、そう思うようにしましょう。
 この「グロース・マインドセット」というスタンスで物事に当たることで、自己成長につながり、職業人としての幅が広がるものと考えています。
是非、心のどこかに、とめ置いていただきたいと思います。
 
 
 皆さんが、国家公務員としての気概を持って、多くの難題に立ち向かい、日本の将来を創っていくことを大いに期待しています。
そのように果敢にチャレンジしている皆さんとまたどこかでお目にかかり、直接お話できる日を楽しみにしています。