第33回(令和2年) 人事院総裁賞「個人部門」受賞

上治 悟 氏(44歳)
(海上保安庁第十一管区海上保安本部那覇航空基地機動救難士)

  上治さんは、長年にわたり一度も機動救難業務から離れることなく機動救難士・救急救命士として救助活動に従事するとともに、実働・訓練とも豊富な経験を活かし、後進の指導・育成にも精力的に取り組むなど、国民生活の安全確保に大きく貢献したことが認められました。

 
 
 
 

☆はじめに、上治さんが従事しておられる業務の内容をお聞かせください。
 機動救難士は全国に一四か所ある航空基地等のうち九か所の航空基地等に、それぞれ九名ずつ配置され、高度なロープ降下技術や潜水技術等を駆使して、洋上の船舶で発生した傷病者や海上を漂流する遭難者などの要救助者をヘリコプターとの連携により迅速に救助することを任務としています。

 

☆機動救難士は肉体的・精神的に極めて苦労の多い業務であると推察しますが、現役の機動救難士として今もなお救助活動に貢献されている大きな要因はどのようなものでしょうか。
 国民の皆様からの期待に対する責任意識はもとより、偉大な先人達より受け継がれてきた海上保安庁潜水士・機動救難士としての矜持を汚すことなく、後輩に引き継ぐことを責務と意識してきたことが大きな要因であると思います。
 また、上司や先輩からの熱意ある指導や助言、家族や後輩からの温かい支援・応援など周囲の方々に恵まれてきたことも欠かせない要因であると思います。
 さらに、苦痛や様々な思いに耐えながらも、我々の救助活動に応じてくれた要救助者の存在も私が現役を続ける原動力となっています。

 

☆機動救難士に従事するために日々どのような訓練をされているのでしょうか。また、日々の業務の中で、特に御苦労の多い点や御留意されている点をお聞かせください。
 日々の訓練は、ヘリコプターとの連携訓練及び潜水・レンジャー訓練など救助技能の維持・向上のためのものや、救急救命士業務の慣熟訓練及び近隣医療・消防機関での実習など救命に関する知識や技能の向上に取り組んでいます。 救命救助の世界では、考え方や使用器材が目まぐるしく変化するため、病院実習や救急車同乗実習等で知識や技術の向上が必要とされ、この実施のために各種機関の温かい御理解と御協力をいただいています。こうした経験を日々の訓練や業務に活かし、常に実施した業務を振り返ることに留意しています。

 

☆印象に残っている事案等がありましたらお聞かせください。
 平成二五年一月に沖縄県宮古島市の伊良部島に乗り上げた外国籍小型タンカーの救助事案が印象に残っています。
 我々の乗るヘリコプターで岩場に避難した乗組員四名を吊上げ救助し、他のヘリコプターが救命いかだで避難した一名の救助作業を行い、断崖の岩場を一名は自力で登り救助され、残る一名は残念ながら行方不明となってしまった事案でした。
 現場に到着した我々は、救命いかだに掴まった一名に目を奪われましたが、少し見渡すと白波を受けながら岩場にしがみついている三名を発見し、どちらの要救助者から救助するべきか迷いました。
 当時の潮汐は満潮に向かう状況で、岩場にしがみついた三名に危機が刻一刻と迫っており、この三名の救助を優先し海面へ降下しました。
 三名はしがみつく身体を浮かすほどの波に何度も打たれ、恐怖で身体を動かせなくなっていましたが、一人ずつ抱きかかえて波間に飛び込み、沖合まで搬送しヘリコプターへ吊上げる作業を繰り返し、三名を無事に救助できました。
 最後の一名が機内に揚収された頃、別の岩場にて乗組員一名が発見され、再度白波の先にいる四人目の要救助者へ向かい、無事に吊上げ救助しました。
 空港へ向かう機内で、要救助者の表情が助かった安堵で笑顔に変わっていく様子は今でも決して忘れることはありません。
 また、現場における判断や状況によっては、救助できない人命もあるという現実に、救助活動の厳しさを痛感した事案でした。

 

☆業務を通じてやりがいを感じられるのは、どのようなことでしょうか。
 ヘリコプターや巡視船艇と連携して、遭難者や急病人を無事に救助できた際に、命が救われた安心感に喜びを感じていただけると、私も嬉しく、やりがいを感じます。 また、後輩が成長する姿を見ると、嬉しさややりがいを感じます。

 

☆最後に、国民の皆様へメッセージをお願いします。
 身に余るような賞をいただき、このような機会をくださいました皆様に心から感謝を申し上げます。
 これまで様々な形で私を支えていただいた多勢の方々、共に考え苦楽を共有した皆様や、御指導や助言を賜りました皆様の御尽力があってこその今回の運びとなっていることは言うまでもありませんが、この受賞が関係された皆様への恩返しになっていれば幸いに思います。

 
▲岩場に降下後、大波に耐えながら要救助者を確保する上治氏
 
▲ヘリコプター機内で救急救命処置を行う上治氏
 
▲ロープによる吊上げ救助訓練中の上治氏
 
 

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