第1編 人事行政

第2部 公務職場の魅力と課題を考える~国家公務員の意識調査データを通して~

第3章 調査結果から見た公務職場の魅力と課題~公務職場の魅力と活力を高めるために~

第2節 公務職場の魅力と課題

4 成長実感や将来イメージ

平成28年度調査では、仕事のやりがいは、上司から挑戦しがいのある仕事を任され、納得して仕事に取り組み、自分が成長することで感じられるものであるとの結果が得られた。この点に関連する今回の質問項目の結果を見ると、「仕事の挑戦しがい」と「仕事を通じた成長実感」との間、「仕事を通じた成長実感」と「今の仕事のやりがいの実感」との間、「今の仕事のやりがいの実感」と「仕事におけるチャレンジ」との間は、いずれも中程度の相関が認められた。挑戦しがいのある仕事を通じて成長実感を得ることは、仕事のやりがいを感じることにつながり、さらに仕事のやりがいを感じることで新たな仕事にチャレンジするという好循環を生むとも言えよう。

このような好循環を生み出すためにも、人事担当部局や上司が、職員の能力・適性を把握し、職員の育成に対する考えを示すこと、自府省庁職員としての期待を伝えることなどが重要となる。この点に関連する質問項目である「キャリアに関する部下への助言」、「異動における適性・育成の考慮」、「自身の将来イメージ」はいずれも否定的な傾向であり、かつ、平成28年度調査よりも平均値が低いことが確認された。これらの質問項目について年齢別に見ると、20歳台前半層を除き、総じて否定的な傾向であった。

これらの結果を踏まえると、採用間もない者が多い20歳台前半までは、公務員として働く上でのアドバイスや育成の方向性などについて、上司等から助言・指導を受ける機会が多いものの、20歳台後半以降になると組織や上司から何を期待され、公務員としてどのように歩むべきかのアドバイスを十分受けられていない結果、自身の将来イメージを描きにくいと感じていることがうかがえる。

また、職業人としての成長や将来イメージに関連する質問項目として「人事評価の能力伸長への活用」があるが、全体的に否定的な傾向であり、年齢別で言えば30歳台の平均値が特に低い結果であった。人事評価の仕組みは、単に評価結果を把握するだけでなく、業務の振り返りや評価者との面談などを通じて、職員自身が「強み」、「弱み」を把握し、「強み」を伸ばし、「弱み」を改善する機会でもある。今回の意識調査では、人事評価の仕組みと能力伸長とが結び付いていないと感じている者が多いことが確認できた。

(対応方策)

職員が成長実感を抱いたり、将来イメージを持つには、日々の業務や研修等を通じて職員自身が自ら考え、行動に移していくことが重要であることは言うまでもないが、上司や組織による支援も不可欠である。

職場の上司としては、部下との間で日常的なコミュニケーションを取りやすい環境作りを行い、心理的安全性を保つとともに、人事評価の面談を含め、日頃から様々な機会において部下の意欲を引き出し、職業人として今後どのような方向に向かうべきかを考えるきっかけを与える取組が必要である。部下が自らのキャリアデザインに取り組み、上司が部下のキャリア形成を支援する際に「キャリアシート」を活用する取組も有効であると考えられるが、実効的な支援とするためには、上司自身がキャリアシートの内容や活用方法を十分理解する必要がある。その観点からも、人事担当部局は、上司が部下のキャリア形成支援を行うに当たってのサポートを丁寧に行うことが不可欠である。

キャリア形成支援の取組としては、人事院も、近年のキャリア形成に対する意識の高まりを踏まえ、30歳台の係長級の職員を対象にキャリア開発に係るセミナーを実施している。本セミナーは、参加者自身の職業生活を振り返り、仕事に対する自身の考えを整理するとともに、他の参加者との議論も踏まえ、今後の仕事への向き合い方やキャリア形成を考える契機としており、令和3年度は60人程度の職員の参加を見込んでいる。個々の職員が自身のキャリア形成をより意識し実践に移せるよう、このようなセミナーを充実していくとともに、部下を持つ職員に対しては、部下のキャリア形成をどう支援していけば良いかをサポートする内容を、階層別研修やテーマ別研修等に積極的に盛り込んでいくことが考えられる。

また、各府省庁において職業人としての振り返りや将来像を描く機会を充実させるため、メンターやキャリア形成支援の取組を担う職員を積極的に養成し、その活動の場を広げていくことが考えられる。メンターについては、採用間もない職員がサポートを受ける取組が主眼となっているが、今回の意識調査の結果を見ても、20歳台後半以降の職員も自身の進むべき方向性について助言等を求めていることがうかがえることから、メンターによるサポートを受ける職員を拡充することも考えられる。また、人事院が実施している各府省庁横断的な研修等において、これまでも参加する研修員同士の意見交換の場を設けてきたが、このような府省庁横断的な人的交流の場を活用し、研修員同士が課題や悩みを語り合う場を今後も積極的に設けることも考えられる。

【コラム】キャリア形成に対する若手職員の意識

今回の意識調査において、キャリア形成に対する若手職員の意識を探るべく、新しい分野における知識・スキルの必要性を感じることがあるか尋ねたところ、20歳台、30歳台では9割に近い職員が「必要性を感じる」と回答した。

人事院が平成29年度の年次報告書第1編第2部において行った意識調査では、30歳台の職員の約8割が自分の適性や将来のキャリア形成等について、「よく考える」又は「たまに考える」と回答しており、内閣府が平成29年度に16歳から29歳までの国民を対象に実施した「子供・若者の意識に関する調査」によれば、より良い仕事に就くために、就職後、学校や専門の機関、各種スクールなどで学びを続けられるのであれば希望するかどうかとの問いに対して、8割近くが「希望する」又は「条件が整えば、希望する」を回答している。

これらの調査結果から、若手職員や若者は、学ぶことを欲しており、職業人としての自らの成長に対して高い関心を持っていることがうかがえる。学びに対する支援やキャリア形成への取組が充実していることは、その組織に対する魅力にもつながっているとも言え、この点をPRしていくことは人材確保においても重要になると言えよう。

【コラム】研修受講に対する職員の意識

能力伸長の取組に対する意識に関し、今回、希望に沿った研修を受講できていると感じているかについて聴取している。その結果を見ると、年齢別では20歳台後半以降の層で、職制段階別では課長級までの層で、総じて否定的な傾向が見られた。約2割の回答者(11,665人)が、自分自身の希望に沿った研修を受講できていないと回答しており、その理由を尋ねたところ(複数回答可)、「業務多忙」が最も多く、次いで「受講したい研修が実施されていない」となっており、いずれも4割超の回答割合であった。

表3-3 研修を受講できていない理由
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研修に参加するための時間を確保する観点からも、職員自身による業務の仕分け、上司による効果的な業務マネジメントが求められる。また、「受講したい研修が実施されていない」との声があることに対しては、まずは各府省庁において、職員がどのような研修・育成プログラムを望んでいるのか具体的なニーズを把握することが必要となろう。研修・育成プログラムを実施する側も、どのような人的・予算的な投資ができるのか、職員のニーズとの兼ね合いで検討し、必要な資源を確保し、プログラムを実施していくことが不可欠となる。

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