第30回(平成29年) 人事院総裁賞「個人部門」受賞

上田  稔 氏(61歳)
(独立行政法人造幣局 事業部 装金課 技能長)

  上田さんは、長年にわたり美麗・尊厳・品格の諸要素を兼ね備えた勲章・褒章及び金属工芸品等の製造に貢献するとともに、後進の育成を積極的に行い築き上げられてきた卓越した技能と知識の伝承に尽力したことが認められました。

 
 

☆始めに、上田さんが従事しておられる業務の内容をお聞かせください。
私は、事業部装金課に所属しており、勲章や褒章、金属工芸品(国民栄誉賞、県民栄誉賞など)を製作する業務に従事しています。
装金課には、銀などの材料板に模様をプレスする圧写工程、プレスした部品を糸鋸やマシニングセンタで形に沿って切り抜きヤスリで形を整える作業、部品をロウ付け(部品の素材である金属より融点の低い金属(ロウ)に熱を加えて部品間の隙間に溶かしこみ接着すること)する作業、羽布研磨(モーターの軸に羽布を取り付けて高速で回転させ研磨剤を付けた羽布に部品を当てて磨くこと)して小さな傷を取り除いて光沢を出す作業、メッキ作業、組立作業を担当する仕上工程、七宝が入る部品に「ゆう薬」を盛り付けて電気炉で焼き付ける七宝工程があります。
私は、仕上工程を担当し、主に手作業で行う細かな糸鋸作業、ヤスリ作業、ロウ付け作業を担当しています。

☆高度な技能及び専門的な知識が求められる業務だと思いますが、上田さんはどのようにして高度な技能や知識を身につけられたのでしょうか。
私の父が飾り職人(貴金属細工加工工)であったことから、私は糸鋸やヤスリが身近にある環境で育ち、自然とモノづくりが好きになり、そして勲章を作りたいという思いから造幣局に入局しました。
私が入局した当時は、ほとんどの勲章が手作業で製作されていたことから糸鋸作業とヤスリ作業を日々繰り返すことによって手作業の基本を身につけました。
平成2年に一級貴金属装身具製作技能士の資格を取得したことが大きな自信となり、その後は積極的に様々な技能研修に参加して知識と技能を身につけました。
平成15年に東京藝術大学美術学部工芸科鍛金研究室でお世話になった10ヵ月間の研修では、多くの方々と出会い、それまでとは全く違う環境でモノづくりを行い、技術やモノ(作品)の見方、モノづくりの心を学ぶことができたことが非常に良い刺激となりました。
また、外部講師としてお迎えした人間国宝(彫金)の先生から受けた研修では、初めて象嵌(母体となる金属に違う種類の金属を嵌める技法)を学び、高度な手作業の伝統技術も身につけました。

☆日々の業務の中でご苦労の多い点やご留意されている点をお聞かせください。
 勲章や褒章は、国家又は公共に対し功労のある方などが着用されるものであることから、着用時に部品の接合部が外れないよう細心の注意を払って一つ一つ心を込めて製作しています。
私が今一番気に掛けていることは、後輩職員に技能を伝承することです。近年では機械化が進み、手作業で製作する勲章の数量が減少しており、糸鋸作業やヤスリ作業を経験する機会が減少しているため、手作業の基本を習得することが非常に難しい状況になっています。
大勲位菊花章頸飾や文化勲章など複雑な手作業を要する勲章は、糸鋸やヤスリの基本技能を確実に習得していなければ製作できないことから、私が業務や研修で経験して習得した知識や技能を少しでも多くの後輩職員に伝承していきたいと考えています。

☆上田さんが業務を通じてやりがいを感じられるのは、どのようなことでしょうか。
 春秋の叙勲や文化の日の叙勲のニュース等で勲章を授与された方々の笑顔と着用されている勲章を拝見したときにやりがいを感じます。
大勲位菊花章頸飾は、唯一、22金(金の割合が24分の22である合金)を材料として使用し、明治時代から変わらない日本の伝統技法を用いて製作します。多くの部品から構成されていることから多くの時間と手間を要するため、無事に完成したときは感慨深いものがあります。

☆最後に、国民の皆様へメッセージをお願いします。
 勲章や金属工芸品の製造に従事する者として、初めて人事院総裁賞をいただいたことに大変感謝しております。
造幣局で貨幣を製造していることは、国民の皆様もよくご存じのことと思いますが、勲章や金属工芸品も造幣局で製作していることを知っていただける良い機会になったと思います。
私は、平成29年3月に定年退職し、現在は再任用職員として勲章などの製作に携わっていますが、残された時間は国民の皆様の期待に応えられるよう、後輩職員に知識と技能を伝承し、日本の伝統技法を守り、世界に誇れる貨幣と勲章を製作する「ものづくり造幣局」の一員として貢献できるよう努めていく所存です。

▲大勲位菊花章頸飾部品の指導を行う上田氏

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