第2編 国家公務員倫理審査会の業務

第1章 職員の倫理意識のかん養及び倫理的な組織風土の構築

3 公務員倫理に関する広報、意見聴取

公務員倫理に関しては、職員自身が襟を正すべきことは当然のことであるが、職員の仕事の相手方となる事業者等にも周知することは、職員・事業者双方にとって、円滑な業務運営に資するものとなることから、倫理審査会では事業者等への広報を行っている。また、倫理審査会では、倫理の保持のための施策の参考とするため、倫理制度や公務員倫理をめぐる諸問題について、各界から幅広く意見を聴取しており、また、各府省等の倫理法・倫理規程の運用実態、倫理法・倫理規程に対する要望等の把握に努めている。令和元年度においては、次の(1)~(3)の業務を実施した。

(1)事業者等への広報活動の実施

国家公務員と接触する機会のある事業者等に対して倫理法・倫理規程の周知及び理解の促進を図るため、全国の経済団体等に対し会員に対するパンフレットの配布、機関誌やウェブサイトへの公務員倫理に関する記事の掲載など、事業者等に対する広報活動への協力の依頼等を行った。この結果、合計115団体のウェブサイト、機関誌等に公務員倫理に関する記事が掲載された。

これに加えて、地方公共団体も国家公務員にとって利害関係者になり得るため、公務員倫理に関する広報資料を47都道府県、20政令指定都市を中心に全国の地方公共団体に配布し、国家公務員倫理に関する周知を要請した。

また、公務員倫理の制度について事業者等に知ってもらいたい内容を簡潔にまとめたリーフレットをカード形式に改訂し、事業者等に配布した。

(2)有識者との懇談会の開催

倫理審査会では、毎年、各界の有識者から、国家公務員の倫理保持の状況や倫理規制の在り方、倫理保持のための施策などについての意見聴取を行っている。令和元年度においては、東京都及び福岡市において、企業経営者、学識経験者、報道関係者など各界の有識者と倫理審査会の会長や委員との懇談会を開催した。

<有識者との懇談会における主な意見>

【東京都での懇談会】

  • ○ 倫理法施行以後、公務員は外部との関係において、国民からの不信を招く行為は絶対にしないように行動することが意識としてとても定着している。今後は、人材確保や人材育成を実現させながら、いかに高い倫理感を維持していくか、検討していくことも必要。
  • ○ 利害関係者との飲食は、業務上有益な情報収集手段の一つであるが、倫理規程で利害関係者との飲食を規制しても、実際のところ、情報収集等に影響がないと回答する職員が多いとのアンケート結果をみると、倫理規程の規制により、利害関係者との飲食に時間を費やすことがなくなったことの結果として、公私に割ける時間が増え、働き方改革につながっている部分もあるのではないか。単に倫理で締め付けるだけではなく、仕事のやり方を変えて新しい職場にしていく機会として考えてもよいのではないか。
  • ○ 統一の倫理行動規準とは別に、階層別で求められる倫理感は異なるのではないか。また、コンプライアンス教育を行う上で大事なのは、個別のルールよりもその前段階のビジョンを叩き込んで心に刻みつけることであり、これらは特に公務員には必要なのではないか。
  • ○ 真に相談・通報制度を機能させるためには、制度を工夫するだけでなく、相談の受け手に信頼できる人を配置することも必要である。加えて、組織のトップから、例えば「ウソをつくことはコストだ」といった不祥事防止に向けた分かりやすいメッセージを発信することや、民間企業の内部通報制度認証のように、まさにその取組に対して価値を付与するようなことが必要。

【福岡市での懇談会】

  • ○ 規制が強過ぎると、それに過剰反応して結局何もできないとか、ちょっとしたミスでも大問題になる可能性があるから黙っておこうというように、マイナスに働いてしまう面もある。公務員が過度に萎縮することなく国民の利益のために力を発揮できるよう、規制を整理しておくことが重要である。
  • ○ 倫理というのは、外発的・他律的な動機によって突発的に形成されるものではなく、内発的・自律的に、じわじわと醸成されるものである。つまり、倫理的行動というのは、本来は賞罰などの外圧的な制約ではなく、社会的期待とか、法律ではない道徳律により自らの内側の声に基づいてなされる行動のことと考える。
  • ○ 部下は、トップがどういう姿勢、意識で行動するかをよく見ており、トップの姿勢、考え方に従い行動する。倫理意識が高い者がトップであれば、部下は、不正なことをすると、次の人事異動で栄転できない、希望する部署に異動できないと考える。不祥事を抑制するためには、トップの姿勢、意識を部下に示し、人事権をきちんと機能させることが大切である。
  • ○ 「相談」と「通報」は全く仕組みが異なるが、「相談・通報」とセットで考えてしまうと誰も活用しない。きちんと分けて活用し、その旨職員に周知すべきと考える。また、相談事例を蓄積していき、相談者が特定されない形で相談内容を全員に周知し、全体で危機意識を共有することが重要である。

