第1編 《人事行政》

【第2部】 次世代の行政の中核を担う30代職員の育成と公務全体の活性化 ~意識調査を通じて課題と対策を探る~

第3章 課題と対応の考察

第2節 対応の考察

2 キャリア形成面の対応 ~職員の多様なキャリア実現を通じた公務能率及び専門性の向上~

(1)職員による自らの適性の見極めとキャリア形成イメージの確立

職員自身が自己の適性や今後のキャリア形成について考える機会を確保するとともに、組織として必要とする能力・専門性の部内への開示等、キャリア形成の参考となり得る情報の提供、さらには、組織として必要な能力・専門性ごとに研修や経験付与等を通じた育成策を構築するなど、職員が必要な能力開発を行うに当たっての支援を充実させていくことが必要である。

既に一部の府省では、管理職員層の職員が若手職員に対しこれまでの経験を語る場の導入、省内研修の中でのキャリア形成に関するカリキュラムの導入、業務遂行のための能力向上研修の充実等の取組を始めるなどしており、これらを参考に、今後、各府省において取組を進めることが期待される。

人事院においても、平成30年度には、職員のキャリア形成に関する不安の解消を図り職務や能力開発への意欲を高めることを目的とした新たな研修を試行的に実施することとしている。各府省での職員のキャリア形成を後押しするため、今回の30代職員調査の結果も踏まえカリキュラム等を更に検討し、効果的な研修の実施に努めていく。

○ 民間企業等における取組例

キャリア形成支援の取組の一環として、社内公募の枠組みを設けている企業は多くみられる。ある企業では、社内公募に応募した社員に対しては、必ず面談を行うこととし、採用とならない場合でも、募集を行ったポジションに必要となるスキルやこうした方がよいという助言を伝えることによって、当該公募の場自体もキャリア形成支援の一つのツールとして利用されている。

また、別の企業では、縦軸に「土台形成期」「強み形成期」「強み深化期」の3つの区分、横軸に具体の部門を記載した表のマス目に、該当する社員像や必要な能力を記したキャリアマップを作成し、既に自身の希望するキャリアが明確な社員に対しては、そのキャリアを目指すためにはどのような能力が必要なのかを明らかにするとともに、未だキャリアが定まっていない社員に対しては、どのようなキャリアがあるのかを明らかにしている。

そのほか、地方自治体においては、職員各人のキャリアプランが異なることに着目し、職員の応募型研修を多く設けるとともに、各人が目標とするキャリアを目指すためにはどのような研修を受講すればよいのかが一目で分かるよう、研修体系を一覧表の形で整理し、イントラネットに掲示するなどして「見える化」する例がみられた。その地方自治体では、キャリアについて具体的なイメージがない職員がキャリアを考える契機とすることを目的として、結婚等のライフイベントの平均的なタイミングの前である26歳及び27歳の職員に対象者を限定した研修を導入し、好評を得ているとのことであった。

(2)適性やキャリア形成についての相談等の機会の拡充

30代職員調査からは、キャリア形成に関する人事当局への相談・希望の伝達機会は将来への不安の解消につながり得るものであり、一方でそのような機会は少ないと感じている30代職員が多いという結果がみられた。

職員の配置については、1(2)で本人の適性への配慮について述べたところであるが、キャリア形成の観点からも、(1)の取組と組み合わせながら、まずは、各職員の中長期的なキャリア形成の希望を人事当局が聴取・把握し、あわせて、人事当局からも職員に対して期待や成長に向けた課題等を共有するコミュニケーションをより密に図っていくことが重要と考えられる。

一部の府省では、職員からの施策提案を受け付けた上で、必要に応じて、その実現に向けた人事異動を行う、管理職ポストや特定の施策を遂行するポストについて省内公募を行うといった取組を行っているところもあり、こうした取組も参考に、可能な範囲で、職員の意欲を人事においてより重視する施策を導入することも考えられる。

(3)部下のキャリア形成への上司の関与の強化

30代職員、課長級職員とも、キャリア形成への上司の関与をそれほど重視していない理由としては、従来から、国家公務員の人事異動は人事当局主導で行われていること、また、管理職員自身も様々な業務を抱えており、部下の指導等に必ずしも十分な時間を割けないことが考えられる。

しかし、職員のキャリア形成に関する意向が多様化している状況においては、当該職員と日々身近に接して指導を行う上司の果たす役割の重要性は一層高まっている。今後は、人事当局だけではなく、管理職員も、業務の効率化等で時間を確保しつつ、部下職員のキャリア形成についての意識を高め、積極的に関与していく必要があり、各府省の人事当局においても、その指導やサポートをしていくことが期待される。人事院においても、役職段階別の府省合同研修やテーマ別研修等において、引き続き、部下の育成やキャリア形成支援の重要性について意識啓発に努めていく。

なお、職員が自らの能力開発・専門性習得等のキャリア形成について主体的に考えていくための契機としては、人事当局の一定の関与の下、先輩職員が後輩職員に助言等の支援を行う「メンター制度」も有効である。人事院では、平成30年2月に「メンター制度実施の手引き」(人材局企画課長通知)を発出したところであり、引き続き部下の育成や今後のキャリア形成、仕事と家庭の両立など職業生活に係る幅広い支援のために活用できるものとして各府省に周知していく。

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