第34回(令和3年)

道を切り開く

 

 
 作家・女優
 中江 有里  氏
 

「令和二年度から人事院総裁賞の選考委員を拝命し、今回で二回目となる。
 奇しくもコロナ禍での選考に携わることとなり、本年は職域部門に新型コロナウイルス感染症関連(以下「コロナ関連」という。)に対応した部署が複数推薦された。当初全くの未知だったウイルスと対峙するというのは、どの部署であっても大変な重責であったと思われる。
 わたしは公務員というと「国民全体の奉仕者」という言葉を思い浮かべる。特にコロナ関連の選考ではこの言葉の意味を深く考えた。
受賞された厚生労働省検疫所(成田空港、関西空港、東京、横浜)は一丸となってウイルスに立ち向かった。特に令和二年二月から三月にかけて、クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」号の乗員、乗客合計約三七〇〇名の検疫、下船を完了したのは、誰もが知るところだろう。検疫業務が本分とはいえ、未だかつてない業務に最前線で取り組まれたことには敬意を表したい。
 もうひとつ、農林水産省大臣官房新型コロナ現地支援チームは「ダイヤモンド・プリンセス」号を下船した後のフォローに尽力された。他にチャーター機で海外から退避された邦人の一時隔離中の生活支援等も担った。ソフト面での支援は目立ちにくいが、下船者、帰国者の心のケアにも繋がった。
コロナ関連以外の職域では、選考は難航した。どれもすばらしく、甲乙つけがたかったからである。
 中でも気象庁高層気象台は百年にわたり高精度な高層気象観測を継続してきており、現在は国際的な観測網の基準ともなっている。AIは未来の予測に長けているかもしれないが、過去のデータがなければ未来は見通せない。長く積み重ねたデータは、日本のみならず世界中にも有効かつ貴重なデータである。
 法務省愛光女子学園教育・支援部門は、日本初の国立女子少年院として設置、七十年にわたって女子少年の矯正教育に尽力している。また女子職員が多数占めることで、女子少年たちが自立した女性のロールモデルを目にするという矯正教育も期待されるだろう。 海上保安庁海上保安学校は海という厳しい自然環境で業務を行う人材育成を担う。海に囲まれた日本において、海上保安業務は重要な任務。全国の海上保安官のうち、約七割を育てる地盤となっていることが選考ポイントであった。
 最後に個人部門。法務省東日本成人矯正医療センターの奥村雄介さんと海上保安庁第五管区海上保安本部総務部の大待雄治郎さんの二名が受賞となった。業務は違うが、長年にわたり業務へのモチベーションを保ち続け、個人としてこれまでになかった働きをなされたことが評価された。
 道は人が歩いたところにできる。先人の行った道を辿るだけでなく、長い時間をかけて新しい道を切り開くことも必要。それはあとから来る人々に、勇気と希望を与える。
この度受賞された皆様には、心よりお祝い申し上げたい。

(人事院総裁賞選考委員会委員)

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