(3)アンケートの実施

倫理審査会では、倫理保持のための施策の企画等に活用するため、毎年、各種アンケートを実施している。令和元年度に実施したアンケート結果の概略は、次のとおりである。

・ 市民アンケート

国民各層から年齢・性別・地域等を考慮して抽出した1,000人を対象に令和元年10月に実施(WEB調査)

・ 職員アンケート

一般職の国家公務員のうち、本府省、地方機関の別、役職段階等を考慮して抽出した5,000人を対象に令和元年6月から7月にかけて実施(郵送調査。回答数4,172人(回答率83.4%))

ア 国家公務員の倫理感についての印象(市民・職員アンケート)[図1

「国家公務員の倫理感の印象」について質問したところ、好意的な見方をしている者(「倫理感が高い」又は「全体として倫理感が高いが、一部に低い者もいる」と回答した者)の割合は、市民アンケートでは51.0%、職員アンケートでは85.4%であった。一方、厳しい見方をしている者(「全体として倫理感が低いが、一部に高い者もいる」又は「倫理感が低い」と回答した者)の割合は、市民アンケートでは20.3%、職員アンケートでは2.8%であった。

図1 一般職の国家公務員の倫理感について、現在、どのような印象をお持ちですか。
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イ 近年の一般職の国家公務員の職務に係る倫理の保持の状況についての印象(市民アンケート)[図2

「近年の一般職の国家公務員の職務に係る倫理の保持の状況」について質問したところ、好意的な見方をしている者(「良くなっている」又は「少し良くなっている」と回答した者)の割合は、一般職の国家公務員全般については10.6%、幹部職員については6.0%であった。一方で、厳しい見方をしている者(「悪くなっている」又は「少し悪くなっている」と回答した者)の割合は、一般職の国家公務員全般について34.3%、幹部職員について46.2%であった。

図2 近年の一般職の国家公務員の職務に係る倫理の保持の状況をどのように思いますか。
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ウ 倫理規程で定められている行為規制に対する印象(市民・職員アンケート結果)[図3

「倫理規程で定められている行為規制の印象」について質問したところ、「妥当である」と回答した者の割合は、市民アンケートでは59.9%、職員アンケートでは67.8%であった。

また、「厳しい」又は「どちらかといえば厳しい」と回答した者の割合は、市民アンケートでは6.8%、職員アンケートでは28.6%であった。

一方、「どちらかといえば緩やかである」又は「緩やかである」と回答した者の割合は、市民アンケートが24.0%、職員アンケートでは2.2%であった。

図3 倫理規程で定められている行為規制の内容全般について、どのように思いますか。
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エ 倫理に関する研修の受講状況(職員アンケート)[図4

職員に対して、公務員倫理に関する研修等に最後に参加してからどのくらいの期間が経過しているか質問したところ、1年未満と回答した者の割合が83.8%、1年以上3年未満と回答した者の割合が10.3%であり、両者を合わせた割合は94.1%であり、前回のアンケート(平成30年度)と比べやや増加した。

図4 公務員倫理に関する研修等に最後に参加してからどのくらいの期間が経過していますか。
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オ 違反行為を見聞きした場合の行動(職員アンケート)[図5

職員に対して、同僚が倫理法・倫理規程に違反すると疑われる行為を行ったことを、もし、見聞きした場合に、どのように行動するか質問したところ、「上司など職場の他の職員に相談する」と回答した者の割合が70.1%、「所属組織や倫理審査会の相談・通報窓口に相談・確認する」と回答した者の割合が20.1%であり、何らかの行動をとるとの回答が約9割であった。

図5 あなたの同僚が倫理法・倫理規程に違反すると疑われる行為を行ったことを、もし、あなたが見聞きした場合に、どのように行動しますか。
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カ 違反行為を見聞きした場合に静観する理由(職員アンケート)[図6-1]、[図6-2

オの質問に対し「静観する」と回答した者に対し、「上司など職場の他の職員に相談する」又は「所属組織や倫理審査会の相談・通報窓口に相談・確認する」を選択しなかった理由を尋ねたところ、いずれも「同僚が違反行為をしていなかった場合に、本人や職場の他の職員に迷惑がかかるおそれがある」との回答の割合が最も高かった。

図6-1 「上司など職場の他の職員に相談する」を選択しなかった理由(複数回答)
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図6-2 「所属組織や倫理審査会の相談・通報窓口に相談・確認する」を選択しなかった理由(複数回答)
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