第32回(令和元年) 人事院総裁賞「個人部門」受賞
 
山﨑 ゆきみ氏(61歳)
(海上保安庁総務部海上保安試験研究センター試験研究官)
 
 山﨑さんは、犯罪捜査に係る証拠物件である油類・船舶塗膜等の分析・鑑定業務に29年間従事し、迅速・的確な鑑定の実施、分析鑑定業務の能力・信頼性の向上に尽力し、海上保安庁の捜査業務に大きく貢献したことが認められました。
                                                                                 
 
☆始めに、山﨑さんが従事しておられる業務の内容をお聞かせください。
    海上保安庁の業務の一つに、「海上における犯罪の取締り」があります。この業務では、現場の海上保安官が捜査を行いますが、その過程で、犯罪の証拠となる物件を科学的に調べることが必要となる場合もあります。海上保安庁では、総務部海上保安試験研究センターと、六つの管区海上保安本部に置かれた分析係において、証拠物件の分析鑑定を行っており、私はこの業務に永く携わってまいりました。
    現在私が所属する総務部海上保安試験研究センターは、公害が社会問題となっていた昭和四七年に、海洋汚染原因物質の分析検査、試験研究を推進する目的で設置され、その後、船舶塗膜、違法薬物、電子機器等の海上犯罪に係る各種証拠物件の分析鑑定業務を加えて現在に至っています。
    私が主に担当してきたのは、海洋に不法排出された油類、船舶同士の衝突当て逃げ事案などで遺留された塗膜片、また、麻薬・覚醒剤などの密輸や不法所持事案における違法薬物などに係る分析鑑定です。
 
 ☆専門的な知識や経験が求められる業務だと思いますが、山﨑さんはどのようにして専門性を身につけられたのでしょうか。
 分析鑑定についての専門的知識経験は、一朝一夕に修得することはできません。特に、船舶用の油類と塗膜片の鑑定は、国内に同様の業務を行う他機関がないことから、一般的研修のほか、対象物件の特性や分析鑑定技術について所内独自のOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)や文献等の各種方面で学びつつ、徐々に実務経験を積み重ねてまいりました。また、科学技術は日々進歩しているので、最新の知識技能を維持するために、今でも毎日が勉強です。
 
☆日々の業務の中で、特に御苦労の多い点や御留意されている点をお聞かせください。
 犯罪捜査における分析鑑定は一刻を争う場合が多いので、至急の依頼を受けて夜間や休日返上で作業することも少なくありません。私たちが鑑定した結果をもって、現場が捜査を進めることもあるので、大きな責任を感じています。また、嘱託案件と対峙する際は、鑑定人として、予断や偏見を持つことなく、公正かつ客観的に判断することを常に意識しています。
 分析鑑定業務では、まったく同じ案件は二度とないことから、機会あるごとに後輩職員に自らの経験を伝え、技術を継承するよう心掛けています。
 
☆山﨑さんにとって印象に残っている事案等がありましたらお聞かせください。
 古い事案ですが、今でも記憶に残っているのは、昭和六〇年の「ソ連船による東京湾内油排出事件」です。この事案は、東京湾内で旧ソ連の貨物船が大量の廃油を流しながら走り去ったものですが、流した原因が乗組員のバルブ操作ミスであったのに、この状況を隠ぺいした上で事実を頑強に否認していました。このため、捜査は難航し、当時、第三管区海上保安本部の分析係であった私のところに現場で採取した油資料が次々と持ち込まれ、徹夜で分析を行いました。その結果から、油の排出経路が明らかとなり、容疑船が油を排出したことと、それを隠ぺいしていたことを認めるに至ったものです。
 この事案は、私が分析鑑定業務を担当した初めての大きな事案であり、自分ひとりで大きな判断をするという重圧がありました。しかし、私の鑑定した結果が事件解決への糸口となり、現場に貢献できたという達成感とやりがいを感じた事案であり、この業務を続けてきた私の原点と思っています。

 
☆最後に、国民の皆様へメッセージをお願いします。
 昭和四〇年代、東京湾は真っ黒な重油が浮かぶ汚れた海となっていました。現在の、きれいな東京湾を取り戻せたのは、海上保安庁の地道な海洋汚染取締り活動のほか、各機関の粘り強い取組が実を結んだものであり、私も分析鑑定担当者として、微力ながらこの活動に関わることができたことを誇りに思っています。
 海上保安庁は、今後も様々な分野で海を守る活動を続けてまいりますので、応援のほど、よろしくお願いいたします。
                                 

                         
 ▲油類の分析を行う山﨑氏(平成7年頃)

       
▲米国沿岸警備隊海上安全研究所にて
(前列左端が山﨑氏)(平成24年)
                                              
▲施設一般公開日に海保イメージキャラクター
うみまると一緒に(平成27年頃)


                                                                    -総裁賞受賞者一覧に戻る-
 
Back to top