第2編 国家公務員倫理審査会の業務

第1章 職員の倫理意識のかん養及び倫理的な組織風土の構築

1 職員の倫理意識のかん養

職員の倫理意識のかん養のためには、研修等の機会を通じた職員に対する定期的・継続的な意識啓発が不可欠である。このため倫理審査会は、各府省等の幹部職員や倫理事務担当者に対して所属職員への意識啓発の取組を促すとともに、各府省等における研修・啓発活動の企画・実施の支援、府省等横断的な研修・啓発活動の実施を行っている。令和元年度においては、以下の(1)~(3)の業務を実施した。

(1)各府省等における現状の把握及び取組の促進

各府省等における職員に対する倫理意識のかん養や倫理的な組織風土の構築に向けての取組状況や課題について把握するとともに、他府省の取組を共有し各府省等における今後の取組の参考にするため、各府省等において倫理保持について職員を指導すべき立場にある官房長等と倫理審査会委員との懇談会及び地方機関の長等と倫理審査会委員との懇談会を開催した。

また、本府省の倫理事務担当者等を対象とした会議などの機会において、倫理研修の定期的・計画的な実施要請、職員の職務に係る倫理の保持のための相談・通報の活用促進に関する指導・助言を行うとともに、併せて各府省等における倫理保持のための取組の参考となるよう、各府省等で実施された啓発活動や倫理的な組織風土の構築のための取組の具体例の共有等を行った。

さらに、倫理制度の周知徹底及び各府省等における倫理保持に係る取組の推進を目的として、本府省及び地方機関で実務を担う倫理事務担当者等を対象とした倫理制度説明会を全国10箇所において開催し、倫理制度全般、調査及び懲戒手続の留意点、各種報告書の審査方法等の説明を行った。特に、本府省の倫理事務担当者等を対象とした説明会においては、近年の違反事案の傾向を踏まえた防止策の提示を行うなど、より実践的な内容で実施した。

(2)各府省等が企画・実施する研修の支援

倫理審査会は、各府省等における研修・啓発活動の充実に資するよう、各種研修教材を制作・配布している。主として新規採用職員及び幹部職員への配布を念頭に、倫理制度の概要や法令が収録された小冊子「国家公務員倫理教本」を改訂し、各府省等へ配布するとともに、常時携帯可能な「国家公務員倫理カード」に各府省等それぞれの相談・通報窓口を記載し、全職員に対して配布した。また、各府省等におけるeラーニングに資する教材(自習研修教材)として、これまで一般職員用、課長補佐級職員用及び幹部職員用の3階層の教材を提供してきたが、令和元年度は幹部職員用の教材について、具体的な場面においてどのような行動や判断をするか、自身の倫理感を深く考えてもらう実践的な内容に中身を改訂した上で、各府省等へ配布した。さらに、若手職員や一般国民向けに倫理制度を広く理解してもらうために、新たにマンガ教材を作成し、職員に配布したほか倫理審査会ホームページ上に掲載した。マンガ教材には倫理規程の趣旨や内容を紹介するキャラクター「りんりん」を登場させ、今後の啓発活動に資するよう倫理審査会マスコットキャラクターとして、今後も研修教材等で活用していくこととしている。

これら教材の制作・配布のほか、倫理審査会では、各府省等からの要請に応じて、事務局職員を各府省等が実施する倫理研修に講師として派遣している。令和元年度は、各府省等における階層別研修など19機関延べ26コースに講師を派遣し、倫理制度の解説に加え、具体的なケースを用いた倫理制度に対する理解の浸透や相談・通報の仕組みの周知などを行った。また、一部の研修においては、具体的なケースを想定し参加者間で討議をさせることで、より当事者意識を持って考えるよう工夫を行った。


マンガ教材


マスコットキャラクター「りんりん」


研修・広報資料

(3)府省等横断的な研修・啓発活動の実施

ア 国家公務員倫理月間における啓発活動の実施

国家公務員の倫理意識の一層の高揚のため、平成14年度から毎年「国家公務員倫理週間」(12月1日から同月7日までの1週間)を実施している。令和元年度は、倫理審査会創立20周年の節目であること、昨今の公務員倫理をめぐる情勢等を踏まえ、12月の1か月間を「国家公務員倫理月間」とした。

