第33回(令和2年) 人事院総裁賞「職域部門」受賞

農林水産省 消費・安全局
 口蹄疫ウイルスに対する抗原検出キット実用化チーム

  迅速な初動対応が極めて重要な口蹄疫について、農場で使用できる簡易抗原検出キットの実用化を実現し、これまで以上に迅速かつ的確な初動防疫対応の確保を可能とするなど、口蹄疫のまん延防止及び畜産物の安定供給等に大きく貢献したことが認められました。

 
 
▲(写真提供:日本ハム株式会社)

☆はじめに、農林水産省消費・安全局口蹄疫ウイルスに対する抗原検出キット実用化チームではどのような業務を行っていたのでしょうか。

口蹄疫ウイルスに対する抗原検出キットの実用化は、大きく分けて①国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)動物衛生研究部門における基礎研究、②研究の成果を踏まえたキット化と具体的な使用方法に関する検討、③キットの動物用医薬品としての承認審査、④本キットの特定家畜伝染病防疫指針における検査方法としての明確化の四段階に分けられます。今般の実用化チームは、主に②及び③の業務を担当しましたが、キットの製造販売を担う動物用医薬品メーカーと協力して、キット化に必要な科学的なデータを得るための試験を行ったり、口蹄疫の専門家(研究者)と何度も検討の場を設けて、具体的なキットの使用方法を詰めていくという地道な業務を行いました。font>

 

☆口蹄疫ウイルスに対する抗原検出キットは、平成三〇年一二月に動物用医薬品として承認され、令和元年九月に口蹄疫に関する特定家畜伝染病防疫指針に検査方法の一つとして位置づけられたことに伴ってチームは解散されましたが、業務の中で、特に御苦労の多かった点や御留意されていた点をお聞かせください。

口蹄疫は、感染力が非常に強いため、牛や豚に感染した場合、農場内の牛や豚を全て殺処分しなければなりません。平成二二年の宮崎県での発生では、二か月ほどで約三〇〇戸、約三〇万頭の家畜が殺処分されました。
 被災地域については、早急に営農再開の道筋をつけるため、損壊した農地・農業用施設等の被害状況の把握、営農再開に向けた復旧技術等について支援を行いました。
 このように、口蹄疫は、発生時に畜産業界に与えるインパクトが大きいため、現場段階では慎重に診断する必要があります。しかし、簡易キットの感度にも限界があるため、誤って口蹄疫を見逃すことがないよう、診断の仕組みを構築するのに苦労しました。
 特に、初発事例で今回のキットを使うことについて口蹄疫の専門家の先生方は慎重な意見をお持ちでしたが、メールや電話でのやり取りだけではなく、膝をつき合わせて直接議論を重ねることで、初発事例でも今回のキットを活用し、現場の都道府県が迅速に防疫措置に着手できる仕組みを作り上げることができたのではないかと感じています。

 

☆業務を通じてやりがいを感じられるのは、どのようなことでしょうか。

口蹄疫は、感染拡大を防ぐためには、迅速な診断が必要ですが、上述のとおり、ひとたび発生すると多くの家畜を殺処分しなければならないことから極めて慎重な診断も必要です。そのため、これまでは、原則として検査材料を東京の動物衛生研究部門に輸送する必要があったため、診断が決まるまでに多くの時間を要していました。一方で、防疫措置を早く開始したい都道府県からは、現場で口蹄疫が疑われるかどうかを判定できる診断キットを望む声が非常に多く寄せられていました。
 今回実用化したキットは、海外の先行する迅速診断キットよりも高い感度で正確に口蹄疫を診断することができます。「迅速かつ慎重に」という相反する条件をクリアし、畜産の現場から切望されていた診断キットを具現化できたという点に大きなやりがいを感じることができました。

 

☆今後の業務への抱負をお聞かせください。

現在、農林水産省消費・安全局畜水産安全管理課では、安全な畜水産物の安定供給を実現するため、動物用医薬品、飼料、飼料添加物といった畜水産物の生産に欠かせない資材の安全確保と安定供給を重要な業務の一つとして担当しています。今回の口蹄疫の診断キットのように、生産現場で今何が起こっていて、何が必要とされているか、現場の状況とニーズを的確に把握して、一つでも多くの生産資材を現場に供給し、より安全な畜水産物が生産できるよう、邁進する所存です。ont>

 

☆最後に、国民の皆様へメッセージをお願いします。

食品の安全を確保するための対策は、常に最新の科学的な根拠、データに基づいたものでなければなりません。平成一三年にわが国でBSE(牛海綿状脳症)の発生が確認されて以降、国民の皆様の食の安全に対する関心は、常に高い状態にあります。消費・安全局が行う食の安全確保のための施策は、殊に専門的な内容が多く、皆様からも分かりにくいとの御指摘をいただくことが多いのですが、少しでも国民の皆様に御理解いただけるよう、丁寧な情報発信に努めてまいりたいと思います。引き続き、厳しくも温かい御指摘をいただけますと幸いです。

 
▲口蹄疫の症状
 
▲口蹄疫ウイルスに対する抗原検出キット
(写真提供:日本ハム株式会社)
▲埋却作業の様子(写真提供:宮崎県)
 
 
 

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