第32回(令和元年) 人事院総裁賞「個人部門」受賞
 
降籏 英樹氏(55歳)
(農林水産省関東農政局農村振興部国営事業情報分析官)
 
 降籏さんは、タイの洞窟で遭難した少年らの洞窟からの救出活動を排水の技術的助言により支援し、洞窟内の水位を下げ救出活動を可能にする役割を果たして、公務の信頼を高めることに大きく貢献したことが認められました。


                                       
 
☆始めに、降籏さんがタイ国農業・協同組合省王室かんがい局において従事しておられた業務の内容をお聞かせください。
 私は農林水産省の職員ですが、国際協力機構(JICA)の長期専門家(政策アドバイザー)として、タイ国の王室かんがい局に派遣されました。
  業務は、日タイ経済連携協定に基づき締結された文書により実施されることとなった、「水管理及びかんがいにかかる技術協力」の実施であり、地下水資源開発、地震に強いかんがいインフラ設計、老朽化するかんがい施設の改良、環境影響緩和のための技術、洪水/干ばつリスク分析の五つのテーマに係る技術供与の支援を行いました。
 
 ☆洞窟からの救出活動を排水の技術的助言により支援されたとのことですが、具体的な支援内容についてお聞かせください。また、今回いかされた技術的な知識をどのようにして身につけられたのでしょうか。
 洞窟では、雨水により内部が部分的に冠水し、洞窟内に入った子供たちの出口が無くなっていました。また、雨期が始まり雨が降り続いている中で、洞窟内の水位が上昇しており、早急に洞窟内の水を排除する必要がありました。
 このため、排水の指導に加え、洞窟内への雨水の流入口を探し、雨水の流入を軽減する必要があり、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の協力を得て国際協力機構(JICA)が入手した現地の詳細な地形図を提供するとともに、タイ国の王室かんがい局と協力し雨水の流入口の探索を行いました。排水に関しましては、国内では、かんがい排水事業に従事してまいりましたので、現場での経験により得られた知見からの支援でした。
 
☆救出活動において、特に御苦労された点や印象に残っている点をお聞かせください。
 タイ国政府、日本を含む諸外国からの協力者、地元の住民、さらにマスメディアの方等が集り、洞窟の周辺は、大変騒然とした雰囲気でした。現場での緊張感はとても印象的でした。
 救出作業が始まった当初はタイ国側の指示系統が分からず、現地での活動を行う上でのタイ国側の担当者となかなか話をすることができなかったこと、また、洞窟の地形が分かる正確な資料が無く、遭難した子供たちの別の脱出ルート、雨水の流入口の位置、適正な排水ポンプの配置などの検討を十分にできなかったことが私を含め現場の関係者が苦労した点です。また、雨水の流入口が数か所あり、これを完全に止めることが不可能であり、雨による水位が上昇する中での限られた時間での対応は、救助に関わった全ての皆さんが苦労した点であったと思います。
 救出活動は、地元住民、タイ国政府、各国の救助隊が一体となり実施され、その結果が遭難した子供たち全員の無事救出に繋がったものと思います。
 
☆最後に、国民の皆様へメッセージをお願いします。
 今回の案件は、赴任地での緊急事態への対応でした。日本が行う海外技術協力は多岐にわたっており、あまり知られていない内容もあると思います。しかし、今回の案件での詳細な現地の地形図の供与など、日本の持つ技術が海外で活用される場面は多くあると思います。海外での技術協力、支援に携わる仕事や日本の持つ技術力について皆さんが興味を持って頂ける契機となれば幸甚です。

                     写真1
 ▲タイ国の王室かんがい局

               
▲タムルアン洞窟の入口内部の様子

       
▲タイ国王から勲章の受賞の様子


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