令和元年度の国家公務員倫理月間では、倫理審査会会長から職員に向けたメッセージの発出や、東京・霞が関において各府省等に勤務する職員に加え、地方公務員や民間企業従業員等を対象とした倫理に関するシンポジウムを開催した。シンポジウムは2部制で開催し、第1部は文部科学省及び厚生労働省若手職員から、「若手職員が語る これからの公務組織のあり方」と題してプレゼンテーションを行った。第2部では、各界の有識者4名(原田久氏(立教大学法学部教授)、為末大氏(元陸上選手)、橋本五郎氏(読売新聞特別編集委員)、板東久美子氏(日本司法支援センター理事長))を招き、「信頼される国家公務員とは~これからの公務に対する期待~」と題したパネルディスカッションを行った。

また、各府省等に対しては、事務次官等の倫理監督官など組織の長による公務員倫理に関するメッセージの発信や幹部職・管理職員への直接の注意喚起、自習研修教材などを活用した公務員倫理研修の実施、相談・通報窓口の周知徹底などの要請を行った。

さらに、国家公務員倫理月間に際し、標語を募集したところ、6,666点の応募があった。応募作品から最優秀作品の選定に当たっては、倫理審査会において多様な視点から優れた20点の標語をまず選定した上で、各府省等の積極的な関与を促すため、各府省等にその中から良いと思われる標語へ投票を行っていただいた。各府省等による投票結果を踏まえ、倫理審査会において最終的に、最優秀作品1点(「信頼は あなたの倫理の 積み重ね」)及び優秀作品2点(「ありがとう もらってよいのは 感謝だけ」及び「いつも心に倫理の基準 守る自分が守られる」)を選定した。最優秀作品を用いて作成した啓発用ポスターやパンフレットについては、各府省等や地方公共団体、経済団体等に配布した。このうち、各府省等に配布した啓発用ポスターについては、標語選定のプロセスに各府省等に関わっていただいた経緯を活かして、最優秀作品の活用のみならず、各部局で独自に主体的に倫理に関するメッセージを発してもらいたいとの思いから、各自のメッセージを自由に記入できる欄をポスター右下に設けた。掲示場所の責任者が倫理に関するメッセージを記入した上で掲示するよう要請を行ったことで、実際に多くの府省等で現場責任者が工夫を凝らした様々なメッセージを書き込んだ。また、各府省等のほか、より多くの人の目に触れるよう東京駅や仙台駅、霞ヶ関駅など全国の主要駅に掲示した。

職員の倫理意識のかん養のためには、職員が倫理研修を定期的に受講することが重要であるが、職員に対するアンケート結果によると倫理研修を長期間又は一度も受講していない職員が一定数存在する。そこで、昨年度に引き続き令和元年度の国家公務員倫理月間に際して、eラーニングによる研修について、全職員を受講対象とすることや受講完了者の把握・未受講者への受講の督促を行うよう各府省等に対して要請した。

国家公務員倫理月間における取組の概要は、人事院月報2019年12月号、同2020年4月号に掲載した。


メッセージ欄を設けた啓発用ポスター


【メッセージの一例】


シンポジウムの様子

イ 公務員倫理セミナーの開催

各府省等の本府省以外に勤務する職員を主な対象として、公務員倫理についての意識高揚及び倫理制度の周知を図る公務員倫理セミナーを、つくば市、高松市、広島市及び福島市の4都市において開催した。公務員倫理セミナーでは、倫理審査会事務局職員から制度概要、違反の背景及び違反防止策に関する説明を行うとともに、有識者による公務員倫理に関する講演を行った。有識者による講演は、つくば市においては公認会計士・公認不正検査士の辻さちえ氏(演題:「不正・不祥事のリスクマネジメント~”あってはならないこと”から”予防と早期発見の取組”へ~」)、高松市においては高松市役所任期付職員・弁護士の伴野修一氏(演題:「職場における「コンプライアンス推進」のすすめ~不正・不祥事を予防するために我々ができること~」)、広島市においては広島大学学術院・大学院社会科学研究科リーディングプログラム機構教授の築達延征氏(演題:「組織文化・風土と不祥事との関係」)、福島市においては長島・大野・常松法律事務所弁護士の深水大輔氏(演題:「公務員のガバナンスとコンプライアンスについて-良好な職場環境の構築」)を講師として招いた。(参加者 つくば市:74人、高松市:74人、広島市:86人、福島市:121人、合計355人)

辻さちえ氏の講演概要は人事院月報2019年12月号、その他の有識者の講演概要は人事院月報2020年4月号に掲載した。

辻さちえ氏の講演の様子
辻さちえ氏
(公認会計士・公認不正検査士)
伴野修一氏の講演の様子
伴野修一氏
(高松市役所任期付職員・弁護士)
築達延征氏の講演の様子
築達延征氏
(広島大学学術院・大学院社会科学研究科リーディングプログラム機構教授)
深水大輔氏の講演の様子
深水大輔氏
(長島・大野・常松法律事務所弁護士)
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