第34回(令和3年) 人事院総裁賞「個人部門」受賞

奥村 雄介 氏(65歳)
(法務省東日本成人矯正医療センター長)

  奥村さんは、採用以降、長年にわたり矯正医療一筋に歩み、矯正施設における常勤医師の減少により、医師一人当たりの負担が増加する中、最前線に立って職責を遂行し、また八王子医療刑務所から東日本成人矯正医療センターへの施設移転で中心的な役割を果たすなど、矯正医療の充実と発展に大きく貢献したことが認められました。

 
 
 
 

☆はじめに、奥村さんがこれまでに担当された業務と、現在従事しておられる業務の内容をお聞かせください。
 精神科医師として大学の医局で勤務していた頃、人間を知るためには精神病と犯罪の関係について極めなければとの思いに駆られ、東京拘置所に採用されて矯正医療の世界に足を踏み入れ、その後、関東医療少年院医務課長、府中刑務所医務部長などを経て、現在は東日本成人矯正医療センター(旧八王子医療刑務所)のセンター長として勤務しています。矯正医療とは、犯罪や非行によって刑務所や少年院等に収容されている人々に対する保健衛生及び医療の総称です。これまでの勤務で、年齢や性別だけでなく、国籍や言語も異なる多種多様な人格に接し、一筋縄でない矯正医療の奥深さに魅了されながら、多くの患者を治療してきました。当センターは、全国に四つある医療刑務所の一つで、全国の刑事施設等から入院治療を要する重症患者を受け入れているほか、近隣の刑事施設等に対しては外来診察なども行っている医療専門の刑事施設であり、現在、そのセンター長として、施設の管理運営や患者の治療を行っています。

 

☆矯正医療の現場においては、様々な御苦労もあるかと思われますが、日々の業務の中で、特に御苦労の多い点や、留意されている点をお聞かせください。
 医療の世界では、多職種の連携が大切だと言われますが、矯正医療は殊にそうです。そもそも、矯正施設の患者は医療のためだけに入所していませんから、日々、彼らを処遇し、改善更生の働き掛けをしている刑務官等との連携が欠かせません。また、刑期という絶対的な壁がありますが、釈放は完治を意味しませんから、社会の福祉施設や医療機関に「つなぐ」ことが大切であり、調整には本当に心を砕いています。入所中には近隣の病院に搬送して治療を受けることもあるので、職員には、地域の理解あっての矯正医療だと常日頃から言っています。また、被収容者の外部病院への入院は、保安面や財政面で大きな負担となり、立地的に困難な施設もあるので、他施設で発生した患者を積極的に受け入れ、全国の矯正施設の負担を軽減するのも、当センターの大切な使命だと考えています。

 

☆矯正医療を巡る課題と今後の見通しについてお聞かせください。。
 矯正医療は、関係部局の理解を得ながら積極的な広報活動を展開したかいもあって、平成二〇年代の深刻な医師不足から脱しつつあります。とはいえ、矯正施設は社会の延長線上にありますので、被収容者の高齢化、生活習慣病患者や人工透析患者等の増加など、その医療需要は増加傾向にあり、矯正施設における医療の必要性・重要性はますます大きくなっています。また、摂食障害を有する女子受刑者の増加といった女性特有の課題もありますので、今後は専門医を含めた医療スタッフや介護分野の人材確保がより重要になってくると思います。

 

☆業務を通じてやりがいを感じられるのは、どのようなことでしょうか。
 矯正医療は、病気の予防・診断・治療にとどまらず、司法、心理、教育、福祉にまたがる幅広い知識に基づいた全人的な働き掛けが必要とされ、多職種の連携や創意工夫を要するチャレンジングな現場です。また、被収容者の訴えが医療の問題か否か、詐病も含め総合的に診断する技能が要求される上、限られた資源を有効に活用するため、治療的優先順位も決定しなければならず、「必要にして過剰にならない医療」の実践のためには、公平性・中立性・一貫性の三原則に基づく観点も重要です。平和な社会を維持する「縁の下の力持ち」、人々の安全を守る最後の砦として社会に貢献することに、自負とやりがいを持って取り組んでいます。

 

☆最後に、国民の皆様へメッセージをお願いします。
 今回の受賞は、医師不足の危機に耐え、ひたむきに業務に取り組んできた全国の矯正医療従事者に対する称揚であると思います。これを機に、より多くの皆様から、犯罪・非行をした者の立ち直りを支える矯正医療に関心を持っていただければ幸いです。

 
▲病棟カンファレンスの様子
 
▲昭島市との防災協定の様子
 
▲医師カンファレンスの様子
 
 

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