第1編 人事行政

第2部 グローバル社会を切り拓く国家公務員を育てるために

第1章 複雑・高度化する国際関係業務等の現状

1 複雑・高度化する国際関係業務等の全般的状況

(1)国際関係業務の現状

各府省ヒアリングにおいて全ての府省が、国際関係業務全般について、業務量や重要性が増しているとしている。各府省からは、従来から対応してきた業務に加え、例えば、国際テロ対策、サイバーセキュリティ対策など安全保障や社会経済活動に重大な影響を及ぼす課題について関係する国・地域が広がる中での最新の情報収集及び関係諸国や機関との協力関係の強化、経済のデジタル化の進展に伴う金融制度や租税の在り方への対応、新型コロナウイルスなどの感染症対策への迅速な対応のための府省横断的な取組、企業が自国外でも安定した知的財産保護を受けられるようなグローバルな知的財産環境の整備に向けた国際交渉、海洋プラスチックごみなどの新たな環境問題の実態把握や国際的な枠組み作りへの対応、AI、自動運転、ビッグデータ利活用等の国内にも影響する先端技術に関する国際競争への対応などが挙げられている。このほか、新幹線などインフラシステムの海外展開(コラム①参照)においては、関連する産業をまとめ、国内の事業者とも円滑に調整するなど輸出先のニーズに総合的に対応することも期待されているなど国際関係業務の幅が広がっている。

コラム① <国際関係業務の例:我が国鉄道システムの海外展開>

世界の膨大なインフラ需要を取り込むとともに、我が国の持続的な経済成長を実現するための成長戦略の一環として、官民を挙げてインフラシステムの海外展開に取り組む中で、我が国が世界に誇るインフラとして新幹線を始めとした鉄道システムの海外展開を推進している。特に高速鉄道を整備する構想や計画はアジア地域だけでなく米国やオーストラリアでも国家プロジェクトとして進められており、我が国だけでなく欧州系や中国系の企業が競合し、それぞれのシステムが採用されるように活動している。また、鉄道システムの海外展開は、国際協力や安全保障の観点だけでなく、人口減少が進む我が国の産業振興にもつながるものである。さらに鉄道システムは様々な技術の集積であることから、輸出先での鉄道建設や車両組立にとどまらず、その鉄道を安全に運行するためのシステムやメンテナンス体制の構築・維持まで含めたものとなる。このため、採用に向けた取組は、外交的なアプローチだけでなく、様々な産業も巻き込んで、目指すべき方向性を一致させる必要がある。

こうした諸課題においては、二国間か多国間かを問わず、幅広い項目が国際交渉の議題となり、多くの国と長期間にわたり交渉を続けるケースも増えている。また、社会経済のグローバル化が進展する中で、アジアやアフリカ諸国などこれまで交渉を行うことが少なかった国もこれらの交渉に加わり、対応するレベルもトップレベルから担当官レベルまで多様化している。さらに、多国間交渉を必要とする諸課題について、国内行政を担当する部局を含む関係府省とも必要な調整を行いながら、国際的なルール作りに主導的な役割を果たしていかなければならず、各府省からは、大規模な国際会議に相当の人員を割く必要が増えてきたとの意見や、国際的な枠組みが数多くあるため交渉や協議の件数が増加したり、緊急の対応が求められるケースが増えたとの指摘があった。

こうしたことから、厳しい定員抑制が行われている中でも国際関係業務の増加に対応するために、部署の新設や増員の措置を講じている府省も多く、例えば、近年では、世界的な金融規制改革をめぐる議論に対応するために金融庁に次官級の金融国際審議官が、海外におけるインフラ整備プロジェクトへの我が国企業の参入促進のために国土交通省に大臣官房海外プロジェクト審議官等が設置されている。このほか訪日外国人旅行者数の拡大に伴い急増する国際観光の振興に係る事務について一体的に取り組む体制を整備するため、観光庁に国際観光部が新設され、農林水産省及び厚生労働省において、農林水産物・食品の輸出拡大に向けた取組を強化するため増員が措置されたりもしている。一方、国際関係業務の質や量の増加は組織の新設や増員だけで賄いきれず、担当する職員は、日々の業務に追われ、専門知識を深めたり、主体的に問題の解決を検討することが難しい状況にあるとの指摘もあった。

(2)国際関係業務を担う職員に求められる資質・能力等

こうした国際関係業務を担う職員に求められる資質・能力については、全ての府省が語学力を挙げているが、加えて、相手国との間に信頼関係を構築しスムーズな連携を図りつつ適切な対応や方向性を定めることのできるコミュニケーション能力や調整能力、外国の多様な文化や背景を理解し議論をリードする積極性や異文化への理解・協調性等の資質も挙げられており、国内外の様々な相手の主張等を受け止めながら、自らの主張を適切に述べ、結論をまとめていく能力が求められている。このほかには、業務に関する専門性、諸外国の情報を収集・分析する能力、新しい課題に挑戦するチャレンジ精神や国家公務員としての使命感等も挙げられている。

次に、海外勤務等の国際経験を有している本府省の幹部職員の割合を見ると、各府省で異なるものの、ほとんどの府省で過半数となっている(図1-1)。役職段階が下がると海外勤務等の経験のある職員の数が増えており、今後更にこの割合は高まっていくと考えられる。

図1-1 海外勤務等の国際経験を有している本府省の幹部職員の割合
図1-1 海外勤務等の国際経験を有している本府省の幹部職員の割合のCSVファイルはこちら

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