第33回(令和2年)

人事院総裁賞選考を終えて

 

 
 三菱重工業株式会社特別顧問
 佃  和 夫  氏
 

「日本人は見たくないものから目を逸らし、無いものと信じて備えを怠る傾向が強く、それが過去幾多の悲劇をもたらしてきた。」本年一月九十歳で亡くなった半藤一利氏がこのような趣旨の事を言っておられたそうである。私たち国民一人一人がもっと真摯に現実を直視し万一に備えておけば悲劇を回避できたのではないかと思える事例は多い。
 公務員は、このような世情にあってもなお、国民の安全な生活の維持に必要な公務に尽力する責務を負っている。本年も人事院総裁賞選考委員会委員長を拝命し他の六人の委員の方々と選考に当たった。「国民全体の奉仕者としての強い自覚の下に精励し、国民の公務に対する信頼を高めることに寄与した功績を讃える」との総裁賞の意義に照らして推薦された候補者の方々の日頃の御努力に対し改めて頭の下がる思いがした。
 個人部門では各府省から推薦された候補の中から海上保安庁の上治悟氏が選ばれた。氏は十八年の長きにわたり精神的、肉体的に極めて苦労の多い機動救難士として延べ四八七件の救助活動に従事、当然のことながら救助活動は悪天候に加え波高き海の上、劣悪な環境と極度の緊張感の中で遂行してこられた氏の使命感、責任感、技術力が高く評価された。後輩の人たちも氏の後ろ姿を見ておられると思うが、是非その志を引き継いでいただきたいと切望する。他の候補者の方々いずれも受賞者に劣らぬ功績を残してこられたが選考の結果、受賞には至らなかったのは残念至極である。
 職域部門では候補の中から四件、公正取引委員会事務総局取引部取引企画課消費税転嫁対策調査室、法務省福岡保護観察所北九州支部北九州自立更生促進センター、農林水産省消費・安全局口蹄疫ウイルスに対する抗原検出キット実用化チーム、国土交通省国土地理院基本図情報部くにかぜ撮影チームが選定された。いずれも自然災害、事故、事件等何も起こらないことを願いながら万一起こった場合に備えて、その防止策や復旧策を準備、実施しておられ、その日々の活動の意義を改めて認識した次第である。
 これらの職務に終わりはない。後に続く人たちがその仕事を継承し我々国民を支えて下さることに、また、公務の国民への周知により公務への信頼が増すことに、この賞が少しでも役立てば幸いである。

(人事院総裁賞選考委員会委員長)

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