第27回(平成26年) 人事院総裁賞「個人部門」受賞

大橋  秀夫 氏 (67歳) 

(法務省 八王子医療刑務所長)

 大橋さんは、採用以降、著しく困難を伴う矯正医療一筋に取り組まれ、終末期受刑者に対する緩和ケアの導入や、精神疾患患者の処遇の適正化等へ注力し、矯正医療の充実と発展に寄与された点が評価されました。

 
 

☆ 大橋さんがこれまでに担当された業務と、現在従事しておられる業務の内容をお聞かせください。
 千葉刑務所では精神障害受刑者の診療、矯正局では施設を医療機能別に階層化した矯正医療システムの構築と医療刑務所と医療少年院を近接設置する矯正医療センター構想の発表、合理的な食糧給与量の確定と食習慣の違いや宗教上の禁忌食にも配慮した新たな食糧給与事務規程の策定など矯正医療行政に取り組んだほか、分類鑑別技官の養成にも関与しました。関東医療少年院では被虐待少年に対するグループミーティングを導入して職員を指導し、八王子医療刑務所では意欲が減退して閉じこもっている精神科患者の活性化と終末期患者に対する緩和ケアを多職種の職員を指導して組織的に取り組んでいるほか、准看護師の養成と若手精神科医の指導や診療にも従事しています。

☆ 八王子医療刑務所において、終末期受刑者に対する緩和ケアの導入を主導されたとのことですが、どのようなきっかけで取り組まれることとなったのでしょうか。
 医療刑務所では死亡する患者には家族の面会が滅多に無く、多くは薄暗い病室で孤独のうちに死んでいきます。霊安室での葬儀も職員のみで執り行うことが多く、遺骨さえ引き取ってもらえません。こうした現実を前に、医療は何が出来るのか?刑務所の使命は受刑者を改善更生させ再犯しないように指導することですが、終末期受刑者にはこれが該当しません。彼等の再犯可能性は皆無だからです。疾病治癒の手立てがなく社会復帰の希望も絶たれたとき、残されているのは患者の心身の苦悩や苦痛の除去ないし緩和だけですが、これこそ医療の本質ではないか、と改めて思い至り、積極的に取り組むことにしたのです。その結果、納棺された遺体の表情も穏やかになってきました。

 

☆医療刑務所の現場においては、様々な御苦労もあると思われますが、日々の業務の中で、特に御苦労の多い点や、留意されている点をお聞かせください。
 患者には不信感の強い特殊な人が多く、しかも、患者も医療従事者も相互に相手を選べない拘禁下ですから、病院とはいえ、対決的な雰囲気が生まれ、トラブルが誘発されやすい治療環境です。患者と職員のストレスを緩和し、少しでも穏やかな雰囲気になるようにと、職員には言葉遣いに配慮するように指示し、毎日実施している施設内所長巡回のときには、患者等の受刑者と職員に積極的に声を掛けて挨拶しているほか、診療棟には音楽を流し、また、質の高い行事も増やしました。観桜会の充実やクリスマス会、各種コンサート、落語会等の開催ですが、彼等の感想文には行事の素晴らしさに感動したことと職員の心配りに対する感謝の言葉がつづられています。

☆矯正医療を巡る課題と今後の見通しについてお聞かせください。
 矯正医官の不足解消が喫緊の課題ですが、その他にも高齢受刑者の増加に伴い、認知症や脳血管障害後後遺症等でリハビリや介護を要する患者と癌など重篤な疾患に罹患し刑務所で死亡する患者が増えていますし、女子受刑者の摂食障害患者も増えています。いずれも人手のかかる患者です。今後の矯正医療には、専門医を含めた医療スタッフと介護職員等の必要性がますます高まると思います。

☆最後に国民の皆様へメッセージをお願いします。
 「犯罪者にそこまでする必要があるのか」という批判を耳にすることがありますが、医療は敵味方、貴賎、上下の別なく実践されるべきもので、従って患者が犯罪者・非行少年であっても同様です。しかも私たちは、限られた予算の中で、必要な医療は行うものの、不必要な医療は行いません。食事にしても、少ない予算の中で、美味しく食べられるようにと献立や味付けを工夫しています。これらまでを贅沢だと言われれば、返す言葉がありません。拘禁して自由を奪う以上に、彼らに苦痛や不快を与えることは、虐待になるということ、また、医療刑務所が病院(ホスピタル)である以上、患者である受刑者にホスピタリティをもって遇するのは当然であることを理解いただきたいと思います。

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