第28回(平成27年)

 

 

人事院総裁賞の選考を終えて

 

 
 追手門学院大学地域創造学部教授
 佐藤 友美子 氏

 

  人事院総裁賞の選考委員を平成22年に拝命し、28回目を迎える本年も審査に参加させていただいた。30万人を超える一般職国家公務員の中から各府省等に推薦された方々の仕事ぶりは、いずれも素晴らしく、その職種も多岐にわたっている。推薦書を何回も読み返すが、選考は大変難しく、悩ましい仕事である。
 「国民全体の奉仕者としての強い自覚の下に職務に精励し、もって公務及び公務員の役割についての理解と公務に対する信頼を高めることに寄与したと認められる職員又は職域を顕彰する」という総裁賞の趣旨には、推薦された方の全てが当てはまる。決め手は、個人あるいは職域でどんな功績を上げられたのかである。顕彰実施基準で対象としている仕事は三つある。一つ目は同一職種での不断の努力又は不便な地での精神的、肉体的労苦の多い勤務。二つ目は国民生活の向上、生命、財産の保護という業務での顕著な功績。三つ目は平成24年に追加された業務の改善・改革を通じて、行政サービスの著しい向上を果たしたというものである。

今年の個人部門は、海上保安庁で分析・鑑定業務の第一人者として犯罪捜査の信頼性向上に大きく貢献された小泉敏章氏である。明確な基準のない中での分析・鑑定手法の研究・開発を推し進めるため、勤務時間外にも不断の努力を積み重ね、また海上保安官の初任教育にも尽力された。
  職域部門で選ばれたのは4職域である。財務省門司税関厳原税関支署は、不便な地での入国旅客急増への対応への努力と有形文化財の海外持ち出しの阻止を果たされた。厚生労働省関東信越厚生局麻薬取締部麻薬取締部危険ドラッグ取締対策本部は、急速に社会に蔓延した危険ドラッグ販売店舗の根絶にリスク覚悟で果敢に立ち向かい、危険ドラッグ問題の沈静化に大きく寄与された。水産庁九州漁業調整事務所漁業取締船白鴎丸乗組員は、中国の虎網漁業の実態と問題点を明らかにし、東シナ海における水産資源の保護と漁業秩序の維持に貢献された。国土交通省中国地方整備局は、平成26年の広島市土砂災害発生時に、二次災害のおそれがある中、緊急渓流点検・危険度評価や流出土砂撤去を速やかに行い、自衛隊等への技術支援により、復旧事業の早期実施に大きな役割を果たされた。

今回顕彰された方々は、いずれも、喫緊の課題に対して、迅速に、勇気をもって対応されたところに特徴がある。公務員といえば、決まったことをコツコツ地道にやるが、融通が利かないという印象を持っている方もいるだろう。しかし、社会の変化が激しい現代にあって、創造的でなければ仕事を全うすることは難しい。国民全体の奉仕者として、真の目的のため、リスクを恐れず、先例に捕らわれず職務に精進されたことが何より尊く、尊敬に値する。総裁賞の意義は、国家公務員の顕彰に限定されるものではない。むしろ仕事のあるべき姿を私たちに指示しているところにある。その思いを深くした今年の審査であった。

(人事院総裁賞選考委員会委員)

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