第2編 《国家公務員倫理審査会の業務》

第1章 倫理の保持を図るための啓発活動等

4 倫理制度に関する意見聴取

倫理審査会では、倫理の保持のための施策の参考とするため、倫理制度や公務員倫理をめぐる諸問題について、各界から幅広く意見を聴取しており、また、各府省等における倫理法・倫理規程の運用実態、倫理法・倫理規程に対する要望等の把握に努めている。

(1)有識者との懇談会等

倫理審査会では、毎年、各界の有識者から、国家公務員の倫理保持の状況や倫理規制の在り方、倫理保持のための施策などについての意見聴取を行っている。平成27年度においては、東京都及び名古屋市において、企業経営者、学識経験者、報道関係者、地方公共団体の長といった各界の有識者と倫理審査会の会長や委員との懇談会を開催した。また、前述のとおり各府省の官房長や地方機関の長等との懇談会を開催し、各府省における倫理法・倫理規程の運用状況や業務への影響、倫理法・倫理規程に対する要望事項などを聴取した。

<有識者との懇談会における主な意見>

【東京都での懇談会】

  • 公務員は、自分の職務に対して非常に忠実であり、倫理法の制定前も含めてとても高い倫理感を持っている。そのような中で公務員の不祥事が起きると大きく報道されるのは、それだけ世の中の目が厳しく、注目も浴びるということで、公務員の宿命であると思う。

  • 企業におけるコンプライアンスでは、「今やろうとしていることを家に帰って子どもに話せるか」というシンプルな基準が用いられている。公務においても、誇りや使命感、国民の信頼といったものから自然に生じてくるものが公務員倫理の本質であって、誰かに強制されて仕方なくやるものではない。公務員に対する不信感を前提としてルールでがんじがらめに縛るという発想はやめた方がよい。

  • 現在の公務員の倫理感が高いことの背景には、倫理法・倫理規程の存在がある。しかし、倫理法制定時とは異なり、ITやインターネットの環境が激変して情報が瞬時に広まるようになり、また、様々な仕事が細分化・複雑化・専門化して、情報を収集し、分析し、国の仕事にいかしていくことが大変になってきている。それにもかかわらず、倫理法・倫理規程に基づく報告や届出に時間を割かれ、本来すべき仕事ができないというのであれば、本末転倒である。

  • 実際に倫理的な問題が生じ得る局面に置かれたときには、様々なプレッシャーがあり、複雑な事情が絡んでいるものである。研修では、制度を理解させることにとどまらず、具体的事例についてのディスカッションなどを行わないと、実際の局面での判断にいかすことが難しい。

  • 国家公務員は国のために働いているという意識を自らが持つことができるような環境作りをする必要がある。例えば、我々のありたい姿とはどのようなものか、そのために仕事のやり方をどう変えていくべきか、国益のために公務員としてどのような行動をすればよいかということを自分で考えさせることが求められる。そのような取組をトップダウンで動かし始め、ボトムアップでムーブメントを起こすことで、やらされ感のある倫理的組織風土ではなく、プロアクティブな倫理的組織風土が生まれるのではないか。

【名古屋市での懇談会】

  • ここ数年の倫理法等違反による懲戒処分等の状況は安定しており、倫理法の適用職員数と比べて被処分者数は決して多くなく、現在、公務員倫理に関して問題があるとは思わない。しかし、民間では飲食を共にする機会が多い業界もあり、そのような業界と接する際に職員は注意が必要である。

  • ビジネスでは成果を最終的に数字で評価できるため、コンプライアンスの遵守を前提として行動する中で、それが日々の活動を制約するということはなく、遵守したことが必ず成果として現れる。他方、公務員の仕事は究極のサービス業であり、成果がなかなか数字に現れないので、自分がコンプライアンスを遵守したことが評価されにくく、難しい部分があるのではないか。

  • 人は間違いを犯す、組織は放っておけば淀むということを率直に認識した上でどうするかが肝心である。人事異動を適切に行って組織の風通しを良くすることなどにより、組織の淀みをどれだけ見付け出せるかが、組織を守る基礎である。

  • 通報制度については、軸足をどこに置くかが重要である。国民の方に軸足を置いていれば、「国民のためにならないことは通報しなければならない」という意識になる。他方、組織に軸足を置いていると、「組織の不祥事は外部に明らかにしない方がよい」ということになってしまう。通報制度について「密告」などといったマイナスイメージを持っている職員もいるとのことだが、「密告」という言葉は、自分たちの組織を守る立場に立った場合の言葉であり、国民の方に軸足を移す必要がある。

(2)各種アンケート結果

倫理審査会では、倫理保持のための施策の企画等に活用するため、例年、各種アンケートを実施している。平成27年度におけるその結果の概略は、次のとおりである。

・市民アンケート

国民各層から年齢・性別・地域等を考慮して抽出した1,000人を対象に平成27年11月に実施(WEB調査)

・有識者モニターアンケート

倫理審査会が公務員倫理モニターとして委嘱した各界の有識者200人(企業経営者、学識経験者、マスコミ関係者、地方公共団体の長、労働団体関係者、市民団体関係者、弁護士等)を対象に平成27年11月から12月にかけて実施(郵送調査。回答数191人(回答率95.5%))

・民間企業アンケート

東京、名古屋各証券取引所(1部、2部)上場企業2,500社を対象に平成27年6月に実施(郵送調査。回答数750社(回答率30.0%))

