第1編 人事行政

第2部 グローバル社会を切り拓く国家公務員を育てるために

第2章 国際人材の確保・育成に関する人事院及び各府省における取組

第2節 各府省における取組

前節では、国際人材の確保・育成についての人事院の取組を紹介したが、次に各府省の取組を紹介する。

(1)採用

ア 新規採用

各府省ヒアリングによると国際関係業務に関心を示す新規採用者についての割合が過去と比べて増えたとする府省が多く、また新規採用者の英語など語学力について、過去と比べて向上したとする府省が多い。これらの背景として、前節で紹介した採用試験の改善の効果のほかに多くの大学において短期の海外留学を推奨していることなどもあり、海外の滞在経験を有している者が増えてきていることを指摘する府省もあった。なお、採用時に多様な人材を確保する観点から語学力や国際人材としての資質を一定程度考慮する府省はあったものの、その点だけに着目して採用する府省はなく、国際人材については採用後の育成を重視する傾向が見られた。

イ 民間人材の中途採用

新規採用とは別に、民間企業等で既に活躍している人材を国際的業務に就かせるために採用しているケースもある。例えば、相手国政府との交渉・調整業務の増加に対応できる人材を増強するため、語学試験のハイスコアや海外での実務経験など厳しい要件を設けて採用した府省、近年、国際法と国内法との関係が問題となる業務に対応するために、弁護士資格を有する者を採用している府省などがあった。

(2)職員の国際化対応能力向上の取組

国際人材の育成に関しては、各府省により様々であるが、若手のうちにできるだけ多くの職員に語学研修の受講機会を付与した上で、行政官長期在外研究員制度等による留学の機会にも挑戦させ、その後、本人の希望や適性を踏まえつつ、海外勤務を含む国際関係業務を経験させていくというパターンが典型的である。また、いくつかの府省では、国際関係業務への従事を希望する職員をリスト化し、これらの職員の能力や適性を見ながらキャリアパス上の配慮を行ったり、G20といった大規模な国際会議等の他部局の国際関係業務で支援が必要な場合に応援業務に就かせる機会を与えているケースも見られた。

次に、能力開発については、欧州で勤務する場合は英語以外の言語能力を有していることが要求される場合が多いことや中国に関連する業務が増加している状況を踏まえ、英語中心だった語学研修をフランス語・中国語などにも拡大し、複数の語学力向上に力を入れている府省の取組が見られた。また、これまで、海外派遣前の職員の語学力向上に重点が置かれ、海外勤務から戻ってきた職員のフォローアップが不足しがちであったとして、海外から戻ってきた職員の語学力の維持・向上を目的に語学研修を行う府省もあった。

さらに、語学以外の専門性向上という観点から、国とは異なる民間の視点からの海外ビジネスや日本の置かれている現状などを学ぶため、民間企業などから専門家を招いて研修を実施している府省もあった。その他にも職員に対し海外における調査・研究計画を公募し、選抜された職員本人に実際に海外で調査・研究を行わせる例も見られた。

このほか、国内行政に従事する人材の国際感覚をかん養するため、役職段階別研修等において所管行政に関する国際的業務の理解に関する科目を導入したり、地方勤務の職員も含め語学力の向上を目的とした自主的な研さんを促進させるため、オンラインにより自宅でも研修を受講できる体制を整備した府省もあった。

(3)海外勤務

国際機関や途上国政府への派遣、在外公館への出向による海外勤務に当たっては、本人の意向や適性を踏まえて人選し、海外勤務終了後は、その経験をいかせる業務に就かせている府省が多い。なお、重要度の高い国や重要なポストには業務を適切に処理できる海外勤務経験者を就け、若手職員の海外経験を積ませる場合は研究業務の占める割合が比較的高いポストに就けるといった人材育成上の工夫を行う府省も見られた。また、国際機関等に日本人職員がいることは派遣府省にとっても非常に有益であることから、これまで派遣が少なかった地域や国際機関等に新たに職員を戦略的に派遣したり、従来からのポストに継続して派遣できるよう努めている府省も見られた。一方、海外勤務に積極的な職員を把握することを目的として海外勤務のポストについて全職員を対象とした公募を行うことで、職員が育児や介護等のライフイベントの状況などを踏まえて希望することができるとともに、先進国に限らず様々な国を希望する職員の開拓にもつながっているとした府省もあった。そのほか、国際機関への派遣の拡大のため、公募されている国際機関の空席ポストへの応募を職員に奨励している府省もあった。

