第32回(令和元年) 人事院総裁賞「職域部門」受賞
 
海上保安庁、財務省税関、厚生労働省地方厚生局麻薬取締
 
 長期の粘り強い内偵捜査を行うとともに、関係機関で合同捜査体制を構築して、海上及び陸上における徹底した水際対策を実施し、過去最大量となる覚醒剤約1トン(末端価格約600億円相当)の密輸入を阻止し、国内治安の維持に大きく貢献したことが認められました。


                        
 
☆始めに、海上保安庁、財務省税関、厚生労働省地方厚生局麻薬取締部等で合同捜査体制を構築したとのことですが、同体制ではどのような業務を行ったのでしょうか。また、同体制を構築することとなった経緯をお聞かせください。
 今回の覚醒剤密輸事件は、犯罪手口が巧妙かつ計画的であり、全国各地において長期間の捜査を要することから、各々の機関が持つ権限を活用し、水際対策に万全を期すため、大規模な合同捜査体制を構築して対応に当たりました。
 内偵捜査段階における具体的業務内容としては、海上保安庁では第二~七・十一管区海上保安本部の職員により、巡視船艇等の機動力を活用した洋上監視のほか、防犯カメラの精査、関係者への聞き取り、裏付け捜査及び被疑者の行動確認などを実施しました。財務省税関では東京・名古屋・門司税関の職員により、被疑者・関係者の入国に備えた各空港への入国手配、入国する空港での行動確認などを実施しました。厚生労働省地方厚生局麻薬取締部では関東信越・東海北陸・九州厚生局麻薬取締部の職員により、関係する暴力団等犯罪組織の動向等に係る情報の収集・提供、監視カメラや追尾による被疑者の行動確認などを実施しました。
 さらに、被疑者の逮捕後においては各機関が連携して、被疑者取調べや覚醒剤の鑑定など、覚醒剤密輸の立証に係る裏付け捜査を行いました。
 
 ☆過去最大量の覚醒剤密輸を水際で阻止されたとのことですが、当該密輸事件の概要をお聞かせください。
 平成二九年一一月、海上保安庁に寄せられた情報を基に、直ちに内偵捜査に着手し、防犯カメラ等を精査するとともに、関係車両の徹底した足取り捜査を積み重ねた結果、覚醒剤密輸を企図する来日外国人被疑者等の関与を短期間のうちに突き止めたことから、海上保安庁、税関、麻薬取締部及び警察にて大規模な合同捜査体制を構築しました。
以降、捜査官が粘り強く内偵捜査をするとともに、巡視船艇等を活用した洋上取締体制による監視・警戒を徹底した結果、六月二日、被疑者らが鳥島南西方沖の我が国の排他的経済水域内において、船籍不詳の船舶から被疑船舶に覚醒剤を積み替え、六月三日、静岡県加茂郡南伊豆町の海岸に陸揚げしたため、六月三日から四日にかけて、被疑者七名全員を覚せい剤取締法違反(営利目的共同所持)により逮捕し、我が国では、一度の摘発量として過去最も多く、過去数年の年間押収量に匹敵する一トン(末端密売価格約六〇〇億円相当)を超える覚醒剤を押収しました。
 なお、同月二四日に覚せい剤取締法違反(営利目的輸入)で、一一月五日に関税法違反で起訴されました。
 
☆省庁の垣根を越えて、関係機関との合同捜査体制を構築されたとのことですが、特に御苦労や御留意された点をお聞かせください。
 国民の皆様の公務に対する信頼確保のため、失敗の許されない緊迫した内偵捜査が一年八箇月続き、さらに途中で捜査官による追跡を警戒する行為がうかがえたことから、尾行を中断せざるを得ない厳しい状況も続き、捜査は困難を極めました。
 また、近年、覚醒剤を押収し逮捕した中国人被疑者が拳銃を所持していた事件等がある中、本件は、中国人犯罪組織の関与が濃厚な巧妙かつ大規模な覚醒剤密輸事件であり、逮捕への抵抗行為や多額の犯罪収益を絶たれたことに対する報復行為により、捜査官自身や家族へ危害が及ぶリスクを抱えながら捜査に当たっていました。
 
☆今後の業務への抱負をお聞かせください。
 今回押収した約一トンという覚醒剤の量は、一回の平均摂取量に換算すると、約三千三百万回分に相当し、これが国内で拡散してしまうと、覚醒剤乱用者が増加し、我が国の法益を著しく侵害するだけでなく、密売組織が多額の非合法収益を得ることとなり、我が国の治安に重大な影響を与えてしまいます。
 このような事態が起きないよう、引き続き、関係機関の強固な協力体制の下、海上及び陸上における抜け目のない徹底した水際対策を実施していくことにより、国民の皆様の公務に対する信頼確保に繋がるよう努めてまいります。
 
☆最後に、国民の皆様へメッセージをお願いします。
 本件は、海上保安庁に寄せられた些細な情報を基に、税関、麻薬取締部、警察の関係機関が緊密に連携し、内偵捜査を重ねた結果、被疑者の関与を突き止め、最終的には摘発に至ったものです。
 我々の監視体制だけでは全国の海上及び陸上を全て網羅することはできず、国民の皆様の協力なくしては成り立ちませんので、不審な情報を入手した際は、気軽に我々へ情報提供していただけますよう、よろしくお願いいたします。



                               
                                 
 ▲積載されていた覚醒剤

              
洋上洋上監視する巡視船(イメージ)
                       

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