第1編 人事行政

第2部 グローバル社会を切り拓く国家公務員を育てるために

第3章 国際人材の確保・育成に向けた方策

第2節 国際人材の確保・育成に向けた人事院の支援

人事院は、各府省の計画的な人材確保・育成の支援、多様な研修機会の開発・提供、人材確保に向けて以下の取組を行うことに加え、公務組織の強化と職員の資質・能力の向上を促す人事管理が展開できるよう、公務の特殊性を踏まえたこれからの時代の人事管理について研究・発信していくこととしている。

(1)派遣研修の充実

派遣研修は、職員にとって語学力や専門的知識の習得に加え、派遣先国や他国の友人などとの交流を通じて得た異文化におけるものの考え方や多様性の理解、適応力、コミュニケーション能力などを含む様々な知見、能力等を向上させるなど、国際的業務を行う原点になり得る機会であり、国際人材育成の要とも言えるものである。引き続き駐日各国大使館、海外大学院等との連携を強化して、グローバル化に対応するため派遣先国の多様化、職員への情報提供等に取り組むとともに、各府省と連携し着実な運用を図ることとしていく。また、各府省における中長期的な人事計画に資するような派遣者数を実現できるよう、予算や定員の確保に向けて各府省への協力・連携に努めていくとともに、語学力の向上や実効性ある研究計画の策定などを促していく。

職員の留学後の離職防止を始めとする公務への還元の推進については、現在、各府省の人事担当者等に対し、帰国直後の配属先など帰国後の対応や派遣中の研究員と連絡を取り合うことの重要性など具体的な対策を共有し、全府省的に取り組んでいるところである。今後は各府省に対して、候補者を推薦する時点から、その職員の今後のキャリアについて中長期的な視点を持つことを促していくこととしたい。

また、派遣された職員が在外研究員としての自分の経験やその後も公務で活躍し続ける姿を次世代を担う後輩職員に伝えることは、後輩職員たちの高いモチベーションにつながると考えられ、その重要性についても派遣される職員に認識させることとしたい。人事院としては、あらゆる機会を捉え、派遣研修の意義を伝え、効果を高めるべく努めていく。

(2)行政研修等の充実

初任行政研修における国際化対応科目は、政策の企画・立案等に携わることが想定される幅広い職員を対象に国際感覚のかん養を図る内容となっており、また、英語による意見交換は語学力向上のインセンティブにもなっていることから、必要な改善を行いつつ引き続き実施する。

行政研修(課長補佐級)国際コースでは、在外公館における勤務経験や海外の大学院等での修学経験を有する職員を対象に、国際的業務に従事する上で必要な対外交渉力等の維持・向上を図っている。今後はより効果的な内容になるよう、駐日各国大使館等の協力も得ながら、各府省等の意見を踏まえて必要な改善を行う。

また、職員のキャリア形成については、職員の自律的なキャリア形成支援の観点から、平成30年度に新たに開発し、年数回実施している「キャリア開発セミナー30」や女性職員を対象として実施している「キャリアアップ研修」などにおいて、職員が自分自身のキャリアを振り返り、今後のキャリア形成を考える機会を引き続き提供していく。

(3)人材確保における取組

これまでも見てきたように、公務において国際的に活躍できる場面は拡大し、国内行政においても世界的な動向を考慮した業務が必要となっている。今後、技術の発達や経済の発展に伴い、このような傾向はますます強くなると考えられる。我が国の未来を担いグローバル社会を切り拓いていくことができる人材を継続的に確保していくため、グローバル社会で幅広く活躍する国家公務員の業務の魅力や派遣研修や行政研修等の取組状況を学生にもアピールすることにより、活躍する範囲の広い国家公務員の魅力を発信していく。また、民間企業等における有為な勤務経験等を有する者を係長以上の職へ採用する経験者採用試験について、各府省のニーズを踏まえながら必要に応じて拡充を図ることとする。

真のグローバル人材を目指して

住友林業株式会社 代表取締役 会長 市川 晃 氏

市川晃氏近影

人、物、お金、情報そして技術のグローバル化が進む中、世界や地域の持つ課題を共有しそれに対応するルール作りが進んでいます。EPAやFTAといった経済的連携のみならず、短期的な国益を超えたSDGsのような世界共通の目標に向けての様々な枠組みが生まれてきています。

このような動きを支え、リードしていく上で日本が果たすべき役割は大きく、多くのグローバル人材の育成が必要とされています。民間企業においてもグローバル人材の育成は重要テーマとなっていますが、私の考えるグローバル人材とは、ただ海外での勤務が長い人や語学が堪能な人のことを示しているのではありません。「真のグローバル人材」とは、自分と異なる多様な価値観を受け入れながら、きちんと自分の意見を主張し、創造的に考え行動できる人材。つまり多様性を受け入れるとともにしっかりとしたアイデンティティを持つ人のことだと思います。

弊社は近年、米国、オーストラリア、東南アジアで住宅事業を拡大しており、現地では多くの駐在員が活躍しています。我々が展開している住宅事業は、日本国内で建てている「住友林業の家」と同じものを海外で建築しているのではありません。住宅にはその国の様々な地域の文化や習慣、伝統が色濃く反映されています。例えば米国の戸建住宅はツーバイフォー工法をベースとする木造が基本ですが、地域によって気候や土地の条件が異なっているために、要求される機能だけでなく好まれるデザインにも違いがあります。そのような市場環境の中で我々が取り組んでいるのは、弊社グループが持つ建築資材のグローバルネットワークや住宅の設計思想、工程管理等の経験をもとに、現地パートナーとの率直な意見交換を通して、それぞれの地域に最適な住宅を提供することです。また、そのプロセスにおいて大切なことは日本のやり方を強要するのではなく、事業の根底をなす経営方針や家づくりの考え方をしっかり共有し、目指すものや方向性をすり合わせていくことです。

また、これらの事業進出している国、人、文化を我々が理解するだけでなく、現地のパートナーにも日本という国、人、文化を理解してもらう必要があります。一方的な価値観の押し付けでは持続可能な関係を築いていくことはできません。きちんとアイデンティティを確立した上で相手を受け入れることがグローバル化には不可欠であるということを、自社のビジネスを通じて実感しています。

世界との様々な関係を構築していくためには、我々は日本人として自分たちの歴史や文化、地勢的な特徴や取り巻く環境等を理解し、我々の価値観をしっかりと発信できるようにしておかねばならないと思います。

その上で相手を知り、相手の価値観を受け入れて双方が目指すべきものについて議論を重ねることが重要です。そしてその議論を支えるものは、「我々の行動は社会や人に役立つものでなければならない」という強い志であり、志を込めた言動はいつの時代であっても国や人種等を超えて伝わっていくものだと思います。

日本はこれからの国際社会の平和的発展に向けて大きな役割を担っていく存在です。皆様には「高い志を持つ真のグローバル人材」として、多様性に満ちかつ混沌とした世界の中で、日本の進路と国際社会をリードしていっていただきたいと心より期待しております。

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