(4)人事院が実施する研修の活用

行政官長期在外研究員制度及び行政官短期在外研究員制度による派遣に当たっては、各府省が本人の希望を踏まえ、語学の成績や適性などを勘案して候補者を決定し、人事院に応募しているが、省内公募により希望者を募集する府省もあった。このほか、当該府省において独自に留学制度を運営し、所管する行政の専門的な知識・技能を習得させるため、行政官長期在外研究員制度より短期間(1年間など)の派遣をしている府省もあった。研修修了後は、本人の意向にもできる限り配慮しつつ、国際関係業務や研究成果を活用できる技術開発等の業務に配置するようにしている場合が多い。また、成果報告会を実施し、留学での研究活動を通じて得た知見や経験等を広く府省内で共有することで、研究成果を今後の政策の企画・立案や各種業務等に積極的に活用する機会としている府省もあった。

さらに、行政研修(課長補佐級)国際コースへの参加については、要件を満たす者の中から意欲や語学力等を勘案して人選する府省が多いが、府省内で公募をした上で人選するという府省もあった。また、初任行政研修における大使館職員との英語での意見交換については、国内外を問わず様々な国際関係業務を担うために必要な国際感覚のかん養の必要性を自覚したり、他府省も含めた採用同期との研修を通じて自分のレベルを知り、刺激を受けたとの意見があった。

(5)国際関係業務についての職員の希望状況

各府省ともおおむね年一回、職員に対して、身上書に今後の人事に関する希望等を記載させ、面談で希望等を聴取しており、できるだけ本人の事情や希望に沿った配置ができるよう配慮している。また、海外勤務中を含め上司や人事当局が従前よりも頻繁に面談を行っているとする府省が多い。なお、国際関係業務に従事することを希望する職員の人数が増えている又は従前から多くいるとする府省が多い。一方、育児等の事情を抱える職員の多くは国際関係業務を希望しない傾向にあるとする府省が多いが、テレワークの活用等により育児を担う時期にも国際関係業務を行っている職員もいるとする府省もあった。

(6)人事管理上の課題

国際人材の確保・育成に関する人事管理上の課題として、以下のようなものが挙げられている。

まず、高い語学力等を備え、複雑・高度化する課題に対応できる人材の確保・育成が重要であるが、その際には中国等の新興国の情勢にも対応できる人材の育成にも留意するとともに、多忙な勤務環境の中でいかにして職員に国際人材を目指す意欲を維持させつつ、語学習得等の自己研さんの時間を確保させるかという課題が挙げられている。語学力は重要ではあるものの、所管行政の政策内容や仕事を進める上で必要な知識やスキルなどの「中身」も大切であるという声もあり、これらをバランス良く兼ね備えた人材の育成が求められよう。

また、国際人材として活躍していくためのキャリアパスを明確化するとともに、国際関係業務のポストを設置し、役職段階に応じて必要な経験を積ませることや適切に処遇していくことが重要である。各府省も海外留学や海外勤務から帰ってきた職員を関連する職務に配置するように努めているが、人事のタイミングやローテーションの問題で必ずしもそのような職務に配置できていない場合も見られ、中長期的な人材育成を行うための仕組みやロールモデルの確立が課題であるとしている府省も多くあった。さらに、国際人材を増やしたいが、予算や定員をいかに確保するかが課題であるとする声もあった。また、国内行政においても国際的な関わり合いが避けられなくなる中で、役職段階別研修などを通じて幅広く国際感覚のかん養に努めていきたいが、十分な対応ができていないという声もあった。

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