・職員アンケート

一般職の国家公務員のうち、本府省、地方機関の別、役職段階等を考慮して抽出した5,000人を対象に平成27年6月に実施(郵送調査。回答数4,424人(回答率88.5%))

ア 国家公務員の倫理感についての印象(市民・有識者モニター・民間企業・職員アンケート結果)[図1

「国家公務員の倫理感の印象」について質問したところ、好意的な見方をしている者(「倫理感が高い」又は「全体として倫理感が高いが、一部に低い者もいる」と回答した者)の割合は、市民アンケートでは46.9%、有識者モニターアンケートでは80.9%、民間企業アンケートでは70.0%、職員アンケートでは85.9%であった。一方、厳しい見方をしている者(「全体として倫理感が低いが、一部に高い者もいる」又は「倫理感が低い」と回答した者)の割合は、市民アンケートでは22.6%、有識者モニターアンケートでは4.3%、民間企業アンケートでは5.1%、職員アンケートでは2.5%であった。

好意的な見方をしている者の割合は、昨年と同様、職員アンケート、有識者モニターアンケート、民間企業アンケート、市民アンケートの順で高い結果であったが、前回のアンケート(平成26年度)と比較すると、市民アンケート及び有識者モニターアンケートにおいて、好意的な見方をしている者の割合が微減した。

図1 一般職の国家公務員の倫理感について、現在、どのような印象をお持ちですか。
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イ 倫理規程で定められている行為規制に対する印象(市民・有識者モニター・民間企業・職員アンケート結果)[図2

「倫理規程で定められている行為規制の印象」について質問したところ、「妥当である」と回答した者の割合は、市民アンケートでは62.8%、有識者モニターアンケートでは70.7%、民間企業アンケートでは79.0%、職員アンケートでは72.0%であった。

また、「厳しい」又は「どちらかといえば厳しい」と回答した者の割合は、有識者モニターアンケートが27.7%と最も高く、次いで職員アンケート(23.3%)、民間企業アンケート(14.0%)、市民アンケート(9.6%)の順となった。一方、「どちらかといえば緩やかである」又は「緩やかである」と回答した者の割合は、市民アンケートが18.9%と最も高く、次いで、民間企業アンケート(4.7%)、職員アンケート(3.2%)、有識者モニターアンケート(1.6%)という結果となった。

前回のアンケート(平成26年度)と比較すると、市民アンケートにおいて、「厳しい」又は「どちらかといえば厳しい」と回答した者の割合が4ポイント程度低下した。

図2 倫理規程で定められている行為規制の内容全般について、どのように思いますか。
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ウ 行政と民間企業等との間の情報収集等への支障(市民・有識者モニター・民間企業・職員アンケート結果)[図3

「倫理法・倫理規程があるため、職務に必要な行政と民間企業等との間の情報収集、意見交換等に支障が生じていると思うか」について質問したところ、いずれのアンケートにおいても、「あまりそう思わない」又は「そう思わない」と回答した者の割合(市民アンケート58.7%、有識者モニターアンケート61.8%、民間企業アンケート76.6%、職員アンケート56.7%)が、「そう思う」又は「ある程度そう思う」と回答した者の割合(市民アンケート26.7%、有識者モニターアンケート35.6%、民間企業アンケート13.7%、職員アンケート31.2%)を大きく上回る結果となった。この傾向は例年と同様であった。

図3 現在、倫理法・倫理規程があるため、職務に必要な行政と民間企業等との間の情報収集、意見交換等に支障が生じていると思いますか。
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エ 倫理に関する研修の受講状況(職員アンケート)[図4

職員に対して、公務員倫理に関する内容がカリキュラムに組み込まれている研修等に最後に参加してからどのくらいの期間が経過しているか質問したところ、1年未満と回答した者の割合が68.1%、1年以上3年未満と回答した者の割合が18.0%であり、両者を合わせた割合は前回のアンケート(平成26年度)よりも2.5ポイント向上した。

一方、5年以上と回答した者の割合が6.5%、一度も受講したことがないと回答した者の割合が2.1%と、長期間受講していない又は一度も受講したことがない職員が依然として一定程度いる。

図4 あなたが公務員倫理に関する研修等に最後に参加してからどのくらいの期間が経過していますか。なお、ここでいう「研修等」には、公務員倫理に関する内容がカリキュラムの一部に組み込まれているもの、自習研修教材やセルフチェックシート等を使用してeラーニング等により職員が個別に受講するもの、説明会、講演会、DVD教材の視聴等を含みます。
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オ 通報窓口の認知度(職員アンケート)[図5

職員に対して、通報窓口を知っているかについて質問したところ、所属府省等の通報窓口及び倫理審査会の通報窓口(公務員倫理ホットライン)の両方又はいずれかを知っていた者の割合は84.9%、公務員倫理ホットラインを知っていた者の割合は65.3%であり、前回のアンケート(平成26年度)よりも改善傾向にあった。

図5 倫理法・倫理規程に関する通報窓口には、各府省等のもの(他の通報制度と一体となっているものを含みます。)と倫理審査会のもの(公務員倫理ホットライン)とがありますが、このアンケートが届く前にこれらが設けられていることを御存知でしたか。(電話番号まで知らなくとも、通報窓口が設けられていることだけでも知っていれば「知っていた」ものとしてお答えください。)
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このような各種アンケートは、国家公務員の倫理感や倫理規程に定められた行為規制などに対する各方面の印象や見方など、公務員倫理をめぐる状況の的確な把握に資するものであり、倫理審査会としては、今後とも継続的にアンケートを実施し、今後の倫理保持のための施策の企画等に活用していくこととする。

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